座談会 「地球規模の低炭素社会の実現に向けて」

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(機関誌「月刊 経団連 2013年7月号」からの転載。)

安倍政権は、温室効果ガス二五%削減目標をゼロベースで見直す一方、「攻めの地球温暖化外交戦略」を組み立てるべく、温暖化対策の抜本的見直しに着手した。経団連では、今年一月に「環境自主行動計画」に続く「低炭素社会実行計画」を策定し、産業界の主体的な温暖化対策を強化している。そうしたなか、国内外の温暖化対策をめぐる現状を踏まえ、地球規模の低炭素社会の実現に向けての課題、日本政府、産業界の果たすべき役割について議論した。

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坂根正弘 (経団連副会長・環境安全委員長/コマツ相談役・特別顧問)
経団連は京都議定書採択に先立つ1997年に「環境自主行動計画」を策定し、省エネやCO2削減に成果を上げてきた。今年1月よりスタートさせた「低炭素社会実行計画」では、国内事業活動におけるBAT導入促進、ライフルサイクル全体でのCO2削減などを掲げている。コマツでは、3・11後、電力消費量削減に取り組み、古い工場を建て直すことで、消費電力半減、生産性30%アップ実現を目指す。こうした日本独特のアプローチを活かして、世界の環境ビジネスをリードしたい。
齋藤 健 (環境大臣政務官)
世界全体の温室効果ガス排出量は依然として増加しており、2050年半減という目標の達成には大変厳しい状況だと認識している。そうしたなか、日本は産業界を含め、世界トップレベルの努力をしている。世界全体で排出量を削減するには、途上国が鍵となる。日本の最先端技術を普及させるため、二国間オフセット・クレジット制度を活用する途上国の「一足飛び型発展」の支援はもちろん、新たな国際枠組みづくりを進めていきたい。
岩沙弘道 (経団連審議員会副議長/三井不動産会長)
民生部門の取り組みにおいて鍵となるのが、ICTの活用によるエネルギーマネジメントとCO2削減を実現する「街のスマート化」である。街のスマート化は、LCAの観点から重要であると同時に、個人のライフスタイルの変革を促し、環境意識を高めることが期待できる。現在、経団連では「未来都市モデルプロジェクト」構想を推進しており、2015年をめどに成功モデルをつくり、二国間オフセットメカニズムを活用した海外展開を図りたい。
松橋隆治 (東京大学大学院工学系研究科教授)
京都議定書第一約束期間での目標達成に、日本が多大な貢献をしたことは間違いない。とりわけ経団連が「環境自主行動計画」を通じて果たした役割は大きい。しかし、温暖化対策は、京都議定書型の各国による「マイナスの分担」から、競争でプラスを取り合うパラダイムに変わってきている。自国の国益に資するかたちで世界の温暖化緩和に貢献するには、競争意識とスピード感を持って、オールジャパン体制で技術開発と普及を進めていく必要がある。
進藤孝生 (司会:経団連環境安全委員会地球環境部会長/新日鐵住金副社長)
経団連では、「2050年における世界の温室効果ガス排出量半減目標の達成に日本の産業界が技術力で中核的役割を果たすこと」を共通ビジョンに、「低炭素社会実行計画」の推進に取り組んでいる。さらなる技術開発が、今後の温暖化対策の要であり、鉄鋼業界でも、鉄鉱石の水素還元とCO2の分離・回収により、製鉄プロセスにおけるCO2の排出を大幅に削減することを目指している。

●国内外の温暖化対策をめぐる現状と今後の展望
・日本は世界全体での削減に向けても努力すべき
・「低炭素社会実行計画」の四つの柱
・低炭素社会実現に向けた民生部門における現状と取り組み
・3・11以降のエネルギー政策と温暖化対策

●2050年世界半減目標の実現に向けた課題
・2050年は一里塚にすぎない
 -化石燃料枯渇後を見据えた議論を
・ICT活用によるエネルギーマネジメントと街のスマート化
・これからの温暖化対策は国際競争であることを認識すべき
・温室効果ガス削減のための全く新しい国際的枠組みづくり
・鉄鋼業界における技術革新
 -COURSE50

●地球規模の低炭素社会の実現に向けて、わが国産業界が果たすべき役割
・グリーン成長実現の三つのポイント
・日本の優れた技術・ノウハウを世界標準に
・日本の強みを活かした「街づくり」を世界に展開する
・数値よりも世界ナンバーワンを目指すことが重要