新著:『循環経済の世界とその未来-競争と共創の調和へ』


東海大学学長補佐 政治経済学部経済学科教授

印刷用ページ

このほど(2026年9月)慶應義塾大学出版会より拙著『循環経済の世界とその未来-競争と共創の調和へ』を上梓した。ここではその内容を簡単に紹介したい。



・著者:細田 衛士
・発売日:2026/09/24
・出版社:慶應義塾大学出版会
・ISBN:978-4-7664-3136-0

論述の視角

現在、日本のみならず世界の国々が従来型の経済を循環経済(サーキュラーエコノミー)に転換すべく模索を始めている。本書は、循環経済の実現を経済のシステムの抜本的転換と捉え、経済理論的な視角から循環経済の分析をするとともに、経済政策的な観点から日本に適合した循環経済作りの方策を明らかにすることを目的としている。

今、世界の各国は資源と環境の両面で厳しい制約に服している。AI、ICTなどの利用の急増によって銅や希少金属の需要は急増し、資源制約が経済の発展成長の大きな足枷となりつつある。一方、廃プラスチックや使用済リチウムイオン電池の処理問題に見られるように、従来の廃棄物処理・リサイクルの対応では経済社会の持続可能性が保たれないことが明白になった。簡単に表現すると、資源制約と環境制約の2つの制約によって循環経済への構造転換が必然的となっているということなのだ。

構造転換が必要なもう1つの理由がある。それは物質的な豊かさを追い求めているだけでは、これ以上の持続可能な発展は望めないという理由である。モノに溢れた経済社会では、無駄は減らない一方でモノへの需要が伸び悩み、新たなる経済像が提示できない。消費対象が今、モノからコトへと変りつつあるが、こうした動きに応じて新しい付加価値を創出することが持続可能な生産と消費のポイントになる。循環経済ではまさにそれが可能になると期待されているのだ。容易いことではないが、そこには資源の付加価値生産性を高め、経済を活性化する可能性がある。

循環経済と経済システムの転換

循環経済とはごく簡単に表現すると
(1)自然系から経済系に投入する資源量を極力抑制する
(2)資源を節約利用・繰り返し利用するとともに資源1単位あたりなるべく大きな付加価値を創出する
(3)経済系から自然系に排出する廃棄物量を極力抑制する
という3つの要素を備えた経済のことである。

循環経済においては、モノそのものが付加価値という考え方が棄却される。そうではなく、モノの上に乗るコト(サービス)こそが付加価値の源泉となるのであり、モノは付加価値を運ぶキャリアに過ぎなくなる。勿論、キャリアの設計次第で付加価値の創出力が決まるのだから、モノ作りがおろそかになることは決してない。

このように、循環経済の実現はドラスティックな経済システムの改革を断行することを意味するのだが、そうは言っても従来の経済の仕組みを全く無視して新たなる経済を作り上げるのではない。そしてこの文脈で強調すべきなのは、循環経済に万国共通の普遍的な形があるのではないということである。従って、各国がたどってきた発展経路を全く無視することなく、一方で従来の発展経路を資源循環型に転換することが求められているということになる。

ここから次の系論が生まれる。つまり、日本は日本に合った形で循環経済を作り上げればよいのであって、EUが循環経済作りで先行しているからと言って、それをコピー・ペーストすれば良いというものではない。本書で筆者は、日本に適合した循環経済の制度設計をするに際して、コアとなる4つの対概念を提示した。すなわち、①動脈経済/静脈経済、②競争/共創、③ハードロー/ソフトロー、④私益/公益、である。この4つの対概念を基軸として日本流の循環経済の構築を意図したのが本書というわけである。

歴史的経緯

循環経済構築に至る歴史的経緯は次の通りである。1955年頃~1972年頃日本は実質経済成長率が10%近くという高度経済成長を実現した。太平洋戦争の荒廃から脱して豊かさを求めた時代である。人々はひたすら物質的に豊かになることを求め、実際日本はアメリカに次ぐ経済大国になった。

だが、廃棄の費用を顧みない大量生産・大量消費・大量廃棄の経済社会が持続的でないことは明らかだ。高度経済成長の時代、大量に排出される廃棄物を適正に処理・リサイクルすることが法的にも経済的にも技術的にも担保されていなかった。その結果生じたのが東京ごみ戦争に代表されるごみ問題であり、他方、豊島の不法投棄に見られる産業廃棄物問題であった。一般廃棄物(ごみ)の大量排出に対応するために焼却設備の建設や、ごみ分別・リサイクルが行われた。産業廃棄物については、適正処理のために廃棄物処理法が改正された。

