地球にやさしい高炉セメント


新日鐵住金株式会社 スラグ・セメント事業推進部 セメント営業室長

印刷用ページ

 鉄鋼業では、高炉工程で鉄鉱石を還元して銑鉄を作り、さらに製鋼工程で銑鉄を成分調整して鋼を製造します。銑鉄や鋼を作る際、副産物として鉄鋼スラグが発生し、高炉工程で発生する高炉スラグ、及び製鋼工程で発生する製鋼スラグに大別されます。こうした鉄鋼スラグも、鋼材と同様に用途に応じてさらに加工し、鉄鋼スラグ製品として出荷しています。鉄鋼スラグ製品の最も多い用途が、高炉セメントです。
 高炉セメントは、普通セメントに次いで使用量の大きい汎用セメントですが、その温室効果ガス削減効果は、意外に知られていません。
 かつて地球の大気には多くのCO2が含まれていましたが、長い歴史の中で、その殆どが石灰石の形成(CaO+CO2→CaCO3)によって減少しました。普通セメントの主要プロセスはクリンカ生産ですが、これは石炭を用いて、石灰石からセメントの主成分であるCaOとともに、CO2も取り出してしまいます。
 高炉セメントは、普通セメントに高炉スラグを水砕し微粉末に加工したものを40〜45%混合することによって、こうしたCO2の発生を約40%削減しています。高炉セメントによるCO2削減量は、日本全体の発生量の2.5%に相当する年間約3百万トンとなるため、政府は、高炉セメントを中心とする「混合セメントの利用拡大」を、「京都議定書目標達成計画」において唯一の工業プロセスでの非エネルギー起源CO2削減施策としています。
 世界的にも、2007年のノーベル賞受賞対象となったIPCC第4次評価報告書において、混合セメントの拡大により全世界で7%超のCO2削減が可能としています。また、IEAは、世界のセメントメーカー18社が加盟するWBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議)のCSI(セメント産業部会)と共同で、2050年に向けたCO2削減を目指す「セメント技術ロードマップ2009」を発表しました。その中で、石灰石及び石炭からのCO2発生を低減するため、世界全体でセメントに占めるクリンカの比率を、2006年78%から2050年71%への削減をターゲットとしています。日本・韓国・豪州・ニュージーランドは、2015年82-83%、2050年72%がターゲットですが、日本の2006年度実績91%からはかなり大規模な削減幅であり、高炉セメント生産比率を、2006年度実績20%から、2015年約40%、2050年約60%と拡大する必要があります。
 高炉セメントは、国内で既に20%の生産実績があるものの、適用可能な工事全体からみれば、さらに増加する可能性があります。公共土木工事については、これまでも各種標準仕様書への織込みやグリーン購入法に基づく特定調達品目の指定等によって、既に国土交通省の特定調達品目としては99%の実績があり、今後その適用範囲をさらに拡大して頂くことで、高炉セメント使用の広がりを期待しています。また、民間建築工事に高炉セメントの使用を促すため、既に一部の自治体では建築物環境計画書制度建築環境総合性能評価システム(CASBEE)が導入されていますが、昨年成立した「都市の低炭素化の促進に関する法律」に基づく低炭素建築物の認定によって、住宅ローン減税や登録免許税の優遇措置が始まりました。また、高炉生コンクリートの強度管理材齢を56日や91日に設定すると単位セメント量が少なくなる結果、CO2発生量のさらなる削減だけでなく収縮や断熱温度上昇量の抑制による耐久性に優れたコンクリートになるとともに、コスト低減が可能になります。
 高炉セメントは、1910年の製造開始以来、多くの実績を持つ汎用製品ですが、その特性を正しく理解し特長を活かして頂くことが重要です。今後とも高炉セメントについて、その原料となる高品質の高炉水砕スラグ製品を安定供給するとともに、業界活動などを通じて、その特性や有用性の理解を拡げていくことによって、宇宙船地球号のサステナビリティに貢献していく所存です。

記事全文(PDF)