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宮井真千子・電子情報技術産業協会環境委員会委員長に聞く[後編]

日本のものづくり産業が目指すべき答えは「環境技術立国」


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


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 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、電子機器や電子部品の健全な生産、貿易および消費の推進を図ることにより、電子情報技術産業の総合的な発展に貢献し、デジタル・ネットワーク時代を切り拓いていくことを使命としている。東日本大震災後の業界の対応や今後の事業展開などについて、JEITAの環境委員会委員長を務めるパナソニックの宮井真千子役員・環境本部長兼節電本部長に聞いた。(インタビューは2011年9月27日に実施)

再生可能エネルギーを活用する町づくりの実証実験にも積極参画

――2012年7月1日から再生可能エネルギーの全量買取制度が始まります。業界として、パナソニックとしてどのように受けとめていますか。

宮井真千子氏(以下敬称略):方向的には良いと思うのですが、具体的にいくらで買い取るとかの金額提示がない状況です。買取価格によって、さまざまな経済活動に大きく影響してきますので、良いとも悪いとも提示がない限りなかなか言えないところがあります。パナソニックとしては、再生可能エネルギーの比率を高めていくことは良い方向であると思います。我々は、太陽光発電や省エネ、蓄エネ製品を増やしながら低炭素社会へというビジョンを発信しており、事業的にもエナジーシステム事業の拡大を考えています。

――今後の町づくりなどで、再生可能エネルギーの導入に関する実証実験を計画されていると聞きました。

宮井:パナソニックは、「家まるごとCO2±ゼロ」というコンセプトで、エネルギーを創る「創エネ」、貯める「蓄エネ」、それから「省エネ」といった商材を合わせて、ご家庭のなかでCO2プラスマイナス・ゼロを目指していくというコンセプトを提案しています。さらに、これをビル全体、そして街全体にもという方向で拡大しています。そのなかで今回、もう半年以上前になりますが、低炭素な町づくりとして藤沢市と協働でサステイナブル・スマートタウンの構想を発表しました。
 藤沢市には、もともとパナソニックの工場があったのですが、その跡地を活用し、低炭素な町づくりにプラスして住む人にとっての安全安心な町づくりを目指そうと、藤沢市様とともに計画を進めています。また金融、商社、不動産などの企業にも協業いただいて、官民を挙げた町づくりを進めているところです。

――町づくりには地元の方も参画しているのですか。

宮井:新しく家を建てていくわけですから、それはこれからです。家づくりは当社グループのパナホームが中心となって進めますが、やはり住民の目線でいろいろなことを考えていかなければいけません。住んでいただく方にとって住みよい町になるかどうかが一番のポイントでしょう。

パナソニックが藤沢市と協働で進める「藤沢サステイナブルスマートタウン」構想。工場跡地を利用して低炭素社会のひな型となる町づくりを目指すと同時に安全安心にも配慮する(資料提供:パナソニック)

生活者の視点に立って、ハードがどこまでカバーするかを考える

――私もスマート・ハウスの実証実験現場に何度か足を運んでいますが、これからはホーム・エネルギー・マネジメント・システム(HEMS)が注目されそうですね。

宮井:暮らしの一番中心に近い商材をたくさん持っており、HEMSを自主的に推進できるのがパナソニックの一番の強みです。これからは単品の世界ではなくて、それらをつなげるHEMSにより、エネルギーを賢く使っていくという時代に入っていくでしょう。

――HEMSが家庭に浸透するのは10年くらい先になるのでしょうか。

宮井:それは難しいところです。どのレベルだったら家庭に浸透したと言えるかが問題です。ちょうど10年くらい前にネット家電が話題になったことがありました。たとえば冷蔵庫の中身を管理しましょうとか。しかし、なかなか普及しませんでした。

 そこにはコストとニーズのミスマッチが起こっていて、住む人にとっては、話を聞いたら便利だねと感じても、実際には使いこなせなかった。そして、やはり投資対効果です。装備するにはそれなりの投資が必要ですので、便利だけれどそこまではいらないという時代だったのだと思います。

 ところが10年以上経ち、エネルギーの地産地消の時代になってきました。またネット家電も非常に重要になってくるなかで、どこまで機器メーカー側が貢献していくのかがこれからの重要なポイントだと思います。

――家の中の家電をすべてコントロールしていく方向ですね。

宮井:冷蔵庫の中身をコントロールするところまで踏み込むのか、それとも屋内を快適化する、警鐘を鳴らす程度でいいのか。その辺りが、これからの課題だと思います。実証実験をしながら、住んでいる方と、実験結果も含めてどうしていったらいいのかを考えていかないといけません。

――私たちのニーズをしっかり受け止めて商品展開をしてくれる期待があります。

宮井:生活者、使う側の視点に立って、どこまで機器がカバーすべきなのかを考えていきたいと思います。

宮井真千子(みやい・まちこ)氏。1983年に松下電器産業(現在のパナソニック)に入社。くらし研究所所長、クッキング機器ビジネスユニットビジネスユニット長などを経て、2011年4月に役員・環境本部本部長に就任、同7月からは節電本部本部長を兼務。一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)では環境委員会委員長を務める

