エネルギーコストが2割も上がるのは国難である

浦野光人氏・経済同友会「低炭素社会づくり委員会」委員長/ニチレイ会長に聞く[前編]


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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再生可能エネルギーの全量買取制度から企業だけ逃れるわけにはいかない。

――7月1日に施行される再生可能エネルギーの全量買取制度について、どのようにお考えですか。

浦野:全量買取制度には、ある程度の意味はあります。屋根に太陽光パネルを付けたときに、今まで、例えば200万円かかったとします。ほとんど得にはならないけど、自分としては気持ちいいわけです。ところが全量買取制度で、200万円かけてもペイするようになる。そういう意味ではマインドが変わっていくでしょう。しかし、ペイするからと言ってメガソーラーを展開するというように考えていくと、下手をしたら、スペインのような結末を迎えてしまう。私は正直言いまして、今の技術水準で再生可能エネルギーに大きくシフトすることは、ちょっと違うだろうなと思っています。全量買取制度そのものは、法律としてあっていいと思いますが。

――企業にも、再生可能エネルギーの全量買取についてサーチャージが課されます。電力多消費産業に対する軽減措置もありますが、どうお考えですか。

浦野:軽減措置と言っても、国民の納得を得ながらやっていくことは非常に難しいと思います。基本的に全量買取で価格を決めたら、それは等しく配分していくべきでしょう。企業にだけ、減免措置で勘弁するというわけにはいかないでしょう。

――企業側も負担を受けなければいけないと。

浦野:そういう覚悟でなかったら、やっていけないでしょう。再生可能エネルギーを、国民の皆さんがどの側面から見ているかなのです。もし、今は「安全」ということだけで見ているのだとしたら、負の部分もきちんと知る義務があります。メリットとデメリットをきちんと知ったうえで、なおかつ「私は太陽光だ」と言うのであれば、それはそれで議論の始まりになるでしょう。

――それが「自分でエネルギーを選択する」ということですね。メリットとデメリットをきちんと知ったうえで、自分のなかで判断していくということですね。

浦野:エネルギーの地産地消という意味では、コージェネレーションと太陽光発電を組み合わせたら、普通の家庭でしたら、電力会社に頼らなくてもおそらく賄えます。安全が第一だから、それだけお金をかけても自分は頑張りたいというのであれば、それはそれで立派なことです。でも、きちんと知っていただければご理解いただけると思いますが、産業用の電力供給はそれでは難しい。「そういうことも含めてEU(欧州連合)はやっているじゃないか」という話がありますが、EUは国境を接しているなかで、フランスの原子力発電も含めて、網の目の広域電力ネットワークのなかで電気が回っているわけです。それに比べると、日本は一国で電力を賄っていて、EUのような経験がまったくないなかで、にわかに他国との間で広域で電気を融通できるかというと、そうはいかないでしょう。

――つまり、海外の事例をそのまま日本に当てはめるのは難しいということでしょうか。

浦野:そうです。先行事例に学ぶことは大切ですけども、それが日本でどういう意味を持つのか、日本でどう使えるのかということを考えないとダメでしょう。

――島国の日本は特殊な立地ではありますね。東アジアから電気が送れればとも思いますが。

浦野:東アジアよりも、例えば日本にはサハリンあたりが一番近いわけですから、サハリンにガス火力発電所を設置して発電してもらえれば、あそこからだったら、すぐ電気を送れますよね。とはいえ、ロシアとの関係を考えると、なかなか実現は難しいでしょうが。

「欧州と日本では、エネルギー基盤に大きな差がある」と指摘する浦野委員長は語る