こうした背景のもと、3R(リデュース・リユース・リサイクル)が国民的関心の対象となり、廃棄物の発生回避や資源の循環利用の機運も高まった。加えて、高度経済成長の慣性力を受けつつもその力を振り切るための施策も出てきた。循環型社会形成推進基本法、資源有効利用促進法、個別リサイクル法などのハードローが続々成立・施行された。

しかしながら、排出されたものを粛々と処理・リサイクルするという発想からまだ完全に抜け出せていないのが現実であった。加えて、日本国内では3Rが進み、リサイクルも波に乗り始めたものの、循環資源の国内利用が滞るという、ちぐはぐな面が見られた。すなわち、循環資源の国内利用が円滑に進まなかったのである。

諸外国を見ると、EUや中国、韓国そしてアメリカさえもが2次資源の有効利用に着目し静脈資源・2次資源の囲い込みに奔走する中、日本では循環資源が海外に流出するという奇妙なことが起きていたのである。しかし、2024年、日本はようやく第5次循環型社会形成推進基本計画において循環経済を国策とし、循環資源の有効利用を具体的に実行すべく2026年に「循環経済行動計画」を策定、実行に移すことになった。大量生産・大量消費・大量廃棄の経路から脱し、新たなる循環経済の経路へ道筋を転換しようとしているのである。

循環経済構築の要点

この経路転換で枢要となるのは、動脈経済と静脈経済を円滑に接合することである。単に動脈経済に従属するという従来型の静脈経済から脱皮して、動脈を規定する静脈経済になることがどうしても必要だ。なぜなら、「環境配慮設計」を一層推進し、静脈資源(使用済製品・部品・素材)の高度な循環利用を実現して資源生産性を高め、さらにはモノからコトへの経済に転換するには静脈経済がより力を持つようになることが避けられないからである。静脈経済に重きが置かれるようになってこそ動脈経済との分断がなくなり2つの経済が円滑に同期する可能性が高まる。

ただ、静脈経済の重きが増したとしてもそれだけでは不十分で、動静脈経済の分断を解消するには競争力に加えて連携協力の力が必要であることに注意が必要だ。2つの経済で情報を共有し、連携協力してこそ環境配慮設計が可能になる。易リサイクル性を向上させ、結果として資源生産性を高めるためにも動静脈の連携協力が不可欠なのである。本書では、動静脈経済の連携だけではなく、様々な経済主体間の連携協力によって付加価値創出力を高めることを「共創(co-creation)」と呼んでいる。

この共創が日本の経済社会の発展経路を循環経済型に転換するための重要なキーワードになる。もちろん循環経済でも競争をないがしろにして良いということにはならない。健全な競争は資源の高度な循環利用に際しても不可欠だ。ということは、循環経済という新しい経済システムを作り上げるには、競争と共創の調和が必要ということになるのである。連携協力の伝統的気風が強い日本でこそ、競争と共創の調和によるシステム転換のチャンスが大いにあると言えよう。

ハードローだけではなくソフトローに支えられた自治体と市民のコラボレーション、業界内の連携協力、業界を越えたパートナーシップはこれまでもあった。これを循環経済型の連携協力に組み換えることが日本流の循環経済作りの早道である。実際、個別リサイクル法では共創が基本で、資源の高度な循環利用を実現している。また、各地域にはソフトローによる共創の動きが芽生えている。神戸プラスチックネクストや瀬戸内資源循環プロジェクトがその良い事例である。こうした動きが地域を越えて日本全体に広がる施策が必要となる。たとえばサーキュラーパートナーズのような動きは、今後、全国レベルでの共創の原動力となるだろう。その要点は従来の連携協力を更に強め、新しい付加価値を創出する動きにまで高める共創力である。

競争と共創によって創出される新しい付加価値は私益と公益の2つの側面があることに注意が必要だ。資源の高度な循環利用は私益のみならず公益に資する。資源生産性を飛躍的に向上させると資源が節約利用され、発展途上国や将来世代まで利用の範囲が広がるからである。また循環経済では環境配慮設計が行き届いた製品・部品・素材が増えるから、潜在汚染性(潜在環境負荷性)が小さくなる。であるから、たとえ生み出された便益は私益であっても、結果として経済社会の持続可能性を高める方向に作用する。つまり、生み出された便益は単なる個人的利益にとどまらない便益であり、公益に通じる私益となる可能性が高くなるのだ。こうして、循環経済では競争と共創の合わせ技によってバランスのとれた私益と公益が生み出されることになるのである。