マイクロプラスチック 

サーキュラー・エコノミー(循環型経済)がもたらす環境破壊

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 海洋におけるマイクロプラスチックが問題視されており、「サーキュラーエコノミー」がEUを中心に我が国でも提唱されている。
 しかし、プラスチックのリサイクル過程で粉砕されたプラスチック片が汚水として海に流されている事実は、我々にとっても「目から鱗」である。「マイクロプラスチック対策」のはずの政策が、かえって害をもたらしているとは衝撃である。
 著者のミッコ・ポーニオ氏は以前にも国際環境経済研究所で取り上げたが、「マイクロプラスチック」に真面目に取り組む企業人、行政機関の人たち、研究者にとって、添付の参考文献も含めて有益であると思われる。

(国際環境経済研究所 理事長 小谷勝彦)

監訳 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志 訳 木村史子

本稿は、MICROPLASTICS THE ENVIRONMENTAL HARMS OF THE CIRCULAR ECONOMYを、The Global Warming Policy Foundationの許可を得て邦訳したものである。

謝辞

 過去20年にわたり廃棄物管理技術に関する戦略的助言を与えてくれたオーボ・アカデミー大学(フィンランド、トゥルクにあるスウェーデン系大学)のジャール・ダールベック非常勤教授(環境保護技術専門)に深く感謝する。

著者について

 ミッコ・ポーニオMD, MHS は1961年フィンランド、トゥルク生まれ。1990年にヘルシンキ大学を卒業し、同大学で博士号を取得。1991年ブリュッセル自由大学大学院修士課程修了、1993年ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学校にて修士課程修了。ヘルシンキ大学において公認の公衆衛生専門者(1999年)となり、同大学にて一般疫学の非常勤教授を務める。
 フィンランド保健厚生研究所、ヘルシンキ大学、ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学校、欧州委員会、世界銀行、フィンランド社会問題保健省に勤務。また、アメリカ科学保健評議会の科学政策諮問委員会委員も務める。全米保健研究所アメリカ医学図書館に、刊行物40 点が所蔵されている。過去20年にわたり、健康保護の観点からEUおよび国際的な廃棄物政策問題に関する議論に注目し、積極的に参加している。

要旨

  • 新たなデータにより、最大で200万トンのマイクロプラスチックがプラスチックリサイクル工場から世界中の水路に流出している可能性が明らかになった。
  • 廃棄物の焼却は、リサイクルよりも安価で環境に優しい。
  • しかし、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)推進がその普及を妨げている。

マイクロプラスチック

 昨年、中国、イギリス、ベトナムの3カ国から、メカニカルプラスチックリサイクル工場からの排水に含まれるマイクロプラスチックの量に関する重要な科学的研究が発表された1,2,3。それによると、現在放出されている量は天文学的な数字であり、廃水1立方メートルあたり最大750億個であることが明らかになった。これは、廃水処理場から放出されるマイクロプラスチックよりも数桁多い量である。

 英国で最新の処理技術を導入した工場で実施された最新の研究3では、投入されたプラスチック廃棄物の最大6%がマイクロプラスチック粒子として廃水の流れに流れ込むと推定された。この工場から排出されたマイクロプラスチックの約80%は、直径10ミクロン(μm)以下であった。これは、排水からろ過するには小さすぎるが、自然や人間の健康に最も有害な大きさである。研究者たちは1.6μm以上のマイクロプラスチック粒子しか考慮していないため、その数は過小評価である可能性が高い。

 また、工場周辺の空気中には高レベルのマイクロプラスチックが存在し、粒子の61%が10μm以下であった。このことは、施設の屋内空気にも高濃度の直接吸入可能な微粒子が存在することを示唆している。研究者によれば、この発見は、作業員を保護するための対策の導入を正当化するものだという。

 最近のインタビュー4で、この研究のチームは、世界のプラスチック生産量は毎年4億トン近くにのぼり、そのうち9%がリサイクルされていると説明した。このことは、プラスチックのリサイクル施設から毎年200万トンものマイクロプラスチック粒子が放出されている可能性を示唆している。

 メカニカルプラスチックリサイクル工場の排水に高濃度のマイクロプラスチックが含まれていることは、私にとって驚きではなかった。私の2018年の報告書「Save the Oceans – Stop Recycling Plastic(海を救え-プラスチックのリサイクルを止めよ)5では、オランダの紙リサイクル工場が、比較的少量のプラスチックしか受け入れていないにもかかわらず、毎年6万トンのマイクロプラスチック粒子を北海に流出していることを指摘した*

