最終話(3の3)「ポスト『リオ・京都体制』を目指して(その3)」


在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使

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 この「二国間オフセット・クレジット制度」については、第2章、第3章で述べた通り、対象候補国・分野において実証事業を実施するのと並行して、アジアを中心とするいくつかの国々との間で政府間協議を行ってきた。これまでに、インドネシア、メコン諸国(ベトナム、カンボジア、タイ、ラオス、ミャンマー)、インド、バングラデシュ、モンゴルといった国々と協議を行ってきているほか、その他の関心国にも随時情報提供を行っている。2012年度からは、従来の実証事業に加え、同制度の運用に際して用いる方法論を固める為の「MRV実証事業」を実施しつつ、2013年度からの運用開始を目指して、政府間協議を更に進めてきている。
 日本が提案する二国間オフセット・クレジット制度の基本的仕組みは図表8-7のとおりである。現行の国連CDMの仕組み(図表8-8)と比較すると、
○国連CDM理事会ではなく、当事国政府代表からなる合同委員会を中心とした簡素な意思決定の体制とし、各国政府の責任により迅速な実施を可能とする仕組みであること、
○幅広い低炭素技術、分野を対象としていること、
○対象プロジェクトの実施により見込まれるCO2の排出削減量を測定するに際して適用する方法論をより簡便なものとすること、
などを特徴としている(図表8-9)。
 いずれも、低炭素成長のための膨大な投資ニーズがある途上国において投資が促進されるよう、実際的な考慮がベースになっている。もちろん、CDMなど類似制度との間で重複利用(ダブルカウンティング)の防止や、独立した第3者機関の活用、実施状況の報告など、透明性、環境十全性にも配慮した制度設計を想定している。また、本制度が機能するための途上国側のキャパシティビルディングを重視している。

図表8-7 出典:日本政府資料
図表8-8 出典:日本政府資料
図表8-9 出典:日本政府資料

 何より特筆すべきは、日本と相手国との政策対話に重きをおいていることである。如何なる低炭素関連投資、キャパシティビルディングが必要かは、国毎に異なる。それは「途上国」と一括りにされる国連交渉の会議場では決して見えてこない。実際にその国に行って現地の事情に触れつつ、相手国関係者との間でじっくり協議をすることで、その国にあった協力の方向性も見えてくるのである。図表8-10にあるとおり、省エネ、再生可能エネルギー、森林保全、公共交通システム、水、廃棄物処理など様々な分野で、日本は貢献できる。日本の官民が果たせる役割は大きい。
 現行のCDMの改善や、この二国間オフセット・クレジット制度の提案を含め、低炭素成長のための投資促進の仕組みづくりはまだ歴史が浅い。何より、地球温暖化対策には低炭素技術の普及をもたらす民間投資の役割が重要であり、投資促進に即した実際的な形で市場メカニズムを構築していくとの発想自体に対し、環境原理主義的考えからの抵抗感も根強い。具体的成果を出しながら、幅広いコンセンサスを作っていく事が重要である。 

図表8-10 二国間オフセット・クレジット制度の下でのあり得べき協力分野
出典:経産省資料、環境省資料をもとに筆者作成