イラン戦争で分かった化石燃料の大切さ

―原料としての化石燃料の視点―


国際環境経済研究所理事長

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ナフサショック

ナフサは、国内の石油精製の過程で作られる連関品と思っていたが、今回のイラン戦争で、中東依存であることが分かった。

ナフサの輸入先(出典:石油化学工業協会)

ナフサは、プラスチック、合成ゴム、塗料などの原材料であり、これを使った製品は、産業の各分野で、無くてはならないものである。医療用の手袋の不足が有名になったが、塗料のシンナー、自動車のタイヤ、など、サプライチェインの広範な分野に影響が出た。

ナフサ由来の製品(出典:石油化学工業協会)

日本の産業は、自由貿易を前提にした国際的なサプライチェインの中で、ナフサについては、国内で作るものと輸入するものと、コスト最適化を目指した製造体制を構築してきた。日本の化学産業が、国内の精油所で製造可能なナフサの量では不足する規模であることも輸入が必要な理由だ。

ナフサの国産・輸入推移(出典:石油化学工業協会)

今回のイラン戦争で、ホルムズ海峡というチョークポイントがブロックされると、世界中から、新しい供給先を求めることになる。

温暖化問題における石油の位置付け

問題は、温暖化問題における石油の位置付けである。
 温暖化対策の観点から、政府の「エネルギー基本計画」では、石油をはじめ化石燃料について、削減することを目指してきた。
 将来的には、自然エネルギーと原子力を主力にしたいと考えている。

「燃料」としての石油と「原料」としての石油

ところが、石油は、「燃料」=エネルギーという視点だけではなく、石油化学製品の「原材料」である。
 今回の、ナフサ不足は、この視点を浮き彫りにしてくれた。

「エネルギーの人類史」(バーツラフ・シュミル、青土社、2019)

ビル・ゲイツお気に入りのカナダ人学者のバーツラフ・シュミルは、人類とエネルギーの長い関わりを、先史時代から現代まで、長い時代を俯瞰した考察をしているが、石炭から石油、石油から天然ガスへの転換は数十年から1世紀以上の時間がかかったと述べている。

このため、数年で100%再エネにシストするという急進的な楽観論に関しては、「大昔の放射の蓄積が転換された(化石)燃料を利用している現在の高エネルギー体系から、(エネルギー密度の低い)再生エネルギー体系への移行は、達成されるまでに数世代がかかることは必至である」と戒めている。

同時に、化石燃料のエネルギーの供給源としての役割だけでなく、原材料の重要な供給源としての役割にも、言及している。

「化石燃料を原料とするものには、アンモニア合成(作物への窒素供給を主目的とする)や肥料や農薬がある。今やどこにでもあるプラスチックもそうだ。冶金用コークス(鉄を産出する役割)もある。さらに潤滑油、舗装資材(安価なアスファルト)もある」

連関品としてのナフサ

我が国では、温暖化対策として、エネルギーとしての石油の需要は減少傾向にあり、石油精製設備の統合・合理化が進んでいる。

燃料の石油精製設備が合理化されると、原油の蒸留過程から生産されるナフサも、連関品であるから削減されることになる。

製油所の精製工程(出典:石油連盟)

このため、石油化学の原材料としてのナフサは、国産生産だけでは足りず、輸入に依存する。

温暖化一本槍の危険性

温暖化問題への対応としては、エネルギーに関して、よりCO2排出の少ない燃料選択と、省エネルギーを進めることに、異論がない。

問題は、温暖化対策は、「エネルギー基本計画」として推進されてきたが、われわれの生活を支える工業製品が、石油を「原料」として使っていることを、過小評価していたことである。

バーツラフ・シュミルが指摘した、セメント、鉄鋼、プラスチック、合成アンモニアは、産業を支える基礎材料として、膨大な化石燃料(原料)を使用するとともに、日本製造業にとって、基盤となる中核産業である。

我が国の輸出競争力のある製造業は、CO2削減という国策の中で、生産設備の削減を余儀なくされ海外移転していることは、慶應大学の野村教授の論考に詳しい。

(「エネルギー多消費産業の日独衰退と中国躍進」(野村浩二))

冗長性の確保

ロシアからのガスパイプラインで、競争力を享受してきたドイツ製造業は、ウクライナ戦争で苦境に陥った。

世界の平和を前提にしたサプライチェインの崩壊は、戦争によって現実に起こる。

ある時点での最適解を追求するのは、経済の原則であるが、今後の地震などの自然災害、国際政治の不安定さを考慮すると、レジリエンスを考慮した、例えば東西2拠点に工場を配置するなどの「冗長性」の視点も考えておきたい。