第7話(2の1)「ポスト『リオ・京都体制』を目指して(その2)」


在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使

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(3)透明性(transparency)
 適切な現状把握なくして対策が取り得ないのは、温暖化対策も例外ではない。先進国、途上国問わず、各国の温暖化対策の透明性を高めるための「測定、報告、検証」(MRV)の仕組みや、それを国際的な協議の対象にする仕組み(ICA/IAR)は、コペンハーゲン合意以来、徐々に整えられてきた。法的拘束力の問題に比べて地味だが、重要なインフラである。現状把握の後にはじめて、対策のための国際的支援、資金、技術の動員も可能になるからである。先進国は、透明性向上のための途上国のキャパシティビルディングを支援すべきであるし、途上国は自らの温暖化対策の透明性を高めることこそが国際支援を呼び込むカギであると認識すべきである。

(4)長期目標との整合性の確保
 気候変動問題が長期的課題である以上、長期的視点は不可欠だが、それはより遠い将来に対する様々な不確実性を勘案しなくてはならないことを意味する。現在、2050年における世界の目指すべき姿として、国連では「2度目標」、これに加えてG8など先進国間では「世界半減、先進国80%削減」が概ね共有されているが、そうした長期目標を視野におきつつ足下の政策を進めていくこと、また長期目標についても、最新の科学的知見を踏まえながら、レビューしていくことが重要である。しかし、具体的に如何なるメカニズムが現実的かについては、今後、更なる検討が必要である。

(5)重層的構造(multi-layered structure)
 前述のとおり、国際枠組みについては、グローバル、リージョナル、バイラテラルな仕組みの間で相互補完性がある。あらゆるレベルで各国の気候変動対策を促すことが望ましい。同様に、国内的にも国(ナショナル)のみならず、地方自治体(ローカル)や民間セクターの関与を得ることが重要である。

(6)資金、技術、市場の総動員による実際的協力の推進
 従来の国連交渉では、資金にせよ技術にせよ、先進国が途上国に提供すべきものとの文脈で語られることが多かった。産業革命以来の排出責任等に基づく先進国の「義務」履行という発想であり、市場や民間セクターの役割は二義的、限定的にとらえられてきた。国連気候変動枠組条約、京都議定書の関連規定にも、そうした発想は色濃くみられる。
 しかしながら、従来の発想のままで、今後増大する一方の気候変動対策に十分な資金、技術が動員できるとは思えない。コペンハーゲン合意では途上国支援に関し、公的資金による「短期資金」(2010年~12年の3年間で300億ドル)と、民間資金を含む様々な資金源からの「長期資金」(2020年までに毎年1000億ドル)という2つの性質の異なる目標を設定した。これは将来における市場や民間セクターの役割を重視する新たなアプローチに立ったものだが、「1000億ドル」という数字のみが一人歩きして、従来の発想のままでその実現可能性が云々され、議論の混乱を招いているきらいがある。
 公的資金は引き続き重要だが、先進国の「義務」履行の発想のみにとらわれず、民間セクターによる低炭素関連インフラへの投資を世界規模で促していくことが重要である。国際枠組みもそのような観点から制度設計されるべきである。先進国から途上国への資金、技術、キャパシティ・ビルディングの流れをあらゆるチャネルで太くする必要があり、適切に設計された市場メカニズムはその重要なパイプとなり得る。
 次で紹介する、日本が提唱している「世界低炭素成長ビジョン」は、正にこうした発想に基づくものである。

(つづく)

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