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日本で電力安定供給の危機?(その2)


J-POWER 執行役員、京都大学経営管理大学院 特命教授


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はじめに

 前回は、今の日本で起きている電力安定供給の危機について、本年3月22日の東京電力エリアにおける需給ひっ迫の例に注目した。今回は、供給力不足の背景にあるもの、需給ひっ迫報告書が指摘している「構造的な背景」について考えてみたい。
 前回書いた通り、需給ひっ迫報告書では、「構造的課題」の一つとして「再エネの導入拡大に伴う稼働率の低下等により、火力発電所の休廃止が増加」ということが挙げられているが、火力発電所の減少を再エネが代替すれば問題ないのではないか?と思われる方もいるかもしれない。確かに、近年の発電電力量構成において再エネの割合は大きく増加してきており、電源が何であろうが電気エネルギーに変わりはないので問題はないが、電気エネルギー(kWh)と供給力(kW)は異なるのである。

供給力への再エネの寄与

 需給ひっ迫警報が発令される条件は、以下の通り注1)である。

広域機関による融通指示等、あらゆる需給対策を踏まえても、広域予備率が3%(ただし、2021年度は複数エリアで3%)を下回る見通しとなった場合、前日18:00を目途に資源エネルギー庁から警報を発令。

 広域予備率の正確な算定方法については文末脚注注2)を参照されたいが、シンプルに言うと、予備率は最大需要に対する供給力の余力の割合である。では、改めて「供給力」とは何だろうか?供給力とは、その時点で「確実に発電可能な設備出力」であり、「運転中の発電所の設備容量の合計値」とは異なる。火力発電所であれば、設備補修のために負荷を下げて運転している場合や、ガスタービンの高温時の効率低下を考慮した設備出力が供給力である。では、発電量が天候に左右される太陽光と風力は、供給力にカウントされるのだろうか?
 これについては「電力需給バランスに係る需要及び供給力計上ガイドライン」注3) に定められており、「風力および太陽光の供給能力は、送電端設備量に広域機関が提示する調整係数を乗じて算定すること」となっており、風力と太陽光にも供給能力があることがわかる。この調整係数は電力広域的運営推進機関(OCCTO)が、エリア毎、年度別、月別に太陽光、風力、水力、揚水について定めて公表しており注4)、以下は、北海道、東京、九州の2022年度の調整係数を抜粋したものである。

 これら調整係数は、過去の需要、太陽光・風力発の電電力量のデータに基づいて定められた注5) 値であるが、エリアおよび季節により大きくバラついていることがわかる。太陽光は北海道で0.3~8.7%、東京で0.3~25.3%、九州で0.2~12.7%、風力は北海道で11.3~34.4%、東京で4.7~35.4%、九州で5.0~29.3%という範囲にあり、太陽光に比べると風力の方が高い。また、総じて太陽光の調整係数は夏場に高く、冬場は低いのに対して、風力は逆に夏場に低く、冬場に高く、更に1年を通じてほぼ、北海道>東京>九州という傾向がある。なお、上掲は2022年度の値であるが、需給ひっ迫が起きた本年3月の東京エリアの太陽光の調整係数は0.9%であった。

 つまり、火力発電所は設備トラブルなどがない時には設備容量の100%を供給力にカウントされるのに比べると、太陽光、風力の供給力はエリアにより異なり、時期によって変化し、また設備容量の1%以下から30%台と低いレベルにある。このため、退出する火力発電所の供給力を再エネで「代替」するのは難しく、火力発電所の休廃止に伴って構造的に供給力が低下することになる。将来、主力電源化を目指すということであれば、太陽光、風力も供給力として頼れるようになる必要があるだろう。

再エネ増加のもたらす影響 ―太陽光発電の例―

 次に、再エネの導入増加が火力発電所に与える影響について、もう少し深く考えてみたい。2012年に固定価格買取制度(以下FIT)が導入されて以降、再エネの発電量に占めるシェアは当時の10%から2020年には20%へと上昇しており、着実に再エネは、火力発電による電気エネルギー(kWh)を代替しつつある。これについては前述した通り、消費者にとって(再エネ賦課金による負担増を除けば)問題はない。しかし、発電事業者と送配電事業者は、太陽光と風力(自然変動再エネ)の導入量が一定以上に増加すると、運用が困難になり、厳しい問題に直面する。

 以下に、2021年度末におけるエリア別の電源種別の設備容量比率(2021年度末)発電設備シェアを示す。


表1 エリア別の太陽光および風力の設備容量(2021年度末)
出典:OCCTO「2022年度供給計画の取りまとめ」

 太陽光の発電設備容量シェアに注目すると、最も高いのは32%の九州であるが、東北、中部、中国、四国も既に20%を超えている。前回、需給ひっ迫時の東京エリアの需給をグラフで示したが、今回は太陽光発電の増加が電力需給に与える影響を見るために、東京エリアと太陽光シェア最大の九州エリアの電力需給を比較して示すこととする。

 エリア毎の送配電事業者は、優先給電ルール(後述)に従って、需要からこれらFIT電源による発電量を差し引いた「残余需要」を満たすようにエリアの発電事業者に発電を指令(給電指令と言う)する。以下に、5月12日からの1週間注6) の東京エリアと九州エリアによる電力需給のデータに、この残余需要を計算して追加したグラフを示す。


図1 2022年5月12~18日の東京エリア(上)と九州エリア(下)の電力需給と残余需要
東京電力パワーグリッドおよび九州電力送配電公開データから作成注7)