環境革新企業として、パナソニックはCO2削減や資源循環に挑む

――エネルギー問題以外で、環境に関わる分野で、パナソニックとして熱心に取り組んでいることがあれば教えてください。
宮井:パナソニックは2018年に創業100周年を迎えますが、その100周年のあるべき姿を「エレクトロニクス業界でナンバー1の環境革新企業」としています。さまざまな環境への取り組みを進めていくわけですが、大きな二つの柱があります。一つは二酸化炭素(CO2)削減への貢献、もう一つが資源循環への貢献です。循環型社会の構築に役立っていこうという意味で資源循環の施策も進めています。

――具体的にはどういうことでしょうか。

宮井:いろいろな施策を進めていますが、例えば今数値目標をかかげて進めているものとして二つの項目があります。

 一つは、投入資源を減らし、使用する再生資源を増やしていく取り組みです。もう一つは、工場での廃棄物を極限まで減らしていく、工場廃棄物ゼロミッションです。工場での廃棄物リサイクル率を2018年までには99.5%にまで高めていく、いわば廃棄する物がほとんど無い状態にまで高める取り組みを進めています。

 工場の廃棄物を削減していく取り組みは、全世界にあるパナソニックの拠点において順次手を打ってきています。もう一方については、まず使用する資源の総量を減らし、使うとしても新しい資源よりも再生材を積極的に使い、使用する新規資源を極力減らしていきます。資源循環のコンセプトは「商品から商品へ」としています。

パナソニックは循環型社会の構築への貢献を目指し、資源の循環利用に力を入れている。工場での廃棄物リサイクル率は99.5%以上を目標としている(資料提供:パナソニック)

日本が目指すべき方向は環境技術立国、そして知財権を守る

――これから、ものづくり技術立国として日本の強さをいかに発揮していくのか、業界として、またパナソニックとしてどのようにお考えですか。

宮井:空洞化の懸念のなかで日本に何を残すのかという話をいたしましたが、残すべき一番重要なものは技術だと思います。電機・電子業界の成長期に、NHKなどでも特集されましたが、「電子立国日本」という言葉がよく使われました。当時はそれでよかったのでしょうが、これからは「環境技術立国」だと思います。

――なるほど、環境技術立国ですね。

宮井:日本としては、環境・エネルギー産業における技術開発をしっかりと進めていくなかで、世界に対して、高い付加価値をもって発信していく必要があります。

――環境技術、環境製品がこれからの要で、主流になるということでしょうか。

宮井:そう思います。グローバルにもそうなっていくと思います。省エネ、創エネ、蓄エネ全部です。環境技術という視点では日本の強みはまだまだあると思いますので、そこをしっかりとこれからも磨いて、さらに強くして未来につないでいくべきです。

――温暖化対策についても、業界として大いに貢献できそうですね。

宮井:はい。そして政府に対してお願いするとすれば、技術にはつきものですが知的財産権をいかに守っていくかという点です。また、グローバルに輸出していく時には技術を評価する物差しなども一緒に輸出していくべきです。そうしたところでも、官民挙げた取り組みが重要だと思います。企業だけではできないし、また官だけでもできません。だから官民挙げてスピードを上げて進めないといけません。

――たしかに中国や韓国の成長はすさまじいですね。

宮井:その通りです。韓国にしても中国にしてもすさまじい成長をしています。10年前には考えられなかったくらい逆転して来ていますので、もっとスピードを上げて対応していかなくてはなりません。このままですとどんどん差をつけられると思います。やはりスピードと政策が重要だと思います。

――産業をバックアップする政策が大事ですね。

宮井:環境の分野では、まだまだ中国や韓国より優るところがあると思いますし、ぜひ官民挙げて強化していく必要があると思います。

――未来に向けて、業界としてどのように貢献していくのか、またはこういう方向性で行くという考えはありますか。

宮井:非常に難しい質問ですが、日本の成長を築いてきた業界でもあると思いますので、日本がさらに成長していくための産業であり続けるために何をしていかなくてはいけないのかを考えなくてはなりません。そのなかでも、やはり環境・エネルギー政策は非常に重要ですので、日本が成長するための取り組みを政府とともに積極的に進めていければと思います。

――デジタル・ネットワーク時代において、まさに電子情報技術に関わる産業がこれからの核となっていかないといけませんね。

宮井:そうですね。それをもっと環境立国に貢献させるべく、さらなる成長が図れたらと思います。

【インタビュー後記】
 会話のキャッチボールのように、さまざまな質問にてきぱきと答えてくださるのが印象的でした。省エネ、創エネ、蓄エネやホーム・エネルギー・マネジメント・システム(HEMS)等の展開についても、生活者の視点を大事に今後発展させていく方向性をお聞きできました。環境技術立国が日本のこれからのあるべき姿であると、凛とした姿勢と言葉に思わず大きくうなずいてしまいました。(インタビューは2011年9月27日に実施)

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