「原発比率20%」の衝撃-エネルギー・温暖化関連報道の虚実(9)


国際環境経済研究所前所長

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 1月17日読売朝刊に、次のような記事が載りました。

原発比率20%軸に検討…再生可能エネと同程度
http://www.yomiuri.co.jp/politics/20150116-OYT1T50175.html

 このブログの一回目に書いたように、今年のエネルギー政策の一つの焦点がエネルギーミックスなのですが、この読売記事は、もう最後のオチを睨んだような言い方です。

 推進派にとっては「こんなに小さい比率なのか!」
 反対派にとっては「こんなに大きい比率なのか!」
と両方にとって衝撃が走ったかもしれません。しかし、両方に同じ程度の衝撃が走ったのであれば、確かにそれは「最後のオチ」に近いのかもしれません。

 記事では、「政府内では、『原発を減らしすぎると電力供給に支障が出るが、脱原発の世論を考えると再生エネ以上の活用は難しい』(政府関係者)などの見方が強まっている。」と書いています。
 この政府関係者が誰なのかはともかく、再生可能エネルギ―の比率との関係で、それを上回る原子力比率を維持することは難しいだろうという認識があることは自然でしょう。

 実は、このエネルギーミックスを決めるには、相当精緻な作業をすることが必要です。実務的には、エネルギ―状況と経済活動の相互作用を組み込んだモデルを使います。
 それは幾多の方程式によって構成された数理的なモデルで、分析の前提となる人口や経済成長をどう見込むか、省エネの進み方をどう見込むか、さらに様々な政策措置がどういう影響を与えるかなどを検討します。

 こうした作業を積み重ねたうえで、諸要素間の整合性がある数量的な計算結果を得られなければ、エネルギーミックスを決めることはできません。そうした整合的な分析に欠けていては、国会での審議にも耐えられないでしょう。
 したがって、エネルギーミックスは、この記事のように「エイヤッ」と決めているわけではありません。

 ただ、モデル計算の結果はともかく、最後に政治的な考慮から数値が曲げられるのではないかと言われれば、確かにそういう側面はあります。民主党政権下で、まずは将来原発はゼロだとして計算しようとしたのも、そうした政治介入の例と言ってよいでしょう。

 その意味からは、この記事の推測も中らずと言えど遠からずというところかもしれません。特に、原子力比率がX%になるとすると、再エネ比率は(X+α)%にならざるをえないという見方。これは、結構本質を突いているのではないかと思います。

 ただ、では原子力比率が20%か?という点になると、その数値に決め打ちすることにはならないでしょう。というのは、新しい原子炉等規制法で原子炉の運転期間は原則として40年に制限された結果、このままいくと2030年前に原子炉は出力ベースで今の半分の規模になってしまうことを考えなければならないからです。
 
 昨年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画では、原子力は安全確保のための技術・人材維持などのためにその最適な規模を見極めることになっています。
 もし、上のようなペースで原子炉が廃止されていくと、場合によっては人材や技術の維持が困難になってくることも考えられます。そうなれば、その後残存する原子炉はもちろん、一方的に縮小するという見通しになってしまえば人材の確保が前倒し的に難しくなり、現状の原子炉の安全にも悪影響が出てきかねない状態になってしまいます。
 (ここ数年原子炉は停止しており、そのうえ再稼働が遅れているため、運転技術の研磨や維持に懸念が生じています)

 こうした意味で、私は、原子力比率は20%ではなく、25%程度を見込む必要があるのではないかと思っています。以前は、20%(原子力)-60%(火力)-20%(再エネ)というミックスを提唱していましたが、ここ最近の原子力技術や人材の状況を見ていると、将来原子力を一定比率維持するのであれば、2030年25%は必要でしょう。

 しかし、そうなると再エネも20%~25%では収まらず、政治的には原子力+αの30%程度が主張されるだろうと予想されます。
 水力10%を含むこの30%という値は相当野心的なものです。発電コストの急激な低下がない限り、相当国民負担は上昇するでしょう。特に現在の固定価格買取制度が継続するようでは、国民負担を抑え込むことはほとんど不可能です。

 今年の5月、6月頃がエネルギーミックスの議論の山場になると思われますが、上記のような議論が闘わされるでしょう。国民負担(電気料金)をどの程度に抑えなければアベノミクスは崩壊するのか、原子力への世論はどのように変化しているのか、一時熱病に浮かされたようなブームだった再エネについて冷静な判断ができるようになっているのか。
 政治的判断と数量的モデル計算の整合性を行きつ戻りつしながら、熱い議論が行われるだろうと思います。これから、このトピックに関連する報道も増えていくでしょうから、ぜひ注目していきたいと思います。