令和8年度の環境省の重点施策について

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(「産業環境管理協会「環境管理」2026年7月号 vol.62 No.7」より転載 )

環境省では、持続可能な成長を推進する「時代の要請への対応」と、人の命と健康を守る「不変の原点の追求」の二つのコアミッションの下、環境政策を通じた「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現に向けて取り組んでいる。令和8年度重点施策については、地域の経済の持続的成長・豊かな生活環境の創出と日本の国際競争力の強化を目指し、「時代の要請への対応」の政策分野(経済、地域、国土、科学技術・イノベーション、国際)と「不変の原点の追求」の政策分野(暮らし、災害対応)の構成により取りまとめており、本稿ではそのポイントを説明する。

~はじめに 令和8年度の重点施策の基本的方向~

 

人類の活動は地球の環境収容力を超えつつあり、環境や自然資本の安定性は脅かされ、気候変動、生物多様性の損失、汚染という三つの世界的危機に直面している。経済社会活動は、自然資本という基盤の上に成り立っており、これらの危機の克服は最重要課題である。これらの危機に対処するためには、炭素中立(ネット・ゼロ)、循環経済(サーキュラーエコノミー)、自然再興(ネイチャーポジティブ)等の環境政策を統合的に実施し、環境危機の回避とそのための行動をいわば梃子にして、経済社会システムを転換し、経済社会課題の同時解決を図ることにより、「ウェルビーイング/高い生活の質」を実現することが重要である。

環境省では、持続可能な成長を推進する「時代の要請への対応」と、人の命と健康を守る「不変の原点の追求」を二つのコアミッションとしている。令和8年度は重点的に、三つの危機の克服に向けた「時代の要請への対応」として、環境政策を通じて地域の経済の持続的成長と豊かな生活環境を創出し、「新たな成長」を実現するとともに、わが国の国際競争力を強化し、グローバルサウスとの更なる連携を図る。加えて、「不変の原点の追求」として、環境保健対策、化学物質管理、水・大気・土壌の環境保全、鳥獣被害対策、外来種対策等のほか、東日本大震災・原発事故や能登半島地震からの復興・創生、今後の大規模災害時の対応等を着実に実施する。

具体的な施策については、「時代の要請への対応」を経済、地域、国土、科学技術・イノベーション、国際の五つの分野、「不変の原点の追求」を暮らし、災害対応の二つの分野に分類し、取りまとめを行った。以下、各分野を概説する。

~1.時代の要請への対応~

1.1 環境政策を通じた経済の持続的成長と豊かな生活環境の実現

環境政策を通じた経済社会システムの転換と経済社会課題の同時解決により「新たな成長」をもたらすことで、経済の持続的成長と豊かな生活環境を実現するため、ネット・ゼロ、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブの統合的なアプローチによるGXへの投資を拡大する。また、企業によるサステナビリティ情報の開示や環境経営を促進するとともに、国民・消費者の意識・行動変容等を通じて、グリーン製品の環境価値が市場で適正に評価される環境づくりを推進する。

具体的には、2050年ネット・ゼロの実現に向けて、ZEH・ZEBなど住宅・建築物の脱炭素化(ライフサイクルカーボン削減型の新築ZEB支援を含む)、モビリティの脱炭素化(商用車・建機・ゼロエミッション船等)、Scope3排出量削減のための企業間連携による取組を含む省CO2設備投資支援、データセンターの脱炭素化、ペロブスカイト太陽電池の導入促進等の取組に加え、デコ活を通じて脱炭素型の製品等の需要を喚起し、豊かな暮らしとGXの推進に取り組む。

また、再生可能エネルギーの導入にあたっては、地域との共生や環境への配慮を大前提とし、特に太陽光発電については、昨年末に取りまとめた「大規模太陽光発電事業に関する対策パッケージ」に基づき、今後、環境影響評価法に基づく評価対象の見直しや種の保存法の在り方の検討等を速やかに進めていく。

