日本版再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)について
小野 透
(一社)日本鉄鋼連盟 特別顧問/日鉄テクノロジー株式会社 顧問
2.調達価格等算定委提案の問題点
- 1)
- 適正コストの考え方
「適正コスト」の算定に用いるコスト情報が発電事業者の「言い値」である限り、また単に建設コスト実績を次年度以降の「適正コスト」算定に反映させるのであれば、発電事業者や設備メーカーにコスト低減を進めるインセンティブは全く働かず、電気の利用者の負担が軽減されることが望めないのは明らかであり、いわば「再生可能専用非査定型総括原価方式」となる。また、もし発電事業者が、想定された「適正コスト」を大きく下回る直近のドイツ並みのコストで設備建設ができたならば、制度が想定していない大きな利益を得ることになる。
再生可能エネルギーの導入拡大と過重負担の回避を両立させるためには、事業者や設備メーカーに対して常にコスト低減努力を求めるシステムとすべきであり、そのためには「実績価格のフィードバック」を行うのではなく「目標価格によるターゲッティング」を指向すべきである。具体的には、国内におけるベストプラクティスコストを用いたり、すでに設備の安価化が進んでいるドイツやスペインなどのチャンピオンプライスをコスト算定に用いるなどが考えられる。
一方、FIT制度で成長が期待される国内の再生可能エネルギー関連産業であるが、既に欧州市場等で十分力をつけている中国を始めとした新興国メーカーとの厳しい競争に晒されることになる。再生可能エネルギーの中でも特に太陽光は、既に国際的にコモディティー化しており、また製造設備の導入さえすれば新興国での製造も可能で、我が国の競争環境(為替レート、人件費、今後更に上昇が想定される電力価格など)を考えれば、国内製造の優位性は見出せない。FITで急成長したドイツの太陽光パネルメーカーQ-Cellsを始め、多くの欧州メーカーが市場競争に敗れ、破綻した事実は直視するべきである。