二国間クレジット制度(JCM)はどんな制度?


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

印刷用ページ

 先月から当研究所のホームページで新企画「産業界が読み解くパリ協定」をスタートしました。昨年末パリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択されたパリ協定を受けて、各産業団体の環境エネルギー分野のトップの方に、業界の今後の温暖化対策についてインタビューし、シリーズでお伝えしています。今年5月13日に「地球温暖化対策計画」が閣議決定され、今後日本でも温暖化対策の動きが加速していくと思われます。その柱となる施策の一つ、「二国間クレジット制度(JCM:Joint Crediting Mechanism)」は、日本の排出削減目標を実現するため、民間の活力を最大限活用しつつ進める取り組みですが、どのような制度なのか、ポイントを解説したいと思います。

二国間クレジット制度(JCM)の仕組み

 二国間クレジット制度(JCM)とは、途上国への優れた低炭素技術などの普及を通じ、地球規模での温暖化対策に貢献し、それと同時に日本からの排出削減への貢献を適切に評価して、日本の削減目標の達成に活用するという仕組みです。

 昨年11月30日のCOP21首脳会合で安倍首相は、「先進的な低炭素技術の多くは、途上国にとってなかなか投資回収を見込みにくいものです。日本は、『二国間クレジット制度』などを駆使することで、途上国の負担を下げながら、画期的な低炭素技術を普及させていきます」とスピーチしました。

 環境性能の高い優れた技術や製品は一般的にコストが高く、途上国への普及は難しいという問題があります。日本が途上国に対して、優れた低炭素技術や製品、システム、インフラの普及や緩和活動を実施することにより、途上国の持続可能な開発に貢献しながら、地球規模での温室効果ガスの排出削減を促し、国連気候変動枠組条約の究極的な目的の達成に貢献していくことを目指しています。

 海外で実現した緩和成果を自国の排出削減目標の達成に活用する場合の規定に関するパリ協定の第6条では、JCMを含む市場メカニズムの活用が位置づけられました。
 The use of internationally transferred mitigation outcomes to achieve nationally determined contributions under this Agreement shall be voluntary and authorized by participating Parties.(邦訳:国際的に移転される緩和の成果を自国が決定する貢献に活用)。日本の約束草案でも、JCMを通して獲得した排出削減・吸収量は日本の削減として適切にカウントしていくことが盛り込まれています。

 クレジット発行の基本的な流れは次の通りです。JCMプロジェクト実施者が、両国代表者からなる合同委員会にクレジットの発行について申請します。申請する際は、合同委員会に指定された第三者機関によるプロジェクトの有効性などの検証(verification)が行われる必要があります。合同委員会においてJCMクレジットの発行が決定された場合、同委員会が両国政府に対してそれぞれが発行するクレジット量を通知します。クレジット発行通知に基づき、両国政府は通知された量のクレジットを登録簿に発行します。(図1)

図1

図1 二国間クレジット制度(JCM)の基本概念 出典:経済産業省

 JCM登録簿は、JCMクレジットの管理のための情報システムで、各保有口座間でのクレジットの振替(取得・移転)や無効化など、JCMクレジットの取引にかかわる記録台帳です。(図2)登録簿は、日本は2015年11月から運用開始しており、パートナー国もそれぞれの登録簿を設置することになっています。

図2
図2 JCM登録簿のイメージ 出典:経済産業省[拡大画像表示]

パートナー国のメリット

 日本は、2011年から開発途上国とJCMに関する協議を行ってきました。現在、JCMのパートナー国は、モンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニア、モルディブ、ベトナム、ラオス、インドネシア、コスタリカ、パラオ、カンボジア、メキシコ、サウジアラビア、チリ、ミャンマー、そしてタイの16か国で、制度構築に合意しています。この他、フィリピンともJCM構築に向けて覚書で署名を交わしています。

 パートナー国のメリットは、低炭素型機器・設備の高額な初期投資費用に対して、JCMの資金支援が投じられることにより安く導入することができることから、温室効果ガスの排出削減を効果的に進めることができることです。(図3)

図3図3 パートナー国のメリット[拡大画像表示]