海を救え。プラスチックのリサイクルは廃止に。

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(英 Global Warming Policy Forum(2018/06/28)より翻訳転載
原題:「SAVE THE OCEANS - STOP RECYCLING PLASTIC」)

 表題は、普通の人にとっては変な響きがあるだろうが、世界の「リサイクル」業界が海洋のプラスチックゴミ問題を大きくしてきたことは悲しい事実である。

 私が「リサイクル」をカッコ書きにしたのは、消費者から回収されたプラスッチクのうち実際にリサイクルされているのはほんの一部であるからだ。回収されたものは汚れがあり、また混合物が多すぎるため、例えば食品包装業界が求めるような高水準の原料を製造することは不可能である。回収されたプラスチックのほとんどは、単に焼却されるか集積されるかで、土地、河川、そして海に直接投棄されることさえある。

 廃棄物のリサイクル目標を守ることができない裕福な国が選んだ道は、プラスチックも紙も段ボールも、貧しい国、特に中国に、押し付けるということだ。アジアのほとんどの国では環境基準が低いため、廃棄物をより安価で管理することができる上、これらの廃棄物の流れから低品質のリサイクルプラスチックを製造して利益を出すことができる。もっとも、高度に汚染された状況下ではあるが。

 近年、中国に流れ込む廃棄物の量が大幅に拡大した。年間輸入量は8,500万トンに上り、そのうち800万トンはプラスチックだった。その量が多すぎて、港での検査が不可能になり、未分別あるいは有害な廃棄物でさえも「リサイクル資源」と偽装して送れば利益を生むことを知った悪徳業者は、裕福な国で掛かる埋立税や高い管理コストを避けるようになった。押し寄せる廃棄物の津波に対応しきれず、中国は大量の廃棄物の焼却または処分場などでの集積を余儀なくされた。そして、数知れない量が海にたどり着いた。

 したがって、この「リサイクル」狂気によって環境や公衆衛生が受ける被害は凄まじく、究極的には中国の手に負えないほどに大きすぎた。今や中国は廃棄物の輸入を全面禁止した。最近の統計は、英国のリサイクル業者はさらに環境基準の低いアジア各国に廃棄物を送り込むことで対処したにすぎないことを示唆している。そのため、将来的にはさらに多くの廃棄物が最終的には海に行き着くだろう。

 この間、EUはこの廃棄物の流れを削減するための対策は何も取っていない。相変わらず理想的な環境志向の夢を追い、「循環型社会」戦略を通じて海を救う努力の最先端に立っていると主張する。しかし、歴史は別の物語を語る。リサイクルに注目した取り組みの数々は、次から次へと環境災害を生み出してきた。プラスチックによる海洋汚染危機は一連の出来事の中で最新であるに過ぎない。読者は、いわゆる「エコボール」注1)に圧倒されたイタリアのカンパニア地方の廃棄物危機を覚えているだろうか。プラスチック廃棄物の3分の2がゴミの分別施設で受け入れを拒否されて「エコボール」となった。道はゴミで溢れ、カンパニアの各地にダイオキシンが広がり、最終的には社会秩序が崩壊した。

 紙リサイクルを含む全てのリサイクル制度が、プラスチックゴミまたはマイクロプラスチックを環境に漏出していることを理解しなければならない。本当に海を救うことを大事に思うなら、プラスチックや紙のリサイクルは廃止するべきである。焼却処理というわかりやすくて妥当な代替策もある。廃棄物を焼却することによってカンパニア地方も廃棄物管理システムを安定した状態に戻すことができた。また、多くのEU諸国でも焼却処理を廃棄物処理戦略の中心に据えており、各国で大きく成功している。しかし、他の対策(埋め立てやリサイクル)に対する優位性が明白であるにも関わらず、廃棄物の焼却処理はEUの政治家や官僚に退けられ、妨げられている。そして、最も重要なのは、さらに複雑なリサイクルシステムを導入するようロビイングを続ける「リサイクル業者」と環境NGOの癒着である。EUは海洋汚染との闘いに真剣に取り組む意思があるなら、プラスチックのストローを廃止する前にプラスチック廃棄物の輸出を禁止するべきである。

 誰かがかつて言ったように、「手を汚さずに金儲けはできない。(糞があるところには富がある)。」残念なことに、リサイクルに関してはその代償は消費者一般が払っているだけではなく、海、そして自然環境全体に負担させてしまっている。

注1)
エコボールについて
http://www.ceecec.net/case-studies/waste-crisis-in-campania-italy/

【 著者紹介 】
ミッコ・ポーニオ(Dr.)はフィンランドの公衆衛生の専門家で、ヘルシンキ大学で一般疫学の非常勤教授を務める。新しく発表された論文「Save The Oceans ― Stop Recycling Plastic」の著者。

解説:国際環境経済研究所 理事長 小谷勝彦

 EUは海洋プラスチック問題に対処すべく、「プラスチック戦略」として、プラスチック・ストローの使用禁止や廃プラのリサイクルを強化しようとしているが、フィンランドの公衆衛生学者Dr.Mikko Paunioが、6月28日、Global Warming Policy Foundation(GWPF)に掲載した論文を紹介した。

「海洋プラスチック汚染の75%は中国等における不法投棄であるが、25%はヨーロッパからリサイクル目的で中国に輸出され、処理できないものが河川、海洋に流れたものである。(International Solid Waste Association(ISWA))

 中国政府は、今年1月、廃プラの輸入禁止を実施したが、行き場を失った廃プラは環境規制が緩やかなアジア諸国に流れ込み、かえって海洋汚染を悪化させる。
 EUの廃プラスチック・リサイクルは、商流として中国等で最終処理を行うシステムであり、今後、EUがリサイクルを強化するということは、再利用できない廃プラの海洋投棄が増大する。」と警告している。

 廃プラの処理には、Landfills(埋立)、Recycling(リサイクル)、Incineration(焼却)があるが、環境NPOやブラッセルのEU官僚たちは、Incineration(焼却)を、ダイオキシンなどの大気汚染に加えて、焼却のために燃料を使用することから温暖化面から敵視してきた。同様に、Landfills(埋立)も温室効果ガスであるメタンを発生することから嫌われており、Recycling(リサイクル)が最も好ましいとしてきた。
 ところが、2015年までの廃プラの累積処理は、79%がLandfills(埋立)、Incineration(焼却)は12%に対し、Recyclingは9%にとどまっているのが実態である。

 現在、高温焼却法の確立でダイオキシン除去は技術的に克服され、燃えにくい生ごみも廃プラを燃料として使うことで、LNGや石炭の使用削減につながることからIncineration(焼却)は実績を上げてきている。さらに焼却灰も溶融化することでLandfills(埋立)での汚染も無くなりつつある。

 Dr.Mikko Paunioは、「EU域外への廃プラ輸出を禁止するとともに、温暖化の観点からも問題がないIncineration(焼却)を増やすべき」と主張している。

 今後、日本国内でも海洋プラスチック問題が議論されるが、我が国は市民の分別回収の努力に支えられた廃プラの国内法制度を整備してきた。ところが、現実には、廃プラが有価物として中国に輸出されており、今回の中国政府の輸入禁止で、国内での処理の議論が起こってくるだろう。
 日本の識者の皆さんに、「EU起因で起こっている海洋プラスチック汚染」の現実を示し、情緒的ではなく冷静な議論を期待する。

(参考)
Plastic China 世界中から廃プラを集める中国
Plastic China その後 -中国で「海外ゴミ」輸入禁止の動き-

※ Global Warming Policy Foundationの邦訳記事一覧はこちら