サーキュラーエコノミーへの移行に向け、今年4月には国家戦略として循環経済の実現を更に加速化するため、関係省庁が一丸となり「循環経済行動計画」を取りまとめた。経済安全保障の確保に貢献する金属資源等の再資源化に対する投資促進支援、資源循環ネットワーク形成および拠点の戦略的構築に関する調査・実証事業、自動車向け再生プラスチック市場構築のための産学官連携等を通じて、産業競争力強化、経済安全保障、地域活性化に貢献する。また、太陽光パネルの大量廃棄に備え、まずは多量に排出する太陽光発電事業者等から、国が定める判断基準に基づくリサイクルの取組を義務づけ、段階的に規制強化することとした。

さらに、ネイチャーポジティブについては、自然関連財務情報開示への対応を強化させるほか、投融資や調達におけるネイチャーポジティブへの配慮についてガイドラインの策定・モデル事例創出などにより、企業の競争力維持・強化をしつつその実現を図る。

1.2 地域資源の付加価値創出による活力ある地方の実現

持続可能で自立した地域づくりに向けて、住民を始め多様なステークホルダーを巻き込んで環境政策を展開していく。再エネ・再生材・自然資本等の地域資源を活用して付加価値創出型の新しい地方経済を作ることで、地方に新たな魅力と活力をもたらすとともに、そうした先行的な取組を他にも広げ、全国に強い経済と豊かな生活環境を創出する。

具体的には、脱炭素先行地域での取組の実現に注力するとともに、その成果を全国へ横展開し、地域脱炭素をさらに推し進める。また、地域の防災拠点や避難施設となる公共施設の脱炭素化・レジリエンス強化を図るほか、株式会社脱炭素化支援機構による脱炭素事業への資金供給等を通じて、地域金融や地域の中堅・中小企業の更なるグリーン化を進める。また、ブルーカーボン等の吸収源対策に係るクレジットの創出・利活用にも取り組む。

サーキュラーエコノミーに関しては、資源循環自治体フォーラムによる企業・自治体等のマッチング、資源性廃棄物等の再資源化による資源循環ビジネスの促進等を行う。

加えて、地域循環共生圏の拡大に向けた人材・中間支援の担い手の育成、良好な水環境の創出と健全な水循環の推進等を行う。

1.3 自然資本を基盤とした国土形成と社会資本の価値向上

良好な環境、生物多様性を始めとする自然資本を官民で連携して維持・回復・創出させるとともに、自然資本を持続的に活用する国土を形成していく。また、持続可能で魅力的なまちづくりにむけて、都市における自然資本を充実させ、身近に良好な自然環境を創出するとともに、脱炭素やレジリエンスなどの観点から都市を整備していくことで、環境・経済・社会課題の同時解決と社会資本の価値向上を図る。

具体的には、前述の自然共生サイト制度に基づく認定等により、OECMや生物多様性保全等の推進を通じた地域活性化を促進する。また、自然公園等における利用施設の整備や今年3月に取りまとめた国立公園満喫プロジェクト2026年以降の取組方針に基づく施策により、国立公園の魅力向上および利用促進に取り組むとともに、オーバーツーリズム対策を実施し、自然の保護と利用の好循環を実現していく。さらに、既に現れている気候変動への適応の取組として、地方自治体事業者・国民の適応の推進や適応策の国際協力等を総合的に推進する。

1.4 環境を軸とした戦略的な国際協調の推進による国際競争力の強化とグローバルサウスとのさらなる連携

一部の国で保護主義や自国中心主義の動きが強まっていることにより、国際協調の形骸化や国際的分断が進行することが懸念されている。わが国としては、世界が一致して解決すべき喫緊の環境分野の課題に対し、揺らぐことなく取り組むとともに、わが国の国内外での政策や取組を、国際枠組み等を通じて発信・展開していく。さらに、プラスチック汚染対策にかかる条約交渉を進めるとともに、日本の企業の優位性が評価されるなどわが国に裨益する国際ルール形成・国際標準化を図る。

