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循環経済における自主的取り組み【ソフトロー】の役割(その2)


中部大学副学長、経営情報学部長・教授


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1.はじめに

 前編の最後に、日本で見られるような形の相互共存在意識を基底とした社会が形成されるためには共有された規範の存在が必要であることを述べた。それは例えば近世日本の入り会い制度の成立と解体の過程を見てもよくわかる注1)。村落共同体の相互共存在意識は当該村落共同体の固有の共有された規範として実現し、村落共同体が解体されると共に規範の共有性も薄れていった。
 さて、現代においては、共有された規範が社会に明示的に現れる時、主に2つの形で現象する。最近の用語で表現すると、ハードローとソフトローである。前者は、国や自治体による強制力によって執行が担保された法規範である。一方、後者は、そのような強制力がないが、人々の行動を一定の方向に制約づける非法規範である。
 このように書くと2つのタイプの共有された規範は截然と分かれるように見えるが、そうとも言えない。ハードロー的なソフトロー(すなわち拘束力の強いソフトロー)もあるしソフトロー的なハードロー(すなわち拘束力の弱いハードロー)もある。例えば、製品・部品・素材の国際規格や標準はソフトローではあるが、国際経済では実際拘束力は強い。それに従わないと国際的ビジネスや取引が困難になる可能性が大きいからである。他方、日本の小型家電リサイクル法は、一応ハードロー的な体裁をしているが、主体への拘束力は弱い。同法は関係主体に義務を課さず、自主的対応を伸縮的な形で促していて、ソフトロー的である。
 日本においては、このソフトローによって裏付けられた自主的取り組みや、自主的対応がハードローと同様、あるいはハードローを補完する形で機能し、資源の高度な循環利用を促すというのが本稿の主張である。以下そのことを実例で示すのだが、その前に説明を容易にするために、作業仮説としてソフトローを3つの類型に分けておきたい。

2.ソフトローの3類型(資源の循環利用のための枠組みを基本に)

 本稿では、規範が共有される主体の広がりと、それに逆相関すると思われる規範の詳細度を基準に類型化を試みる。

● 行動規範型ソフトロー(共有主体の範囲が広く規範内容が詳細ではないタイプ)
 このタイプのソフトローとしては、CSV(Creating Shared Value)、CSR(Cooperate Social Responsibility)、SDGs(Sustainable Development Goals)などが挙げられる。こうした曖昧性を持った規範をソフトローのタイプとして挙げるのに若干のためらいもあるが、しかし、実際これらは人々とりわけ企業の行動に一定の制約を課し、方向づけをしていることも事実である。また、例えばSDGsの場合は17のゴールと169のターゲットが明確になっているし、以上挙げたCSVやCSRなども現在は無規定的でも将来は詳細に規定化される可能性もある。その例が、ESG投資である。ESGは国連の責任投資原則(Socially Responsible Investment: SRI)に準拠しており、CSRとも深い関係があるが、詳細に中身が規定されていたわけではなく、概念的な趣が強かった。だが、現在では投資主体によってはESGの中身を明確に基準化・規定化しているものもあり、将来は個別の基準・規定が共通化される可能性も十分あり得る。
 以上挙げた例は何らかの形で全て資源の有効利用・循環利用に係るものであり、中身の規定のされ方によって循環経済の形成のあり方も影響を受ける可能性がある。

● 行動規定型ソフトロー(共有範囲が異業種関連主体で規範内容がある程度詳細なタイプ)
 次の類型は、規範共有の範囲がある程度限定的ではあるが、異種の主体や性格を異にする主体を幅広く取り込んだものである。このタイプには非常に多くのものがあり、資源の循環利用に貢献している。
 その例を挙げると、二輪車リサイクル自主取り組み、FRP船リサイクルシステム、使用済み自動車リサイクル・イニシアティブなどである。これらは、関連各主体の連携協力によって、特定の使用済み製品をリサイクルや資源の循環利用を実現しようとするものである。どのような主体が連携協力して、どのような役割分担をすべきかがある程度詳細に決められている。初めの2つの例は、使用済み製品の収集・運搬・処理などの取り扱いを円滑にするために、廃棄物処理法上の特例措置である「広域認定制度」を利用しているところに特徴がある。廃棄物処理法というハードローとインターフェースを持っているのである注2)
 一方、使用済み自動車リサイクル・イニシアティブは、その後自動車リサイクル法に発展進化したという点で特徴がある注3) 。ソフトロー→ハードローという道筋をたどったのである。しかし、使用済み自動車リサイクル・イニシアティブがなくなってしまったのかというと、そうでもない。これを基盤としているからこそ、自動車リサイクル法が成立・機能しているのである。また、より具体的な側面に関していうと、2015年までに重量比95%のリサイクルという目標は同イニシアティブに規定されている数字なのであり、自動車リサイクルの実際に強い影響を与えている。

● 詳細行動規定型(共有範囲が限定的で規範内容が詳細なタイプ)
 第3番目のタイプは、業界や関連団体がある特定の目的を果たすために共有している規範・規定で、その性格上、規範あるいは規定が詳細にわたるタイプである。その典型的な例は、家電製品協会による家電製品の環境配慮設計スキーム、あるいは鐡鋼スラグ協会の鉄鋼スラグ製品の管理に関するガイドラインなどである。使用済み家電製品に関しては家電リサイクル法というハードローがあるが、これと並行して業界が環境配慮設計を具現化するために共有しているのがこのスキームで、この中には詳細な製品アセスメントのためのガイドラインが規定されている注4)
 一方鉄鋼スラグ製品の管理に関するガイドラインは、基本的には有価物ではあるが、扱い方を誤ると潜在汚染性が実際の汚染として顕在化しかねない鉄鋼スラグ製品について取り扱いの詳細な手順・品質管理基準などを規定化したものである注5)。このガイドラインに従って会員各社は自社管理マニュアルを策定整備することが義務付けられている。

