遺伝子組み換え作物の安全性は、反対派が証明してくれた。どういうこと?
小島 正美
科学ジャーナリスト/メディアチェック集団「食品安全情報ネットワーク」共同代表
遺伝子組み換え(GM)作物が世界で流通し始めて、今年でちょうど30年になる。すでに世界では約30カ国で栽培されているが、日本では輸入するものの、商業的な栽培は実現していない。なぜ日本で栽培できないかをめぐって、9月上旬、ビジネス・教養系の動画メディア(YouTubeチャンネル)『ReHacQ』(リハック)で自ら左翼と称する斎藤幸平・東京大学准教授(経済思想)と議論する機会があった。なぜ、いまも組み換え作物は不安視されているかという点が話題になったが、よくよく考えてみたら、反対派の行動が安全性を証明したことに気づいた。どういうことか説明しよう。
反対派の「危険」重視で安全性論争!
遺伝子組み換え作物とは、別の生物から有用な遺伝子を植物に組み込むことで新しい形質を持たせた農作物のことだ。「害虫に強い」「干ばつに強い」「ある特定の除草剤を撒いても枯れない」などの形質をもった大豆やナタネ、トウモロコシ、綿などが流通している。
外部から遺伝子を組み込んだ新規の作物のため、国による安全性の審査が法的に義務づけられ、組み込まれた遺伝子が毒性やアレルゲンなどを生み出さないことが確認されて流通している。やっかいなのは、国がしっかりと安全性を確かめていても、反対派は「食べるとがんになる」といった根拠のない理由を挙げて、いまも納得していない。
こうした新しい食品をめぐって安全性論争が起きるのは、私の記者体験から言って、たいていの場合、反対派が「危ない」というからだ。「危ない」と主張する人たちがいるから、メディアもニュースにする。反対する人がゼロなら、安全性論争は生じないだろう。 これは裏を返せば、反対派が「安全です」と言えば、世間やメディアは「反対派の人が安全だと言っているのなら、わざわざ『危険だ』と騒ぐこともなかろう」ということになる。
混入率が「5%以下」なら「組み換えでない」と表示可能
実は、反対派が安全だと認めてしまった例が、実際にあったのをご存じだろうか。具体的な例を挙げて説明しよう。
たとえば、スーパーの棚で見かける豆腐や納豆の包装には、以前は、写真1のような「遺伝子組み換え大豆は使用しておりません」という表示がよく見られた。「遺伝子組み換え大豆は使用していない」と表示されていれば、文字通り、「遺伝子組み換え大豆は含まれていない」とどの消費者も思うに違いない。しかし、実際には意図しない「5%以下」の混入なら、組み換え大豆が混じっていても、「組み換えではない」という表示が、表示制度ができた2001年から任意で認められていた。
当然ながら、「そんなの、おかしい」との声が次々に出てきた。「3~4%も組み換え大豆が混じっているのに、『組み換えではない』と表示して売るのは消費者を欺くものだという議論が沸き起こったのである。
23年4月から、表示ルールが厳格化
そこで、消費者庁は消費者団体の声を受けて、2023年4月以降、食品表示の法的なルールを変更し、「組み換えではない」と表示できるのは、組み換え原料が検出しない場合(混入はほぼゼロ)だけに限るとルールを厳しくした。
このルールの厳格化は、組み換え大豆を絶対に食べたくないという消費者にとっては、とても朗報なはずだ。なぜなら、これまでは「組み換え大豆は絶対に食べたくない」という消費者も、実際には1%前後の組み換え大豆がときどき混じっている豆腐を食べさせられていたからだ。
しかし、23年4月以降は、組み換え大豆が混じっていない100%組み換えでない豆腐が食べられるのだから、組み換え食品に猛反対している消費者は「やっと組み換え大豆が混じっていない豆腐が食べられる。すごくうれしい」と大喜びするはずだ。そして、組み換え食品に反対していた一部生協は「今度のルールの厳格化によって、私たち生協は組み換え原料ゼロの商品を供給しますから、安心して食べてください」と大々的に宣伝する好機かと思われた。
「混入率ゼロ」の達成にはコストがかかり過ぎる!
ところが、いざルールの厳格化が決まると、なんと「表示の要件が厳しすぎる」と反対したのである。私は天地がひっくり返るほど驚いた。
反対する理由を知って、またまた気絶するほど仰天した。いまも組み換え食品に反対する「生活クラブ」(正式名は生活クラブ事業連合生活協同組合連合会)のホームページを見ると、以下のような反対理由を明記している。
―これまでの制度では、意図せざる混入が「5%以下」まで認められていましたが、新たな制度では、組み換え遺伝子または由来タンパク質が「不検出」の場合のみに限られることになりました。(中略)国がより正確性を重視した厳しすぎる基準を採用したことにより、さらなる改悪が2023年4月から実施されようとしています。意図せざる混入「5%以下」を認めなければ、生産者側の管理も難しくなり、「遺伝子組み換えでない」表示ができなくなってしまいます―
組み換え食品に反対する別の生協も、検出ゼロという厳しいルールになると、ゼロを目指す分別管理にコストがかかり過ぎるという反対論を述べていた。要するに「組み換え原料が完全に混じっていない原料を調達しようとすると、生産・流通の分別管理に労力とコストがかかりすぎて困る」というのである。言い換えれば、組み換え原料が少しくらい混ざっていても、「組み換えではない」と表示させてほしいという本音を吐露したのである。
この表明によって、反対派の生協は「組み換え原料が少しくらい混ざっていても安全なのです」と自らが認めたのである。つまり、「組み換え作物は危ない」と言ってきた人たちが、少しくらい混ざっていても、私達は食べますと言ってくれたのである。
非常時なら組み換え作物を使う
そう言えば、生活クラブなど一部生協は家畜の飼料にも組み換え作物の使用を排除してきた。ところが、2011年の東日本大震災のときに港の破壊などで組み換えではないトウモロコシが輸入できなくなると、「非常時だからやむなし」と一時的に組み換え作物を利用した過去がある。危ないものなら、緊急時でも、危ないままのはずだ。緊急の場合には利用するということであれば、それは安全だということを生協自らが認めたことになる。このときも反対派自らが安全性を証明してくれたと内心思ったのを思い出す。
「組み換えではない」は販売戦略か?
ルールが厳格化されて3年以上がたった。いまでは「組み換えではない」という表示はほぼ消えた。メディアがこういう経過や事実をしっかりと報じてくれればよいが、残念ながら核心をつく報道はほとんどない。過去には「組み換えではない」という表示を見て、危険性を感じるという消費者が一定数いたことを考えると、今後は消費者の心理が好転することを期待したい。
最後にもう一言。すでに世界中の家畜(牛や豚、鶏など)はこの30年間、組み換え飼料(大豆やトウモロコシ)を延々と食べ続けている。しかし、家畜の繁殖に異常はなく、みなすくすくと育っている。これも、安全性を証明する巨大な実験だといえよう。











