企業の環境広報の変遷


環太平洋大学客員教授、元中日・東京新聞記者、経済広報センター常務理事・国内広報部長(産業教育で文部科学大臣賞を受賞)

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環境問題への取組みが企業広報の重要な柱

 日本企業の1970年代以降の広報の歴史は、自社の環境問題への取組みを社会にいかに理解してもらうかの歴史でもある。
 製紙業界をはじめとする大企業の公害問題や二度にわたる石油危機で企業の社会的責任が社会問題化。その後、社会貢献、CSR、SDGs(17の目標の中に「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「つくる責任つかう責任」「気候変動に具体的な対策を」「海の豊かさを守ろう」「陸の豊かさも守ろう」がある)、ESG(環境、社会性、ガバナンス)、最近ではサステナブル(持続可能な)経営、パーパス(会社の存在意義)経営をどう広報するかが重要テーマとなっている。その中でも、環境問題への取組みは、常に重要な柱であり続けている。

ブランド価値向上に直結する環境問題への取組み

 なぜ、社会貢献、CSR、ESGなどで、環境への取組みが重要な柱になっているのか。それは、それだけ地球環境問題が世界的に重要な社会課題になっていると同時に、多くの人たちが、環境問題に関心を持っているからである。このため、企業も環境問題に取り組む。そして、環境問題に無関心な企業よりも、環境問題に積極的に対応している企業のほうが「企業イメージがよく、会社のブランド価値、企業価値が高い」とされる。
 しかし、個人的には、消費者が本当に環境問題に取組む企業、社会貢献をしている企業を高く評価し、その商品が例え高くても購入しているのかというと疑問も残る。たしかに、アンケート調査などで聞かれれば、きれいごととは言わないが、「環境に配慮した商品を多少高くても買う」と回答する人が多い。しかし、実際には、どうか。多くの人は。その企業の環境問題への取組みとは関係なく、安い商品を競って選んで購入しているようにも思われる。

問われる「本気度」

 たしかに環境問題に取組むことで、企業イメージ向上につながる。このため、例えば、「環境にやさしい○○株式会社」とのキャッチフレーズを採用している企業は多い。
 しかし、欧米の機関投資家からは「そうしたぼんやりとしたイメージだけでは意味がない。環境問題について具体的に、いつまでに、何をするのかを明示してほしい」との厳しい指摘がある。では、明示すれば、それでいいのか。逆に明示した場合、ある弁護士は「中長期経営計画などで、何年までに、CO2を何パーセント削減するなどと明記した場合、それを支持して株を買った投資家が、CO2削減が達成できず、株価も下落した場合、それを理由に損害賠償を訴えるケースも出てくるのではないか」と懸念する。
 意地の悪い見方をすれば、環境問題への取組みをはじめとするSDGs、ESG、パーパス経営は、きれいな言葉であるので、多くの企業が一斉にクチにする。しかし、これは今だけのブームにすぎないではないかとの見方もある。実態が伴っていない「ウォッシュ」ではないかともの批判もある。
 多くの企業が、環境問題に取組んでいると自己PRする時代だからこそ、ウォッシュではないことを具体的に発信しなければならない。環境問題への取組みの本気度が問われているといえる。