電気国家と石油国家と石炭国家
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「エネルギーレビュー vol.548 2026年9月号」より転載:2026年8月20日発行)
国際エネルギー機関の資料などで石油国家(Petro-States)と電気国家(Electro-States)との呼び方が定着してきたようだ。電気国家という呼び方は、気候変動問題の文脈の中で5、6年前から使われていたように思う。20世紀は石油の世紀だったが、21世紀は化石燃料に依存しない直接電気を作る太陽光、風力の再生エネの時代になるとの主張だ。
石油・天然ガスを生産し輸出する国は石油国家と呼ばれる。化石燃料の輸出を通し世界に影響力を持つが、「気候変動問題への取り組みの深化に合わせ石油国家の時代は終わる」との当時の視点の背景にはコロナ禍もあったように思う。2020年前半に世界に広がったコロナ禍は、在宅勤務を促し、欧米の多くの都市でエッセンシャルワーカーと呼ばれる、医療、エネルギー、公共部門などの従事者を除き、外出が禁止された。その結果は、石油需要の大幅減と価格の下落だった。石油市場の状況を見て石油の需要がピークを打ったと考えた識者もいたようだ。むろん、コロナ禍が引き起こした一時的な現象だった。
2019年に日量1億140万バレルの史上最高になった世界の石油消費量は、20年に9240万バレルと大きく落ち込むが、23年に19年の消費量を超え、25年には1億650万バレルにリバウンドしている。しかし、この1、2年やはり石油国家の時代は終わったとの論調が多くみられるようになった。なぜだろうか。
2022年のロシアのウクライナ侵攻は、エネルギーの安全保障、地政学を考える機会となった。70年代の二度の危機を経験した主要国は、エネルギーの多様化を進め、化石燃料の中でも分散を図り、原子力と再生エネの利用も進めた。しかし、それでも石油国家ロシアに大きく依存している地政学上のリスクが明らかになり、さらに電気に依存する電気国家になる必要があるとされた。 最終エネルギー消費に占める電気の比率が高い国の一位は主要国ではノルウェー49%だ。世界平均は22%だが、中国は29%。EU平均の24%も上回る。日本は32%だ。中国は、エネルギーで世界の覇権を握るため、風力、太陽光の大規模導入を進め、電気自動車(EV)に大きな補助制度を提供した。その結果、太陽光、風力設備では、世界シェアの約七割を握った。国内で販売される新車の半分以上はEVになり、自動車の輸出台数は日本を抜き世界一になった。
中国とEU、さらにはインドが電気国家として台頭する中で、トランプ大統領が化石燃料増産に力を入れる米国は石油国家になり、影響力を失い、電気国家中国がこれから世界をリードするという見方もあるが、正しいだろうか。中国は戦略として世界の覇権、輸出市場を得るため自国内の大きな市場を利用し、再生エネとEV導入を進め、重要鉱物についても環境負荷が高い精錬工程を安値で引き受け世界の覇権を握った。電気国家になろうと思って進めた戦略ではなく、電化が進む世界の中で覇権を目指した結果論ではないか。
中国の電気の6割、インドの7割は石炭火力だ。中国の石炭生産量は増え続け、2025年は46.6億トン。インドの石炭生産も10.8億トン。両国を合わせると世界の石炭生産の63%になる。中国もインドも安全保障と価格競争力の観点から国内に豊富にある石炭を簡単に使える電気の形にしているので電気国家になっているだけだ。23年の中国の一次エネルギー供給のうち石炭が61%だ。
電気国家ではなく石炭国家と呼ぶほうがふさわしいように見える。電気国家がこれからあるべき姿と中国を例にあげても説得力はない。途上国を中心に石油の需要も増え続けている。どこかでピークを打つだろうが、埋蔵量が尽きるというオイルショック時の懸念は、シェールオイルの生産もあり、なくなった。石油国家の衰退と電気国家の躍進という単純な色分けは通用しない。











