オバマ政権の環境・エネルギー政策(その18)

ケリーによる2度目の法案提出


環境政策アナリスト

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 こうした動きの次に出てきたのが、温室効果ガス排出規制(Tailoring rule)である。本格的にオバマ大統領はキャップ&トレードによる法案が廃案になったことを受け、環境保護庁の規制権限を用いた温室効果ガスの排出規制に乗り出したものである。これまで燃費効率基準を厳しくする規制はオバマ大統領のもとすでに出されていたが、ここでは規制対象施設に、入手可能な最適技術(best available technology)を適用することを義務付け、温室効果ガスの排出削減を狙っている。規制の施行は第一段階2011年1月からすでに操業許可を得ていても年間温室効果ガス排出量が75,000トン以上の排出増加をもたらす固定発生源を対象、第二段階2012年7月からは年間10万トン排出増加をもたらす固定発生源を規制対象に含むこととした。2013年から2016年を第三段階などと性急なスケジュールとなっていたが、環境保護庁はマサチューセッツ州vs環境保護庁最高裁判決に起因する権限としている

矢継ぎ早に規制を繰り出す環境保護庁ジャクソン長官 後任マッカーシー長官任命滞る

環境保護庁による発電所排出規制~天然ガスコンバインドガス火力を想定

 上記環境保護庁による温室効果ガス排出規制に基づき、2012年3月新設石炭火力への二酸化炭素原単位規制が発表された。大気汚染浄化法で言うNew Source Performance Standard(NSPS)を環境保護庁はそれまでも何度か定義してきたが、これが曖昧であると電力会社からの訴訟を受けることになり、これまでほとんどNSPSを具体化することに成功してこなかった。こういう過去に鑑みて、今回は環境保護庁は原単位を示した。最終ルールはまだ示されていないが、現行提案(2012年4月)は1ポンドCO2/kWh(453g/kWh)という数字である。これは天然ガスコンバインドガス火力の原単位と同じである。これまで環境保護庁は技術を明示することはしてこなかった。今回は技術を明示しないものの数値によって技術を事実上指定するという考え方を出してきた。また、当面は石炭火力も認めるもののCCS(炭素回収・貯蔵)取り付けを前提とするとしている。こうした規制は、シェールガス革命で一層促進が想定される天然ガス火力を事実上促進することになる。2013年4月規制を最終決定する予定であったが、延期された後、パブコメを受けて一部変更されて9月最終案が発表された。大規模新設石炭火力の排出制限を1ポンドCO2/kWh、小規模新設石炭火力を1.1ポンドCO2/kWhとした点程度の違いで大きな変更はない。
 さて環境保護庁が矢継ぎ早に出してきた上記の各種規制に対して議会(特に共和党)は対抗措置をとろうとしている。議会は、そもそも環境保護庁の規制権限自体を制約する法案を提出した。(下院では4月に法案成立、上院では不成立)。背景にある産業界ロビーの動きをみる。もともと東部の電力会社は石炭から天然ガスへのシフトを指向しており、経済性の観点から燃料転換(老朽石炭火力の退役、天然ガス新設または焚き増し)が市場ベースで進むようであればそれほどの大きな影響もないかも知れないが、石炭火力のオプションを捨てたくない電力会社(AEP、サザンカンパニー、ミッドアメリカン)は強く抵抗し、天然ガスを指向する クリーンエナジーグループ(PG&E, PSEG, Exelonなど)と対立し、エジソン電気協会は調整に苦慮することになっている。石炭系のACCCE(American Coalition for Clean Coal Electricity)などのロビー団体は猛反発し、このまま環境保護庁の打ち出した規制案が最終案になるようだと訴訟が多発するのは必至である。民間からの批判の中には、石炭火力についてはCCSを設置することを要求することに対して、CCSはまだ現状存在しない技術を前提とした規制であると猛反発をしている。

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