第5話「IAEA総会(上)」


在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使

印刷用ページ

 総会第4日目の9月17日には、このIAEA福島報告書に関する事務局主催のサイドイベントも開催された。
 IAEA福島報告書と、IAEA原子力行動計画の下での最後の実施報告が公表されたことにより、IAEAにおける原子力安全を巡る議論も一つの大きな区切りを迎えた。事故発生以来、毎年のIAEA総会では、福島第一原発における廃炉作業や汚染水問題への対応など、もっぱら日本側の個別対応に大きな国際的関心が寄せられてきた。福島事故が内外に与えた影響に鑑みれば、それも当然であったといえよう。一方、本年のIAEA総会では、世界中で発電・非発電の様々な分野での原子力技術の利用が拡がる中、原子力安全の強化を如何に進めていくかという、より未来志向の観点からの議論が多かった。総会で採択された原子力安全に関する決議でも、IAEA福島報告書で示された事故の教訓や、原子力安全行動計画のこれまでの実施状況を踏まえて、各国に対して原子力安全の強化に取り組むことを促す内容となっている。

IAEA福島報告書
同報告書に関するサイドイベント

総会会場で配布されたIAEA福島報告書(左)と、9月17日に開かれた同報告書に関するサイドイベント(右)
(写真左:筆者撮影、写真右:IAEA)

日本の対外発信

 福島事故の当事国である日本にとって、本年のIAEA総会の場において、原子力安全の分野で如何なるメッセージを発信するかは、例年以上に大きな課題であった。
 本年のIAEA総会において日本政府代表を務めた岡芳明原子力委員会委員長は、一般討論演説において、福島第一原発の廃炉・汚染水対策の進捗について詳細に紹介し、日本が今後ともIAEAとも連携しながら、地元や国際社会への積極的な情報発信に努め、国際社会に開かれた形で対策を進めていくことを表明した。内外に丁寧な情報発信をしながら事故処理を進めることが日本の責務であるとの姿勢を改めて明確にしたものである。
 また、国際社会の日本に対する関心は、福島事故への対応にとどまらない。原子力大国である日本が今後どのような原子力政策を進めていくかも大きな関心事である。この観点から、岡政府代表は、福島事故後に日本がとってきた原子力安全規制枠組みの抜本的強化や、IAEAとの様々な協力(本年6月の東京電力柏崎刈羽原発における運転安全調査団(OSART)ミッションの受け入れや、来年1月の総合規制評価サービス(IRRS)ミッションの受入準備など)に触れつつ、強化された新規制基準を満たした原発は重要なベースロード電源として再稼働させていくとの日本政府の方針を明確に述べた。そして、その方針の下での最新の動きとして、新規制基準の下での2年以上にわたる厳格な審査を経て、9月10日に川内原発第一号機が再稼働したことを紹介したのである。

オールジャパンでの取り組み

 IAEA総会の場では、政府関係者のみならず、民間企業を含む日本の原子力関係者による対外発信も重要である。ウィーン国際センターのロトゥンダ(円形のオープンスペース)では、総会期間中、原子力分野での発信に力を入れている国々の展示ブースが設けられる。日本ブースは、“Life, Safety and Prosperity : From Fukushima, to the World and for Next Generation”の統一テーマの下、日本原子力産業協会、日本原子力研究開発機構(JAEA)、放射線医学総合研究所の三団体及び民間企業等が連携して、ブースの設置、運営に取り組んだ。5日間の総会期間中で日本ブースへの来訪者は延べ約1100人に及んだという。

日本の展示ブース
岡原子力委員会委員長

日本の展示ブース(写真左)と、同ブースを訪れた岡原子力委員会委員長(右写真の左端)
(写真出典:左は筆者撮影。右は日本原子力産業協会HP)

 本年のIAEA総会において、日本側が初めて試みたのが、レセプション形式による被災地復興の紹介、とりわけ風評被害に悩む被災地食品のアピールである。
 冒頭でも述べたように、IAEA総会は世界の原子力関係者が集う祭典ともいえる機会である。ここで発信された情報は、良きにつけ悪しきにつけ、各国参加者を通じて全世界に広がっていく。世界の原子力関係者に、安全性が確認された被災地の食品を味わってもらいながら、福島第一原発の処理作業の現状、そして東北・福島の復興の今を世界の人々に伝える上で、IAEA総会はまたとない絶好の機会であった。対外発信の乗数効果が高い、マルチの国際会議ならではの特色である。