Contingency Planの勧め


国際環境経済研究所理事長

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日本にとっての中東は、ドイツにとってのロシア

イラン戦争で、ホルムズ海峡が事実上通れなくなっている。日本の石油の90%以上が、ホルムズ海峡を経由する。1973年の第一次石油ショックの「油断」(堺屋太一、1976、文春文庫)を思い出す。

「油断」(堺屋太一,1976,文春文庫)

日本にとって、中東の石油は、ドイツにとってのロシアと似ている。どちらも、「一本足打法」で、一国(地域)にあまりにも依存している。

ロシアのウクライナ侵攻

ロシアのウクライナ侵攻で、ドイツはロシアからのガス・パイプライン経由の天然ガス供給が減少し、安いガスの恩恵を受けていたドイツ経済は打撃を受けた。

そもそも、ロシアの天然ガス・パイプラインは、旧西ドイツのブラント首相の「東方政策」の成果であった。

冷戦期において、圧倒的な地上軍を有する旧ソ連の戦車部隊のヨーロッパ侵攻を防ぐには、戦術核を使って阻止するのがNATOの戦略であった。ただ、ドイツは、戦場となり、甚大な被害が予想された。

1969年、西ドイツの首相に就任したブラントは、戦争を阻止するために、ソ連との経済関係強化に努めた。その後も、シュレーダー、メルケル首相が、ノルドストリーム等のロシアとドイツを結ぶパイプラインを構築し、東西関係の強化に努めてきた。

これは、外交面のみならず、ドイツの経済にとっても、安い競争力のあるガスを享受してきた意味で有意義であった。

しかし、この平和への取り組みは、ロシアのウクライナ侵攻で、潰えた。

温暖化は平和の産物

米本昌平さん(元・三菱化成生命科学研究所)は、「地球変動のポリティクス」(弘文堂、2011)の中で、1992年のリオ地球宣言以来の温暖化対策は、ベルリンの壁崩壊後の冷戦終了に伴う、「核戦争の脅威」がなくなったことに伴い、「新しい地球温暖化という脅威」の時代の到来であったと述べておられた。

「地球変動のポリテックス」(米本昌平)

ロシアのウクライナ侵攻、トランプのイラン侵攻により、世界の「温暖化対策の平和な時代」が終わろうとしている。

米国、EUも、エネルギー確保に舵を切った

我が国にとって、中東の石油依存は、経済合理性に基づくものであった。しかし、アメリカとイランが停戦になったとしても、今後のサプライチェインが不安定なホルムズ海峡を通ることに変わりがない。

一昨年来、EUの温暖化問題の専門家と話をしてきたが、ロシアのウクライナ侵攻以来、EUの温暖化に対するトーンが大きく変わってきた。

あれほど力を入れていた水素も、「需要、供給面で難しい」と、熱が冷めていた。「カーボンニュートラル」の旗は下ろさないまでも、「何が何でも実現すべき」という空気は感じられなかった。

ドラギレポート以来、EUは「温暖化対策」よりも「産業競争力強化」に舵が切られた。

アメリカも、第二期トランプで、大きく変わったことはご存知の通り。

我が国も対応すべきー”Contingency Plan”を

こうした中、我が国の温暖化対策は、周到に準備した「計画」を粛々とやっているように見受けられる。

排出削減策、EUのCBAM対策として排出量取引が実施されるが、一方で、EUは、CBAMの見直しを検討しようとしている。

何よりも中東からの石油が「油断」になったときに、どう対応するのか?「カーボンニュートラル」の旗印を下すのは難しいだろうが、エネルギー危機に対応した”Contingency Plan”(緊急時対応プラン)を考えなくてはならない。

米国もEUも、政策の最優先はエネルギー確保となっている。この時に、「カーボンニュートラルのくびき」から、「原子力と自然エネルギー」しか選択肢はないのだろうか。

元々、カーボンニュートラルのトランジションとして、我が国は化石エネルギーの必要性を唱えてきたが、中東石油が「油断」となれば、他の地域からの調達はもちろんであるが、エネルギーとして、世界的にも広く調達でき、コストも安い「石炭」を活用することを、”カーボンニュートラルにおける ”Contingency Plan”(緊急時対応プラン)として、柔軟に考えることを期待する。

拙文を書いている時、政府は温暖化対策として削減計画であった石炭火力発電を1年間に限り、稼働率を高める提案を行なった。(3/27)

しかし、4月から始まる排出量取引では、排出枠が厳しくなれば、既存の石炭火力を廃止する企業も出てくるだろう。そうなると、エネルギー・電力確保に使えるカードは減ってくる。

米国、EU、中国が、データセンターの電源確保も含めてエネルギー確保に大きく舵を切っている現在、我が国だけが、「すでに決定したこと」として、整々と「平時体制の温暖化対策」を進めていて良いのだろうか?