DC事業者あの手この手の電力調達策
米国で拡大する『BYOP』の圧力
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート2179号 2026年7月1日 令和8年7月1日発行」より転載)
学生と話をしていると、時々分からない略語がある。「バサキ」がアルバイト先と分かるだろうか。米国で使用される略語も難しい。ユタ州はドライステート(飲酒に厳格な州)として知られる。酒、たばこ、コーヒーを禁じる戒律で知られるモルモン教の総本山があり、教徒の住民が多いことも影響しているのかもしれない。一部のレストランではワインのBYOBが認められている。Bring Your Own Bottle、要は持ち込み可だ。
今、電力業界で言われているのは、BYOPだ。Bring Your Own Power(電力)を意味し、データセンター事業者に自前の電源を要請する略語だ。大規模データセンターの新設が相次ぎ、電力供給設備の不足と料金上昇が予想される中で登場したアイデアだ。米国の電力供給量は2000年代前半から年間4兆kWh前後が続いていたが、数年前から上昇に転じた。昨年の発電量は、史上最高の4兆4300億kWhに上った。
上昇続く電気料金
データセンターの普及に伴い電気料金が上昇してくると、反対運動も活発になってきた。24年の大統領選の最中に「就任後1年で電気料金とエネルギー価格を半額に引き下げる」と公約したトランプ大統領は、2期目就任直後にAI推進の大統領令を発出し、その後ホワイトハウスは定期的に推進策を公表している。データセンターが電気料金を引き上げるとなれば、大統領も黙っている訳にいかない。大手テック企業をホワイトハウスに集め、自前の電力供給を要求した。
トランプ大統領の公約にもかかわらず、電気料金は上昇を続けている。全米平均の料金は、23年1kWh当たり12.68セント、24年12.94セントだったが、25年13.63セントと5.3%上昇し、消費者物価上昇率を上回った。今年1~3月の平均料金は14.20セント。3月の家庭用料金は18.56セントと前年同月比8.6%上昇した。上昇の理由の一つは全米の発電量の41%を供給している天然ガス価格の上昇だ。24年平均100万BTU(英国熱量単位)当たり3.03ドルだったが、25年は4.05ドル。今年1~3月までの平均は6.54ドルだった。
大統領も焦り
もう一つの大きな理由は、データセンター用電力需要の増加だ。商業用電力販売量は、23年に1兆4081億kWh、24年1兆4509億kWh、25年1兆4930億kWhと伸びている。今年1~3月の実績は3614億kWh。前年同期比2.6%増だ。電力需要の伸びに合わせて増える設備投資が、電気料金に影響を与えている。
イラン戦争開始後、ガソリン価格も大きく上昇した。昨年1年間1ガロン当たり3ドル前後で推移していたガソリン価格は、一時50%上昇した。米国とイランの覚書署名後は下がっているが、依然4ドルを超えている。エネルギー価格の上昇はトランプ大統領の支持率にも影響を与え、フォックスニュースの世論調査では経済政策の支持は29%、不支持71%となった。11月の中間選挙を控えた大統領は焦りを隠せなくなっている。
電気料金上昇に対処するため、大統領は、「大手テック企業は自社の電力需要を賄う義務がある」と表明し、今年3月4日にグーグル、マイクロソフト、オープンAIなど大手テック企業7社をホワイトハウスに招いた。7社はデータセンター向け電力供給にかかる費用を負担し消費者を保護する誓約に署名した。法的拘束力のない誓約だが、既に供給確保策が登場している。
供給力確保に知恵絞るも・・・・
今までも、マイクロソフトのスリーマイル島原発1号の再稼働による供給、あるいは小型モジュール炉(SMR)新設による供給など、大手テック企業は原子力発電設備を中心に独自の電源の確保を進めていた。データセンターへの逆風が強まる中で消費者に影響を与えない形でのさらなる供給力確保のため、大手テック企業は知恵を絞っている。
6月3日、ラスベガスで開催されたエジソン電気協会の総会での地元電力会社・NVエナジーのCEOの講演は、料金値上げに抗議する住民の声で中断を余儀なくされた。NVエナジー管内でデータセンターの建設計画を持つマイクロソフトは、消費者保護の料金案をネバダ州公益事業委員会に提案した。データセンターのインフラ拡張に係わる費用を一般料金算定から除外し、事業者が負担するという案だ。
グーグルはVPP(仮想発電所)事業者と提携し、東海岸で10万kWのデータセンター向け電源の確保に乗り出した。参加者を募り消費抑制などを利用したVPPを作る。グーグルが費用負担を行うが、報酬額は非公表だ。データセンターへの反対が増え続ける中で参加者が集まるのか注目されている。
事業者の努力にもかかわらず反対運動は広がり、ギャラップの調査では米国民の70%が反対だ。50州のうち42州は、データセンター誘致策を持っているとされていたが、オハイオ州、イリノイ州は、州税免除、税額控除などの誘致策の一時凍結に乗り出した。データセンター銀座として知られるバージニア州も優遇策の廃止の検討に入ったと報じられている。事業者の努力はどこまで反対を賛成に変えられるのだろうか。