3.ハードローとソフトローとの関係

 日本の循環経済づくりには、上にあげた第2、3のタイプのソフトローが非常にうまく使われている。その際に非常に重要になるのが、既存の廃棄物処理法や個別リサイクル法などのハードローとの関係である。特に、周知の通り、廃棄物処理法は廃棄物の定義や一般廃棄物と産業廃棄物の区分の定義を与えていることもあって、資源循環利用のための自主的取り組みには大きな制約要因ともなりかねない。
 企業や業界がソフトローを用いて資源の高度な循環利用を推進しようと思っても廃棄物処理法の制約からそれができないとなれば問題である。こうした状況に鑑み、廃棄物処理法の側でも広域認定制度のような特例措置が用意されていて、ソフトローによる自主的取り組みがやりやすく配慮されているのである。
 二輪車リサイクルやFRP船リサイクルの自主的取り組みが機能するのも、こうしたハードローとのインターフェースがうまく作られているからである。現在深刻な問題になっている使用済み小型充電式電池の場合もそうで、一般社団法人電池工業会とJBRCが資源有効利用促進法に基づき、同時に廃棄物処理法の広域認定制度を利用しながら使用済み小型2次電池の自主回収・リサイクルを行っている。
 一方、第3のタイプのソフトー的取り組みはどちらかというと、個別リサイクル法などのハードローの補完的役割を担うものが少なくない。日本の業界は、一旦ハードローができると、法の要求するところ以上に成果を出そうとする相互共存在的意識がある。それは、自動車の排出ガス規制である53年規制のクリアの時にも見られたし、自動車リサイクル法成立後のリサイクル遂行状況においても同様のことが見られた。ハードローの補完度を高めるためにソフトロー的な対応をするのである。
 何れにせよ、資源の高度な循環利用の世界においてはハードローとソフトローの関係性が枢要になることは間違いない。自動車リサイクル法のようにソフトローである自主的取り組みがハードローの形で発展する場合さえあるのだ。ハードローとソフトローのインターフェースが円滑な形に形成されていればこそ、資源の高度な循環利用が可能になる。この点に留意しつつ、今後の資源の高度な循環利用のためのソフトローのあり方について展望してみたい。

4.おわりに:資源の高度な循環利用における自主的取り組み(ソフトロー)の課題

 資源の高度な循環利用の実現、言葉を変えて言うと循環経済の構築のためには、以上見たようにハードローだけではなくソフトローによる自主的取り組みの役割が欠かせない。しかしながら、このような取り組みはEUではあまり推奨されない。その理由は2つある。1つは、ソフトローによる自主的取り組みが循環経済構築に大きな効果を発揮したら、EUの環境官僚の一部は不要になってしまう。であるから、官僚主義のEUではソフトローに基づく自主的取り組みが推奨されにくいのである。2つ目の理由は、前編でも述べたが、「絶対的個人」や「先験的主観」の言葉に見られるように「個」概念の強い欧米社会では、相互共存在的意識に基づいた業界の自主的取り組みが日本のような強い形では機能しにくいと言うことである。
 だとしたら、ここに日本の優位性を発揮するチャンスが大いにある。例えば、今、大きな問題となっているプラスチック資源の高度な循環利用という課題を例に見てみよう。プラスチック資源は安全性、保健衛生性、生活快適性などの多くの面で非常に優れた資源性を発揮している。問題は、使用済みプラスチックの潜在汚染性を極力小さくするとともに、汚染性を顕在化させないことである。そして、一旦使用済みになった後も、資源の高度な循環利用を実現することである。
 しかしプラスチックは素材としてあらゆる産業、あらゆる製品に入り込んでいるために、その生産物連鎖は錯綜していて制御が難しい。国の画一的ハードローでプラスチック資源に関わる生産物連鎖を制御するのは困難である。であるならば、業界を単位として自主的取り組みを構築し、異業種間の自主的取り組みをネットワーク化することで、健全で円滑なプラスチック資源の循環利用が実現できる可能性がある。
 ただその時留意すべきことがある。それは、異業種間の自主的取り組みをつなげる場合に、インターフェースがうまく作れるかどうか、作れたとしても全体の整合性をどのようにしてとるかなどの課題がある。また、自主的取り組みをネットワーク化した時のPDCAサイクルをどう実現するかという問題も残る。
 しかしこれまで日本はソフトローに基づいた自主的取り組みを数々成功させてきた。こうした新しい課題に取り組み、解決することは企業や業界の責務でもあり、またそれはCSVやCSRの延長線上にあるとも言える。そして、新しい形での自主的取り組みによって循環経済の構築ができれば、日本人の強い相互共存在意識のメリットを生かすことにもなるのではないか。今、日本が循環経済構築で世界に範を示せるまたとないチャンスである。

注1)
例えば、原田敏丸(1969)『近世入会制度解体過程の研究』(塙書房)参照
注2)
二輪車リサイクル自主取り組みについては、二輪車自主取り組み傘下事業者連絡会(2019)『二輪車リサイクル自主取り組み実施報告』、FRP船リサイクルについては、一般社団法人日本マリン事業協会『FRP船リサイクル事業概要』(日本マリン事業協会ホームページ)などを参照
注3)
通商産業省(1997)『使用済み自動車リサイクル・イニシアティブ』
注4)
一般社団法人家電製品協会(2020)『家電製品の環境配慮設計〜資源の有効活用を中心として〜』
注5)
鐡鋼スラグ協会(2019)『鉄鋼スラグ製品の管理に関するガイドライン』