 したがって、現在のエコ政策とさらなるリサイクルの要求は、世界中のマイクロプラスチック汚染を著しく増加させるという結論に達することができる。

紙はしばしばプラスチックで覆われている。さらに、リサイクルのために回収された紙には、プラスチックが混入していることが多い。

マクロプラスチック

 もちろん、裕福な国から発展途上国へ輸出されたプラスチック廃棄物が、単に海洋に投棄されることが頻繁にあることは、今ではよく知られている。プラスチック廃棄物に関する私の2018年の報告書の10ヵ月後、バーゼル条約はOECD諸国が汚れたプラスチックを発展途上国に輸出することを禁じた6。2019年に発表したフォローアップ報告書7で私は、処理能力が限られているため、この結果、EUにプラスチック廃棄物が制御不能なほど蓄積されると予測した。しかし、実際にはそうならなかった。以下の理由からである:

  • バーゼル条約の抜け穴の存在(PET*1ボトルなどのプラスチック廃棄物を発展途上国に輸出することは可能である)8
  • 不法な廃棄物取引は、麻薬取引よりも儲かる9

 多くの発展途上国は、合法的または非合法的に輸入されたプラスチック廃棄物をエネルギー生成に利用してはいる。だが一方で、リサイクルできるものがほとんどないため、単に川や海に捨てたり、たき火で燃やしたりしている国々もある。

 その一方で、現在では、特に東南アジアで、メカニカルリサイクル工場でリサイクルされる量が増えている10,11,12。これには合法的なものもあれば非合法なものもある。

 この展開は、プラスチックのリサイクルを求める政治的圧力と、バージンプラスチックの価格を押し上げた世界的なエネルギー危機(特にヨーロッパにおける天然ガス価格の高騰)の両方の結果である13。また、違法な廃棄物密売(特にポーランド14などの東欧諸国やトルコ15などの域外への密売)により、英国や裕福なEU諸国におけるプラスチック廃棄物の蓄積は減少している。

*1
ポリエチレンテレフタラートは、食品や飲料の包装に使われる一般的なプラスチックである。

より良い方法とは:焼却

 プラスチック廃棄物には、焼却というもっと良い方法がある。2022年8月、私は、フィンランドがサーキュラー・エコノミー(循環型経済)の推進において他国に先んじているという根拠はどこにあるのかと質問された16。これに対して私は、フィンランドは自治体のリサイクルに多額の投資を行ってリサイクルを推進してきたと説明した。しかし、この分野において新しいミレニアムの最初の10年間に費やされた数億ユーロは、特に悪臭が広範囲に影響を及ぼすという不幸な結果を招いた17。加えて、例えば農業への恩恵など、期待されていたものはほとんど実現しなかった*2。その結果、フィンランドは方向転換し、デンマークやスウェーデンですでに稼働しているのと同様の廃棄物エネルギー発電所のネットワークを構築した。昨冬のエネルギー危機の際、これらのプラントはフル稼働し、フィンランドのリサイクル率を向上させるという環境保護主義者たちの夢を事実上打ち砕き、なくてはならない存在となった。その割合は、EUのサーキュラー・エコノミー(循環型経済)パッケージで定められた法的な基準よりもはるかに低く18、その結果、欧州委員会は最近、フィンランドを早期警戒リストに入れた19

 焼却はまた、もうひとつの緊急の廃棄物管理問題、すなわち廃水処理場の排水から抽出される汚泥をどう処理するかという問題に対する解決策も提供する。この汚泥にも除去できないマイクロプラスチックが大量に含まれている。実はこのような方法で問題に対処するというアイデアは決して目新しいものではない。日本には、環境上の理由から、ほとんどすべての汚泥を焼却するという長い伝統がある20。スカンジナビア諸国で稼動しているような、高い焼却温度(850℃以上)で十分に長い時間廃棄物を燃やす最新の廃棄物焼却プラントは、プラスチックを含む混合一般廃棄物を処理するのと同様に、乾燥汚泥を安全に処理することができるのである21

