コロナ禍で「シェアリングでエコ」というシナリオが崩壊するのか


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

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 環境問題の研究者や運動家の多くが、「人々の価値観が変わり、モノの所有が時代遅れとなり、シェアリングによって環境負荷が下がる」というシナリオを唱道してきた。だがコロナ禍は、これに巨大な疑問符を突き付けている。歴史的に、人々の衛生観念は強くなる一方であったし、今後もこのトレンドは変わらないだろう。ならば、モノやスペースはますます所有されるようになり、シェアリングはむしろ減るのではないか。これはエネルギー消費の増大を意味する。

1.シェアリングでエコというシナリオ

 コロナ禍の直前まで、「デジタル化の進展に相俟って、モノ・スペースのシェアリングが進み、所有が減るため、環境負荷も減る」というシナリオが環境問題研究者の間で流行し、環境運動家の支持を得ていた。
 例えばIPCCが2018年にまとめた「低エネルギー需要シナリオ」においては、デジタル化と組み合わせたモノのシェアリングが大幅なCO2削減に寄与すると想定されている注1) 。IEAが2017年にまとめた「デジタル化とエネルギー」報告書でも、デジタル化による省エネの技術的可能性が検討された注2)
 部門別の検討もされた。最も注目を集めてきたのは、自動車のシェアリングによって、自動車の台数が減る、というものである。自動車は、現在、僅か5%の時間しか利用されておらず、95%の時間は駐車しているという。これをデジタル技術によってシェアリングすることで、大幅に少ない自動車台数で、モビリティの需要に対応できる、というシナリオが描かれた。
 ホテルについても、空き室があれば、デジタル技術を用いて宿泊客を泊めることで、新たなホテル建設需要などを抑制できる、とされた。オフィスについても、シェアリングされるレンタルスペースがあることで、オフィスを所有する必要がなくなる、とされた。衣服についても、多くの衣服を買い込んでクローゼットにため込むのではなく、デジタル技術を用いて、好きな時に、好きな衣服をレンタルする、とされた。
 何れも、単にシナリオが描かれただけではなく、その先駆と見られるビジネスモデルが成功しており、将来を示唆するものとされた。自動車のシェアリングではUber、衣服ではエアクローゼット、ホテルではエアビーエヌビー等が登場した。
 シェアリングが進む理由については、「デジタル化などの技術進歩と経済性の改善」を主な理由とする「技術的イノベーション」を重視する見方(筆者もこちらの立場だった注3) )と、「人々の価値観が変わる」という「社会的イノベーション」を重視する意見があった(IPCCもそうだが環境研究者・運動家はこちらが多い)。後者では、「モノを持つのは格好悪くまた煩わしいことであり、モノを持たず必要な時だけモノを借りる、という簡素なライフスタイルが好まれる」という価値観が広がる、とされた。

2.コロナ禍で打撃を受けたシェアリングビジネス

 だがコロナ禍で、接触感染や飛沫感染を避ける必要が認識されて、モノのシェアリングには強烈な逆風が吹いている。
 Uberの経営は危機に瀕している。Uberだけではなく、伝統的なシェアリングであるタクシー、レンタカー、鉄道、バスも敬遠されている。それに代えて人々が選んでいるのはマイカーである。コロナ禍が他国より先に収まった北京では、鉄道利用者は以前に比べ半減し、マイカー利用は以前より増えた注4) 。武漢でもマイカーで交通渋滞が起きている注5) 。同様に、世界中で公共交通からマイカーへのシフトが進むと予想される注6) 。これはシェアリングとは明らかに逆行している。
 シェアリングを環境問題の研究者や運動家が語るとき、それは大量生産・大量所有・大量消費へのアンチテーゼとしての「価値観」ないし「規範」が共有されてゆく、という考えに基づいていた。だがこのような規範がどの程度の力を持ちうるか、という真剣な分析は欠落していた。せいぜい、タバコに関する人々の態度が変わったから、環境問題についても変わるだろう、という程度の議論に留まっていた。 
 今回分かったことは、衛生への関心の向上こそは、じつは、絶えまない強力なメガトレンドであり、社会経済の在り方を規定するドライバーになるのではないか、ということである。
 欧州でも日本でも、昔は誰もが不潔だったが注7) 、今の人は極めて清潔だ。消毒しすぎて、そのせいでむしろアレルギーになっているのではないか、と言われるほどだ(アレルギーの原因の「衛生仮説」という)。実際のところ、これ以上清潔にすることがどこまで科学的に合理性があるかはよく分からない。しかし、人々は年々清潔好きになっているというトレンドは事実として確認できる。身の回りはますます除菌グッズであふれるようになった。
 衛生への関心が高まると、人はモノを他人と共有しなくなる。スペースも共有しない。これが今起きていることである。紫原明子氏がアンケートへの回答を紹介している: 