 太陽光発電量(黄色)の多いときには、残余需要のカーブ(赤線)がエリア需要のカーブ(黒線)から大きく乖離していることが見てとれるが、特に九州電力では、残余需要が日中大きく下がり、くっきりとV字型になっているのが特徴的である。この期間の残余需要の最大値に対する最小値の割合は、東京エリアでは65%であるのに対して九州エリアでは僅か5%と、九州ではV字の「谷が深い」ことがわかる。また、この期間の火力発電の最大値に対する最小値の割合は、東京エリアでは52%であるのに対して、九州エリアでは25%となり、九州エリアでは火力発電所の出力を大幅に抑制する必要があることがわかる。

 優先給電ルールでは、太陽光、風力の出力制御を行う前に、火力発電所と制御可能な水力発電所の出力抑制、揚水発電所の揚水運転、系統連系線によるエリア外への電力融通、バイオマス専焼の出力抑制、を行うこととなっている。実際にこのルールに沿って、どのように運用しているのか、図1の中でも特に太陽光発電量が多い九州エリアの5月14日を例にとってみよう。


図2 九州電力の2022年5月14日の電力需給と残余需要

 残余需要(赤線)は、5時台に太陽光(黄色)が発電開始すると下がり始め(①、②で対応)、12時から15時までほぼ横ばいで推移し(③、④で対応)、15時から太陽光発電量減少と共に増加して19時にピークを打つ(⑤で対応)という変化をしている。このように大きく変化する残余需要の変化に対して、送配電事業者はカッコ内の番号に対応した以下のような運用を行っている。

火力発電量(灰色)を低下させていくが、調整力確保のための最低出力に10時に達する(これ以上は下げられない)
揚水発電所の揚水運転(紺色)と系統連系線経由の送電量増加(追加的な需要を生じさせて太陽光発電を消費)
優先給電ルールに従って12~14時は太陽光発電の出力抑制(黄色と赤の縞)を行う
火力発電量を増加させる
火力発電が上限に達すると揚水発電を行う

 送配電事業者は、優先給電ルールに従って、火力発電を最大限絞り、揚水運転を行い、エリア外への電力融通量を増加させ、それでも残余需要が需給バランスを崩すレベルになって初めて、③の太陽光発電の出力抑制を行っている、ということが示されている。送配電事業者はこれらの運用を太陽光発電量を予測しつつ行うが、天候の急変により予測が外れるリスクはあり、その影響(最悪は需給バランス崩壊による停電)は太陽光導入量が多いほど高くなる。送配電事業者に要求される運用技術はますます高度になり、直面するリスクはますます大きくなっている。

 発電事業者にとっても運用の難しさは増している。日の出前は700万kWの出力で発電していた発電所を正午前後は200万kWまで低下させるために、一部(発電コスト的には石炭火力か)は最低負荷まで下げて発電を継続し、一部(起動停止が早いGTCCか)は運転停止する必要がある。そして、日没後の点灯ピークに合わせて運転継続していた発電所は増負荷し、停止していた発電所を再起動する、という運用を送配電事業者の給電指令に従って行っている。一日ずっと定格運転をするような火力発電所は存在せず、日々の増減負荷、起動停止に追われていることがわかる。

 今は一部のエリアにおける特別な運用かもしれないが、第6次エネルギー基本計画の2030年目標に沿って、太陽光発電設備がますます増加すれば、他の多くのエリアでも(全てのエリアで?)このような運用が行われるようになる。風力が多いエリアでは、太陽光と風力の両方の予測をしつつ運用する必要があり、更に難度は上がる。

 電気エネルギーには変わりはないが、再エネ導入により難しくなってきた需給バランスを送配電事業者と発電事業者が必死になって秒単位で合わせているからこそ安定供給が実現していることを、我々は忘れないでおくべきである。

注1)
2021年3月に電力広域的推進機関(OCCTO)が経産大臣宛に提出した意見に「需給ひっ迫の備えについて検討が期待される」とあったことで、経産省での検討が4月から開始され、その中で需給ひっ迫宣言について見直しが行われた。
OCCTO「2021年度供給計画の取りまとめに関する経済産業大臣への意見について」
https://www.occto.or.jp/kyoukei/torimatome/files/210331_kyokei_iken.pdf
経済産業省 第33回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 資料6
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/033_06_00.pdf
注2)
OCCTO 第47回調整力及び需給バランス評価等に関する委員会 「広域予備率管理による需給運用について」
https://www.occto.or.jp/choutatsu/2021/files/210527_web_shiyousho5.pdf
注3)
資源エネルギー庁「電力需給バランスに係る需要及び供給力計上ガイドライン」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electricity_measures/001/pdf/guideline.pdf
注4)
OCCTO「2022年度供給計画で用いる太陽光・風力・自流式水力・揚水式水力のエリア別調整係数」
https://www.occto.or.jp/kyoukei/teishutsu/files/202111_choseikeisu_l5_ichiran.pdf
注5)
OCCTO容量市場の在り方検討会の資料によれば「風力発電の供給能力は、過去の発電実績が把握可能な期間について、水力の評価手法を参考に、最大需要発生時における発電実績の下位5日平均値により評価する。太陽光発電の供給能力は、過去20年間の最大3日平均電力の該当当日において、エリアの一般送配電事業者が指定する時間における、発電推計データ(計60データ)から、下位5日平均値を算出し、これより自家消費分(算定対象期間は直近の5年間)を変じて評価する。(電力需給バランスに係る需要及び供給力計上ガイドライン(平成28年12月)より)」とのこと。
注6)
需要が低く、かつ晴天が多い時が最も供給力の維持が難しいという意味でこの時期を選定。ただしGWは需要が通常と異なるため外している。
注7)
東京電力パワーグリッド「過去の電力使用実績データ」
https://www.tepco.co.jp/forecast/html/download-j.html
九州電力送配電「エリア需給実績データ(四半期毎実績)」
https://www.kyuden.co.jp/td_service_wheeling_rule-document_disclosure