震災後10年 福島の農業のこれから(後編)
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NPO法人0073(おおなみ)の手作り感あふれるホームページを見ると、米以外に扱われている地域産品を知ることができます。
フルーツ王国の福島らしく、さくらんぼ、桃、梨、葡萄、りんご等々およびそれらの関連商品が目を引きます。福島の桃についてはオリンピックで福島を訪れたオーストラリアチームの絶賛ぶりが報道され話題になりましたが、こうした美味なる県産品を多品種扱うことはNPO法人0073のファンベースの拡大につながっています。フルーツ目当てだった会員が米を買う、あるいはその逆のパターンも数多く存在することでしょう。
そうした商品ラインナップの中で異彩を放つのが干し芋とその派生商品です。実はこれがNPO法人0073永井代表の「稼げる、やりがいのある農業」へのチャレンジの鍵を握っているのです。
今大波地区では永井氏が中心となって干し芋の特産品化が進められています。大波の冬場の寒冷な気候は干した芋が甘みを凝縮するのに適しています。そして干し芋の製造時期は米農家の農閑期にあたります。そこに目をつけて製造された干し芋を会員販売したところ、たちまち人気商品となったのです。昨年度はさつまいもが足りなくなり、茨城県から急遽取り寄せることになるほどだったそうです。
もちろんこの成功も一夜にして成ったわけではありません。永井氏が干し芋の本場茨城県の農業生産法人に製造方法を教わりに行ったり、また近隣の漬物メーカーの冷蔵保管庫を借り受けたり、更には元々サツマイモを栽培していなかった大波地区で試験栽培を行い、その適地であることを確認したり、知的障害者支援施設と連携してサツマイモの栽培に取り組んだりと様々な努力が積み重ねられています。
大波地区の農家との関係では、付加価値のある商品開発により農家にとって魅力的な価格でサツマイモを買い取り、また冬場の干し芋製造繁忙期の労働力を農家によって賄うことで農家の収入が二重構造で増加するよう工夫されています。
サツマイモ栽培、干し芋製造には、昨年新規就農者として大波地区に移住した宮城県出身の若者が関わっており、収入の増加とは違った点で地域に希望を与えています。
軸となる米作りを残しながら、干し芋の特産品化に取り組むことで大波地区の農業には活性化の道筋が開かれたように見えます。
この干し芋の特産品化は今新たな局面を迎えています。この春、新商品が登場したのです。これまで捨てていた干し芋を加工する際に生じる端材をていねいに集めてスイートポテトのようにオーブンで焼いた商品ですが、実はサツマイモの皮に近い部分は甘みが強くスイーツ作りに最適です。スイートポテトのようではありますが、こちらはサツマイモ100%の自然の甘みが売りです。これまで捨てていた部分ですから、干し芋事業への収益性ひいては大波地区の稼ぎへの貢献は大きなものがあります。
先に紹介した新規就農の若者が「こがし蜜いも」と絶妙なネーミングをしたこの商品のターゲットは女子高生。自分たちが作る商品が若者に喜んでもらえるとなれば、これまで地道に米作りに勤しんできた大波地区の農家のやりがいも上がるのではないでしょうか。
さらに永井氏は大波地区にサツマイモスイーツを売り物にしたカフェの開店を目指し、担い手探しやプリンなどスイーツの試作に取り組んでいます。福島市内からは少し離れてはいますが、浜通りに向かう国道沿いの立地を生かしスイーツ好きを呼び込めたら米の直売なども可能になるかもしれません。大波地区にとっては貴重な住民の憩いの場にもなるでしょう。今後の展開を見守りたいと思います。
ここまで、NPO法人0073の活動を掘り下げることで大波地区の農業振興の道筋を見てきました。個々の農家ができることに限りがある中、永井氏なしでは難しかったのではないかと思われる部分も少なくありません。ただ、おいしいものを作れる農業が土台になっていることは再確認しておく必要があります。そしてそれができる土壌は福島県内に広く存在しています。
農業の復活を期す浜通りでもおいしいものを作り、それを特産品化しようという動きが始まっています。ふたば未来学園(広野町)がプロデュースした商品も販売されるようになりました。秋発売を目指し大熊町のいちごを使ったパンの試作が、進んでいるとの報道もされています。大熊町で再開した喫茶店でもいちごを使ったドリンクの販売が始まりました。農産品もふたば未来学園もそして再開した喫茶店も地域の重要な資源です。浜通りでは農業の自信回復にもエネルギーが必要で、稼げる、やりがいがある農業に向けて課題は少なくありません。それでも地域の資源に目を当てこれを生かすことができれば、少しずつ浜通りの農業の今後が開けてくるのではないでしょうか。
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