 「物を所有することに興味を持ち始めました。長いことシェアハウスに住み、シェアリングエコノミー信者のミニマリストだったのですが、まさかシェアすることがウイルス感染リスクになるとは考えもしていませんでした。
 どんなに自粛しても家には他人がウロチョロしているし、安全に移動したくても車を持っていないしで、自分の所有物がないことにストレスを感じます。新型コロナウィルスが落ち着いた後も、生活スタイルを変えざるをえない気がしています。(20代後半、会社員)」注8)

 じつは衛生への関心からモノを共有しないというのは、意識はされてなかったものの、これ迄もそうだったのかもしれない。環境研究者は、人がモノを持ちたがる理由としては、「モノを持つべきという伝統的な固定観念」のせいとか、「見せびらかしたいという顕示的消費だ」とか、「デジタル技術が未熟でマッチングが出来ないからだ」、といった理由をつけてきたが、じつは違ったのではないか、ということだ。
 つまり、これ迄も、モノやスペースを他人と共有しなかった理由として、衛生観念なるものは、表立って意識はされていなくても、暗黙裡に、結構重要だったのかもしれない。電車の通勤が嫌で、マイカーを使っていた人は多い。飛行機のビジネスクラスでも電車のグリーン車でも、単に椅子が良いとか広いとかいうのではなく、他人との距離が離れていて「衛生的だ」ということが、暗に意識されていたのかもしれない。筆者の知り合いの経済学者は、だいぶ前、シェアリングのシナリオを見て「経済的に豊かになるのに、シェアなんてキモい、ありえない」と言っていた。

3.衛生観念の深化でエネルギー消費が増大する

 これまでのモビリティでは、社会的距離はさほど意識されてこなかった。だがこれからは、社会的距離を確保する措置を取りながら、モビリティが復活してゆくことになる。まずはマイカーへのシフトが起きるが、それに続いては、電車でも、バスでも、飛行機でも、スペースを広くとり、他の客と物理的に隔離された乗車の形が模索されてゆくだろう。
 同様のことは、あらゆる建築物でも起きる。まずは巣ごもり消費やデジタル化が進展するが、いつまでも巣ごもりだけではないし、またデジタル化はリアルを全て置き換えるには至らない。リアルな建築物は残り、そこでは、オフィス、病院、学校、レストラン、小売店、ホテル注9) など、あらゆる場所で、スペースは広く取られ、客同士は隔離されるような内装が施されるようになるだろう。
 モノのシェアリングも進まなくなる。中古品よりは新品が好まれる。繰り返し不特定多数にレンタルされるモノよりは、中古品の購入が好まれる。
 この傾向は、経済が成長して人々の所得が向上すると、ますます進むだろう。環境研究者や環境運動家は、「価値観の変化こそがシェアリングの原動力である」と考えていた。だがこれは思い込みに過ぎなかったかもしれない。野村総研のアンケートを見ても、シェアリングをする人々にとって、最大の理由は経済的動機であった注10) 。シェアリングが始まったころは価値観に基づいてシェアリングをしたいという人が主だったのかもしれないが、今ではそれは稀になり、単にモノを買えないから、あるいは安く上げたいからシェアリングをしているに過ぎないのである。と言うことは、時が経ち、人々の所得が向上するにつれ、シェアリングからは離れてゆくことになる。

4.CO2排出量の将来は:デジタル技術はますます重要になる

 モノやスペースのシェアリングが進まず、むしろマイカーや広いスペースが好まれるとなると、その様相は「車社会、何でも所有、しかも大型」となるから、いまの米国に似てくる。米国の一人当たりエネルギー消費は日本の倍もあるから注11) 、日本が「米国化」するならば、エネルギー消費は増えることになる。
 他方でもちろん、デジタル化することで省エネルギーの技術は進展する。AI・IoTを活用して、人の居る場所だけエアコンをかけ照明をつける、といったことが進展している。またコロナ禍を契機として、会議・出張、医療注12) 、教育注13,14) 、製造業注15) など、あらゆる分野で、デジタル化が進んでいる。これは生産性を向上させるのみならず、通勤通学といった移動や会議室・オフィスの冷暖房の為のエネルギー需要を削減する機会をもたらす。
 のみならず、AI・IoTは、社会的距離を保つためにも応用されつつある。以前から、道路や電車の混雑を避けるためにAI・IoTは活用されているし、類似の技術が、あらゆる混雑を避けるために発達するだろう。「社会的距離を保ちつつ、経済的な生産性を上げ、省エネも図る」という3つの目的を同時達成するために、デジタル技術は大いに活躍するだろう。