 プラスチックの焼却は、気候、野生生物保護、環境衛生、経済の観点から、他のどの方法よりも優れている5,6。一方、熱分解によるケミカルリサイクルは、温室効果ガスの排出を劇的に増加させるため、以前から問題視されてきた22,23。しかし、EU全域で焼却を拡大しようとする努力は、最近の環境法と規制の進展によって妨げられている。例えば、EUの2018年サーキュラー・エコノミーパッケージである8。ネット・ゼロ法、特に2022年の「Fit for 55」パッケージや2018年の分類法規制(タクソノミー)24,25も、サーキュラー・エコノミー(循環経済)の概念に基づいているが、それが新たな障壁を作ってしまっている26。また現在、リサイクルを中心とした世界的なプラスチック協定の締結も試みられている27

*2
例えば、コンポスト(堆肥化)。

結論

 焼却は、廃棄物収集が効果的に組織化される限り、その発生源が何であれ、マイクロプラスチック汚染の問題を解決することができる。しかし、上述のように、立法・規制当局は、より費用がかかり、より環境破壊的なアプローチに固執しているように見える。焼却は、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)の理念や「地球を救おう」という迷信に相反するものなのである。

 今やグリーンピースでさえ、プラスチックのリサイクルは「行き止まりの道」だと認めている28。そもそもプラスチックの長所自体がその存在を不可欠なものにしている。例えば、プラスチック包装がなければ、食品廃棄物はもっと大きな問題となり、衛生状態は根本的に悪化するだろう。このまま環境保護主義者の主張に従えば、人類の福祉に与える損失は計り知れないであろう。

参考文献

1.
G Suzuki et al. Mechanical recycling of plastic waste as a point source of microplastic pollution. Environmental Pollution 2022; 303: 119114.
2.
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3.
E Brown et al. The potential for a plastic recycling facility to release microplastic pollution and possible filtration remediation effectiveness. Journal of Hazardous Materials Advances 2023; 10: 100309.
4.
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5.
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6.
Basel Convention.
https://www.basel.int/Implementation/Plasticwaste/Overview/tabid/8347/Default.aspx.
7.
M Paunio. Saving the Oceans and the Plastic Recycling Crisis. Note 16, The Global Warming Policy Foundation. https://www.thegwpf.org/content/uploads/2019/05/Paunio-Baselagreement.pdf.
8.
See
https://www.basel.int/Implementation/Plasticwaste/PlasticWasteAmendments/FAQs/tabid/8427/Default.aspx.
9.
Europol. Environmental Crime in the Age of Climate Change. Threat Assessment 2022.
https://www.europol.europa.eu/cms/sites/default/files/documents/Environmental_Crime_in_the_Age_of_Climate_Change_threat_assessment_2022.pdf.
10.
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https://documents1.worldbank.org/curated/en/272471616512761862/pdf/Market-Study-for-Malaysia-Plastics-Circularity-Opportunities-and-Barriers.pdf.
11.
Market Study for Thailand: Plastics Circularity Opportunities and Barriers. World Bank Group, 2021.
https://documents1.worldbank.org/curated/en/973801612513854507/pdf/Market-Study-for-Thailand-Plastics-Circularity-Opportunities-and-Barriers.pdf.
12.
Market Study for Philippines: Plastics Circularity Opportunities and Barriers. World Bank Group, 2021.
https://www.worldbank.org/en/country/philippines/publication/market-study-for-philippines-plastics-circularity-opportunities-and-barriers-report-landing-page.
13.
A Uhler. Even if we manage to stop using oil as fuel, plastics made from oil will be harder to give up. Marketplace, 24 March 2022.
https://www.marketplace.org/2022/03/24/even-if-we-manage-to-stop-using-oil-as-fuel-plastics-made-from-oil-will-be-harder-to-give-up/.
14.
J Bronska. Illegal waste exports to Poland on the rise. Deutsche Welle, 18 January 2021.
https://www.dw.com/en/polands-growing-problem-with-illegal-european-waste/a-55957224.
15.
R Soylu. Turkey becomes Europe’s dumping ground for illegal plastic waste. Middle East Eye, 17 May 2021. https://www.middleeasteye.net/news/turkey-uk-germany-plastic-waste-dumped-illegally-greenpeace.
16.
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https://www.realclearenergy.org/articles/2022/09/05/the_circular_economy_a_return_to_soviet-style_five-year_plans_851567.html
17.
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18.
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20.
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22.
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28.
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