米国の再生可能エネルギー政策(3)~藻類のバイオ燃料開発
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
ドロップイン・バイオ燃料(drop-in biofuel)
サファイア・エナジー社(本社:カリフォルニア州)は、ニューメキシコ州南部に、世界初となる藻類バイオ燃料の商業実証施設「グリーン・クルード・ファーム」を建設し、2012年8月より稼働している。300エーカーの培養池を設け、塩分を含む水に栄養剤を用いて油分を多く含む、「緑の原油」(green crude)と呼ばれる藻類の栽培と収穫を行っており、年間100万ガロン(約380万kL)のバイオ燃料の生産を行い、2018年までに年間1億ガロンの生産目標を掲げている。サファイア社の光合成によりできた藻から抽出した油は、ジェット燃料や軽油のように既存の化石燃料インフラで利用が可能な「ドロップイン(drop-in)バイオ燃料」である。ドロップイン燃料とは、航空機やエンジンに何の改修せずに使え、従来のジェット燃料とも混ぜて使える代替燃料のことを意味しているが、機体やエンジンの改修にはお金と時間がかかるため、石油代替燃料としてドロップイン燃料への期待は大きい。サファイア社の藻類バイオ燃料は、既存の石油製品と比較して60~70%のCO2排出を削減する効果があるという。DOEや商務省、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏や米バイオ化学大手のモンサントなどから、これまでに3億ドルを超える融資を受けたことでも知られている。
ソラザイム社(本社:カリフォニア州)は、藻類から製造したドロップイン(drop-in)ジェット燃料を製造しているバイオベンチャーである。2011年6月、米国海軍はソラザイム社が製造した藻ジェット燃料を混合した燃料でヘリコプターの飛行実験を行い、その年の11月には、民間旅客機が藻ジェット燃料4割混合のジェット燃料でヒューストン-シカゴ間約1500kmの飛行に成功したことがメディアでも報道され、藻ジェット燃料による初めての商業フライトとして注目された。ソラザイム社の発表によると、この藻ジェット燃料は高高度でも凍結せず、濃度、安定性、引火点は従来のジェット燃料と同じレベルをもち、米材料試験協会(ASTM)が定めた航空燃料の最も厳しい基準である「D1655」11項目を満たしたという。オバマ政権のもと、軍では、航空機や艦船の燃料として藻類バイオ燃料の導入を進めており、2016年にはバイオ燃料で稼働する「緑の艦隊」(Great Green Fleet)を編成し、2020年までに全ての艦艇や航空機の燃料の50%を石油からバイオ燃料に変えるという計画がある。
航空業界では、ドロップイン燃料としての バイオジェット燃料の研究開発・実用化を進めているが、既存のジェット燃料の製造コストは、1ℓ当たり100円弱で、藻ジェット燃料のコストは約5倍になる。設備への初期投資がかかることや、培養-濃縮-乾燥-油脂抽出といった精製プロセスの各段階にコストがかかり、解決しなければならない課題は残っている。しかし、米国では、輸入石油の依存低減や地球温暖化対策、新産業による雇用の創出などを目的に、新たなバイオ燃料の研究開発に毎年数千万ドル規模の予算を投じており、軍などの公的機関における導入により普及を図り、生産量の拡大を行い、早期の商業化を目指している。サファイア・エナジー社やソラザイム社のように量産段階に入りつつあるバイオベンチャーも出ており、米国は藻類バイオ燃料技術の世界の先頭に立ち続けている。
◎次回は「米国の再生可能エネルギー政策(4)~風力発電の新時代」です。