5.将来シナリオのドライバとしての衛生観念

 将来のエネルギー消費を決めるドライバとして、デジタル技術による省エネは、近年、注目を集めてきた。そして、IPCCなどのシナリオにおいては、これが規範的な動機によるシェアリングと結びつけられて論じられてきた。
 しかし、いま実際にエネルギー消費を動かしているドライバは、衛生観念の進展であり、それによるエネルギー増大の可能性がある。
 コロナ禍によって、エネルギー消費のシナリオを描くにあたっては、人々の衛生観念がどう変遷し、それが経済活動にどう影響するか、という視点が重要であることが分かった。今後も、コロナ禍の第2波、あるいは別の伝染病があるかもしれない。既存の感染症への対応としても、インフルエンザに罹患するとまとめて休暇をとるなど、昔は考えられなかった水準まで対応が厳しくなってきた。今後はインフルエンザへの対応としても社会的距離ということが言われるようになるかもしれない。清潔志向というのは、長い時間をかけて一方的に強化してゆくトレンドであることに気をつけるべきだ。
 将来シナリオには「こうあって欲しい」という願望や価値観が反映されることがある。というよりは、むしろ特定の思想を唱道するためにシナリオが作成されることがある。特に、こと環境問題に関わると、これが顕著になる。
 しかし、現実的なシナリオとなるためには、願望を入れ込む以前の段階として、何が将来の形を変える原動力(シナリオ分析ではドライバと呼ばれる)なのか、それがどのように将来の社会経済に作用するか、これをまず見極めなければならない。さもないと、単なる絵に描いた餅に終わってしまう。
 今回分かったことは、衛生観念というドライバが、モノやスペースのシェアリングに与える悪影響が甚大であること、そしてそれがエネルギー消費を増大させるよう作用するであろう、ということであった。

 最後に但し書きをする。執筆現在では想像しにくいが、人々が、リスクを厭わずに、コロナ禍以前の社会に戻る可能性もある。人と交わるのは根源的な欲求だからだ。人類は感染症には何度も酷い目に遭ってきたし、部族の全滅も何度もあったに拘わらず、「社会的距離を保つ」ようには文化は進化しなかった。この理由は、人と親密に交わり団結して働くメリットが、感染症のデメリットを上回ったということであろう。だから現代人も、もしも冷静なリスク計算に基づいて行動するならば、コロナ禍以前の社会に戻るかもしれない。だが現代人がそのように行動できるかが難しいところで、むしろ衛生観念は強化される一方だ、と現時点では筆者は見ている。

注1)
https://www.ipcc.ch/sr15/
注2)
https://www.iea.org/reports/digitalisation-and-energy
注3)
拙著、http://ieei.or.jp/2019/01/sugiyama190131/
注4)
https://about.bnef.com/blog/gridlock-in-beijing-as-commuters-shun-public-transport/?utm_source=CCNet+Newsletter&utm_campaign=fccae62373-EMAIL_CAMPAIGN_2020_05_20_10_49&utm_medium=email&utm_term=0_fe4b2f45ef-fccae62373-36445525&mc_cid=fccae62373&mc_eid=5259baafe7
注5)
https://www.city-journal.org/covid-19-will-intensify-dominance-of-oil?utm_source=CCNet+Newsletter&utm_campaign=db04faa471-EMAIL_CAMPAIGN_2020_05_22_02_11&utm_medium=email&utm_term=0_fe4b2f45ef-db04faa471-36445525&mc_cid=db04faa471&mc_eid=5259baafe7
注6)
https://clicccar.com/2020/04/18/970648/
注7)
キャスリン・アシェンバーグ、図説 不潔の歴史、原書房; 大倉 幸宏、昔はよかった」と言うけれど: 戦前のマナー・モラルから考える、新評論。
注8)
https://toyokeizai.net/articles/-/350993?page=4
注9)
https://www.travelvoice.jp/20200518-146182
注10)
https://www.nri.com/jp/keyword/proposal/20200519/06
注11)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2019html/2-2-1.html
注12)
https://www.minnanokaigo.com/news/kaigogaku/no789/
注13)
https://study-for.com/study-for/23248/
注14)
https://www.nice2meet.us/how-online-courses-can-change-education
注15)
https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0586.html