小中学生向け放射線出前授業を実施して思うこと


環太平洋大学客員教授、元中日・東京新聞記者、経済広報センター常務理事・国内広報部長(産業教育で文部科学大臣賞を受賞)

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生徒の反応、最初は「放射能は悪いイメージ」

 2023年11月29日、埼玉県川越市内の中学校で、放射線出前授業を実施した。講師は、e-サイエンスコミュニケーションの舟生武司(ふにゅうたけし)代表取締役。放射線の基礎的な性質と放射線の利用について授業している。経済広報センターは、このプログラムを支援している。これまでに10年以上、毎年約15校で開催している。

 舟生氏は、まず「私の名前読めますか」と質問し、生徒を和ませた後、放射能について生徒たちに「どのようなイメージを持っているか」と尋ねた。すると、40名いた生徒のうち数名を除いてほとんどの生徒が「悪いイメージを持っている」に手を挙げた。私が見学した授業では、「良いイメージ」と答えた生徒はひとりもいなかった。「どちらともいえない」との回答が数名いた。「どちらともいえない、という答えは、知らないからでなく、放射線のプラス、マイナスを知っているからかな。だとすると、放射線のことを凄くよく知っているね。凄いねえ」と生徒の反応に対応した。

最初のメッセージは「放射能は危険なものである」

 こうしたやり取りを受けて、舟生氏が最初に掲げたパワーポイントは「放射能は危険なものである」。刺激的なメッセージだった。大きな文字で書かれていた。もちろん、趣旨は、危険だから使うのをやめよう、ではない。放射線は、病気を見つけるレントゲン撮影などで役に立っている。つまり、「危険ではあるが、危険だからこそ厳重な管理をしながら使う」「危険だから、危険度を下げながら使う」ことを強調していた。

放射線を検出する実験を実施

 その後、理科の授業らしく実際に、α線やβ線を測ったり、霧箱(放射線を見るための簡易装置)を使って放射線の飛跡を実際に見たりした。アルコールを充満させた器の中で、放射線が白い線となって飛び交う様子に、生徒たちは思わず歓声をあげていた。

 また、放射線には自然放射線と人口放射線があることや、自然放射線と計測器の間に放射線を遮断する物質を置くことによって放射線量が低下することなど放射線の基礎知識から放射線を検出する実験まで、詰め込みすぎているとの印象を与えず、しかし内容の濃い50分授業だった。

放射線は管理しながら使うもの

 その結果、生徒たちの反応が替わった。「放射能は怖いと思っていたが、使い方を誤らず、きちんと管理して使えば、医療などでいろいろと役に立つものだ」というニュートラルな考えが増えていた。
 
 電力会社が原子力発電所の管理ができているかなど社会的問題には触れず、あくまで実験を盛り込んだ理科の授業である。こうした経験、知見を踏まえ、子どもたちには放射線について自分で考え判断してもらいたいと思う。