また、わが国の経験や技術等を通じてグローバルサウスとの連携を強化することで、わが国の環境産業の海外展開を進めるため、脱炭素移行に向けた二国間クレジット制度(JCM)の推進等を行う。

あわせて、国際情勢の不確実性の高まりに対して、政府全体の経済安全保障政策等を踏まえて、環境政策を通じたエネルギー・資源の自立性確保や、グローバルな市場が広がる環境ビジネスに関する、不可欠性を有する科学技術への支援等を実施する。具体的には、ASEAN等と連携したE-scrap等の国際金属資源循環の構築等を図る。

1.5 「新たな成長」に向けた環境関連の科学技術の開発・実証・社会実装とイノベーションの創出

環境問題の解決に向けた科学技術・イノベーションは、「新たな成長」を実現する原動力となる。人工光合成を始めとしたCCUS社会実装・基盤構築など新技術の研究開発・実証と社会実装を推進していくとともに、イノベーションの担い手としてスタートアップを支援していくことで、経済社会システムの転換と経済社会課題の同時解決を実現する。

~2.不変の原点の追求~

2.1 「ウェルビーイング/高い生活の質」を実感できる安全・安心、かつ、健康で心豊かな暮らしの実現

人の命と環境を守る基盤的な取組として、今年で公式確認から70年を迎えた水俣病対策の前進に全力で取り組むとともに、公害健康被害に対する補償、石綿健康被害に対する救済等を確実に進める。また、今年3月に取りまとめた「クマ被害対策ロードマップ」に基づくクマによる人身被害防止のほか、外来カミキリムシ類等の外来生物対策、科学的知見の充実・情報発信・水道水質基準の確実な施行等のPFAS対策、的確な管理等による土壌汚染対策、「花粉症対策の全体像」に基づく飛散対策、官民連携による一層の高齢者等への働きかけ等を通じた国民の予防行動の実践につながる熱中症対策、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)の効果的・効率的な推進、「リチウムイオン電池総合対策パッケージ」に基づくリチウムイオン電池の分別回収及び再資源化の推進、スクラップ等を取り扱う不適正なスクラップヤード対策の推進等を実施する。

また、生活に欠かすことのできないインフラである廃棄物処理施設や合併処理浄化槽の整備・更新を進める。さらに良好な環境の創出、ライフスタイルの変革として、「デコ活」やリユース等の促進に取り組むとともに、動物愛護管理を推進する。

2.2 東日本大震災、能登半島地震からの復興・創生および今後の大規模災害への備え

東日本大震災・原発事故からの復興・創生に向けて、特定帰還居住区域等における除染や家屋解体、中間貯蔵施設事業、汚染廃棄物処理を着実に実施する。さらに、福島県内の除去土壌等の30年以内の県外最終処分に向けて、昨年8月に取りまとめられたロードマップ等に基づき復興再生土の利用(復興再生利用)を加速化するなど政府一丸となって全力で取り組む。あわせて、ALPS処理水放出に係る海域環境のモニタリングを着実に実施していく。

放射線の健康影響に関する不安の解消および誤解による風評・差別・偏見の払拭に向けた取組や、被災自治体と共に未来志向の環境施策を推進する。

能登半島地震からの創造的復興に向けて、能登半島の豊かな自然環境を活かし、トキをシンボルとした地域づくり等を推進する。

また、災害廃棄物処理体制の充実等今後の大規模災害に備えた取組を行う。

~おわりに~

 

環境政策を通じて経済社会課題の同時解決を図ることにより、「ウェルビーイング/高い生活の質」を実現するためには、国民一人ひとり、市民社会、地域コミュニティ、企業等の協力と主体的な取組が重要である。上記で述べた環境省の重点施策についても、政府による取組だけではなく、企業・国民の皆様の御協力と相互作用によって進めることができるものであり、引き続き皆様の御理解・御協力を賜りたい。