ヘルム教授との対話


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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2020年以降の枠組みについては、マルチ、バイ、リージョナル等が併存する多層的なものになるだろう。京都議定書的なものは全く機能しない。国際交渉は「合意」が目的なので、何らかの合意はなされるだろうが、問題はその合意にどの程度の意味があるかだ。
2020年以降の枠組みでも、2030年、2050年についての目標を設定するだろうが、それは法的拘束力を有するものではなく、aspirationalなものになる。国連はショーケース的な役割を果たせばよい。
再生可能エネルギーに偏重した政策も是正され、原子力、高効率火力を含む低炭素電源を推進する方向になるだろう。補助金頼みの再生可能エネルギー推進策は決して気候変動問題の解決には貢献しないし、政治的に持たない。英国では2015年時点で全家庭の4分の1が可処分所得の10%を再生可能エネルギー補助に持っていかれることになる。固定価格購入制度が実施されればこの数字は更に上がる。そんな政策は持たないし、そんな政策を推進する政治家に投票する人はいない。
洋上風力に1000億ポンド近い金をつぎ込むならば、次世代の革新的エネルギー環境技術R&Dに投資をした方がはるかに効率的だ。今のエネルギー環境政策の問題は、現在の技術体系を踏まえて2030年、2050年のビジョンを考えていることだ。自分が80年代半ばに今後のIT産業について論文を書いたが、それがいかに間違っていたかを考えれば明らかだ。主要先進国、新興国で革新的技術の国際共同研究開発を行い、共同研究開発に参加した国だけがそのベネフィットを享受できる枠組みを考えるべきだ。

 次期枠組みが国連のみではなく、バイ、リージョナルを含む多層的なものになること、目標は拘束力を伴わない緩やかな枠組みになりこと、革新的技術開発を重視すること等、多くの面でうなずけることばかりだった。

 ただ1時間は短すぎ、引き続き、議論したいことも多かった。例えば彼は著書「Climate Crunch」の中で国境措置の有効性を強調しているのだが、欧州が航空部門に一方的にETSを適用して米国を含む他国から強い反発を受けた事例もある。国境税調整という考え方も、まず米国で炭素税が導入されるとは想定しにくいし、仮に導入されたとしても欧州の炭素税よりも米国の炭素税が低かったらその差分を国境調整するのだろうか。WTO上問題になる可能性も高く、報復措置を伴う貿易戦争に発展する可能性もある。そもそもサプライチェーンがグローバル化する中で、国レベルの排出量に着目することが果たしてどの程度意味を持ち続けるのかという根本的問題もある。ここらへんはまた機会を改めてじっくり議論したい。

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