地球温暖化は起きているのか?


国際環境経済研究所理事・主席研究員

印刷用ページ

 地球温暖化、気候変動問題が取り上げられるようになって久しいものの、この問題に懐疑的な方が多いのも事実です。「気候変動問題など起きていない。科学者のねつ造である」、あるいは、「気候変動は生じているがそれは地球の『バイオリズム』であり、人間活動の影響ではない」「太陽の黒点の活動が温暖化の原因」という論を聞くことも多くあります。
 日本の科学者の方にも気候変動問題疑問を呈している方もいますし、アメリカのある世論調査によれば、米国民の多くが気候変動問題を「大した問題とは感じていない」と認識しているという結果もでています。本年3月に行われた最新の調査では、「大きな問題である」と感じている人の割合が55%から64%に急増し、否定的な人の割合は45%から36%に急落しているとされていますが、こうした国民の意識調査はグラフを見ても明らかな通り、大きな自然災害があるとそれに影響を受けるもので、2010年代に暖冬が多かったことによると言えるでしょう。

図1出典:The Huffington Post注1)03/18/2016 02:25 pm 14:25:46
“Americans Finally Realize That We Cause Climate Change.
And even Republicans are getting worried.”
[拡大画像表示]

 しかし科学者の見解としては、気候変動問題が起きていること、そしてそれが人為的な活動の結果であることについてはほぼ議論が一致しています。「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」という気候変動問題に関する世界的な専門家グループ(詳細は後ほどご説明します)の最新のレポートによれば、

世界平均地上気温は、1880~2012年において、0.85℃上昇。最近30年間の各10年間の数値は1850年以降のいずれの10年間よりも高い。
図2出典) AR5 WG1 SPM, Figure SPM.1 a)[拡大画像表示]
人間活動が20世紀半ば以降に観測された温暖化の主な要因であった可能性が極めて高い(95%以上)
*なお、以前のレポートでは90%以上の確率と表現されていました。

となっています。地球の気温が上昇していること、そしてその原因が人間活動にあることはほぼ間違いが無いとされています。どのようなメカニズムでこうした問題が起きるのでしょうか。

○気候変動問題の概要

 温室効果ガスと呼ばれる二酸化炭素、メタンガスなどが赤外線を吸収する性質があることは実験室では知られていましたが、1970年代までは地球は冷却化しているとの見方が主流でした。例えば、立花隆氏は、処女作「エコロジー的思考のすすめ」(1971年刊)のなかで、大気汚染による地球の冷却化を懸念しています。70年代には地球は小氷河期に向かっていると多くの人が信じていました。
 しかし、1980年代になり、化石燃料の消費増によって、二酸化炭素などの温室効果ガスが増え、地球の表面で反射された赤外線をそれまでよりも多く吸収することで、地球の気温が上昇しているのではとの指摘がなされるようになりました。

 自然にももちろん水蒸気(H2O)やCO2、メタンなどの温室効果ガスは存在します。これらの温室効果ガスがないとすれば、地球の平均気温はマイナス19度になると想定されています注2)が、温室効果ガスのおかげで14度程度のマイルドな気候に保たれてきたのです。
 しかし、人間が多くの化石燃料を燃やしてエネルギーとして活用し、多くのCO2を排出したことやメタン、亜酸化窒素、フロン等が排出されたことで、温室効果が強まりすぎ、地球環境に影響を与えていると考えられています。これが気候変動の概要です。
 ただ、気候変動問題の科学は実験室で証明できるものでもなく、また学問としての歴史も浅いため、議論が収束していないことが多くあるのも事実です。

 気温の上昇だけでなく、干ばつや異常乾燥、洪水や集中豪雨など様々な自然現象を引き起こすので、問題を全体的に表現するときには「気候変動」(英語ではClimate Change)という言葉を使います。国連で採択された条約の名称も「気候変動枠組み条約」(United Nations Framework Convention on Climate Change)となっています。

○議論の経緯

 アメリカが猛暑と旱魃に襲われた1988年、NASAゴダード宇宙研究所のジェームズ・ハンセン所長が「猛暑の原因は地球温暖化によるもの」と米国上院議会で証言したこと、IPCCが、国連機関により設立され、温暖化に警告を発する内容の報告書を1990年にまとめたことなどから一気に地球温暖化問題が認知されるようになりました。ちょうど米ソ冷戦が終了し、環境問題という新たな敵に世界一丸となって対処すべきという雰囲気の高まりもあり、1992年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された「地球サミット」(正式名称は「環境と開発に関する国際連合会議」)で「気候変動に関する国際連合枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change)」(以下、気候変動枠組み条約)が採択されました。
 ちなみに、地球サミットで採択された「気候変動枠組み条約」と「生物の多様性に関する条約(Convention on Biological Diversity)」をあわせて、双子の環境条約と表現することもあります。それ以降、気候変動問題に対して加速度的に注目度が高まった訳ですが、研究の歴史としてはまだ浅いこと、また、実験ができない地球規模の問題だけに誰も証明できないことから、様々な意見が出ることは当然と言えるでしょう。
 冒頭で、気候変動が起きていること、その原因が人為的活動にあると考えていることについては科学者の意見はほぼ統一されているとご紹介しましたが、例えば、温室効果ガスがどれだけ増えれば地球の温度がどれだけあがるか、といった重要な要素においては、まだ科学者の統一した見解がないのはそうした理由によります。

○IPCCとは

 気候変動問題に関する世界的な専門家グループである「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」とはいったいどのような存在なのでしょうか。
 IPCCは、気候変動に関する最新の科学的知見の評価を行う目的で、1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画 (UNEP)によって設立されました注3)。「政府間パネル」という名前からわかる通り、参加する主体は各国の政府であり、現在は195か国が加盟しています。
 気候変動に関する科学的・技術的・社会経済的な知見の包括的レビュー結果等を政策決定者等に提供することが役割注4)とされており、数年ごとに「評価報告書」を発表しています。
ここで重要なことは、「科学的知見を政策決定者に提供する」ことがIPCCのミッションであり、何らかの判断や決定を下すことはしない、あくまで政策中立でなければならないということです。
 相応の科学的根拠を持つ対立見解がある場合には、両論併記が基本であり、必要があれば不確実性の幅なども示されるのです。IPCCはこれまで蓄積された研究結果を評価して、取りまとめる組織であって独自の研究を行う訳ではありません。「Assessment Report(評価報告書)」という名前がそのミッションを端的に表しています。
 2014年11月にIPCCが最新となる第5次評価報告書を発表した際には、多くのメディアが「『温暖化ガス排出ゼロに』、IPCCの報告書、今世紀末までの達成訴え」、「IPCC報告書:温暖化、30年で許容上限、迅速対応迫る」と報じました注5)。しかし、IPCCが何かを訴えたり対応を迫ったりということはありません。
 IPCCの組織構成やその信頼を揺るがせた大事件についてはまた、別途解説したいと思います。

注1)
http://www.huffingtonpost.com/entry/climate-change-caused-by-humans-poll_us_56ec27f9e4b09bf44a9d164c
注2)
気象庁HP http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/p03.html
注3)
気象庁HP http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/index.html
注4)
1988年国連総会決議、2012年 IPCC総会 採択文書等
注5)
http://www.sankeibiz.jp/express/news/141103/exd1411030002002-n1.htm
あるいは
http://mainichi.jp/graph/2014/11/03/20141103k0000m040066000c/001.html
など。

記事全文(PDF)