ハリケーン・サンディによる米国東部大規模停電が問いかけたもの

-停電と電力システム論に関する日米比較-


Policy study group for electric power industry reform

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 また、連邦エネルギー規制委員会はこれらISO/RTOが設立され卸電力市場が整備された地域での価格メカニズムによる需要削減(デマンドレスポンス)ポテンシャルをピーク需要の6-7%と評価している。電力システムの供給信頼度を保つためには、ピーク需要に対して持つべき供給力の余力(供給予備力)は8-10%と言われているから、仮にこの削減ポテンシャルすべてを緊急事態に活用出来たとしても、供給余力の一部を代替するに過ぎず、自然災害により供給を想定需要が上回るような需給ギャップ(予備力がマイナスになる事態)や流通ルートの損壊による途絶が生じた際には停電が生じたり、計画停電・供給制限を行うなどの措置に頼らざるを得ない。これは発送電分離の進んだ米国でも同じことであり、今回のニューヨーク州だけでなく、発送電分離と全面自由化が行われたカリフォルニア州やテキサス州でも計画停電が実施されている。カリフォルニア州では2001年の電力危機発生時の計5回の計画停電に加えて、電力危機収束後の2005年8月にも気温上昇による需要増加により90万kWの計画停電を実施している。またテキサス州の独立系統運用機関ERCOT(テキサス信頼度協議会)でも過去2回(2006年4月17日(季節はずれの気温上昇)と2011年2月1日(寒波))、想定を上回る需要増加と発電機不調が重なって生じた需給キャップを需要削減だけでは吸収できずに計画停電が行われている(特に2011年には400万kWの計画停電実施)。
 サンディによる米国での大規模停電を通じてわかったことを纏めると、以下の様に要約できるだろう。第一に米国北東部地域のように電気事業のアンバンドリングや卸電力市場の整備が進んで、需給調整や送配電網の混雑管理に価格メカニズムを最大限に活用している地域でも、価格メカニズムが停電を抑制する効果は極めて限定的であるということだ。
 第二に電気事業における産業組織の「モジュール化」すなわち発送電分離型の電力システムが自然災害などの環境変化に強いという形跡は認められないということだ。むしろ大規模停電復旧の過程では、発電・送電・配電・需要家設備すべての復旧を短期間で整合的に行う必要があるため、「モジュール化」組織に移行するのであれば、各モジュール間のインターフェースが適切に設計されないと、かえって復旧が長引く畏れがあることに留意すべきだろう。そもそも青木氏の主張は、多様なモジュールが市場から殆ど制約なく調達できることを前提としているように思われ、モジュールたる電気設備が稀少になっている大災害発生時に氏の論を適用するのは無理があるように感じる。
 発送電分離や価格メカニズムの活用が進んだ欧米の電力システムも万能ではないのだ。わが国では原発事故によって電力システムの弱点が露呈したことを前提にした電力システム改革が進められようとしているが、その前提自体に疑問があると言えるだろう。むしろ原発事故を契機として露わになったのは脆弱なエネルギーセキュリティそのものであり、その確保にこそエネルギー政策の重点がおかれるべきだろう。発送電分離を目的化することなく、日本経済の発展につながりうる建設的な電力システム改革議論が進むことに期待したい。

<参考文献>
米国国立ハリケーンセンターホームページ
エジソン電気協会ホームページ
コンソリデーテッド・エジソン社説明資料
青木:「危機に強い産業組織築け」、日本経済新聞経済教室、2011年8月4日
八田:「電力問題の解決は需給調整メカニズムの確立から」, 総合研究開発機構(NIRA)対談シリーズ、2011年8月
米国連邦エネルギー規制委員会: Assessment of Demand Response and Advanced Metering Staff Report, 2011年11月
経済産業省: 「電力システム改革の基本方針」, 2012年7月

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