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カーボンニュートラルを踏まえた我が国金属産業の持続的発展に向けた調査事業

(令和3年度産業経済研究委託事業)


(一社)日本鉄鋼連盟 特別顧問/日鉄総研株式会社 常務取締役


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 本報では、本年4月に経済産業省より公表された表記調査報告書の概要を紹介する。
 詳細については、下記URLより報告書をご確認いただきたい。
 https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2021FY/000080.pdf

1.目的

 気候変動問題への対応強化の気運の一層の高まりから、我が国も昨年、2050年に向けた長期戦略、並びに2030年NDCの目標を大幅に引き上げた。また鉄鋼需要家からも、カーボンフットプリントの低い鉄鋼製品を求める声が高まった。かかる状況変化を受けて、これまで転炉において高級鋼を生産していた高炉一貫メーカーに、電炉への転換の動きがみられるようになった。本調査では、電炉法による高級鋼製造における課題やそれらを解決する技術的手段の開発状況を明らかにするとともに、将来のスクラップ需給を想定し、我が国鉄鋼業の持続的な発展に向けた将来像や課題について調査・分析を行う。また、世界粗鋼生産の半分以上を占め、日本とアジア市場を共有する中国における、スクラップの発生想定や政策動向について調査・分析を行った。

2.電炉法による高級鋼製造における技術的課題

鋼材特性に及ぼすトランプエレメントの影響や、鋼材に対する混入限界などについて、これまでの研究では不確定要素が多く、成分規格などに落とし込むことはできていない。これは、高級鋼の製造をこれまで高炉一貫メーカーが主として行っており、銑鉄を主原料とするプロセス上、トランプエレメントの混入を想定する必要がなかったためと考えられる。
トランプエレメント無害化に向けては、気化蒸発やフラックス製錬、固相分離などについて研究が行われてきたが、反応速度や経済性など多くの課題が存在し、いずれも実用化には至っていない。現在の電炉オペレーションにおけるトランプエレメント対策としては、生産鋼種の要求レベルに応じて、品位の異なるスクラップをブレンドし、トランプエレメントを一定範囲に管理する方法などが取り入れられている。
欧米電炉では、直接還元鉄を大量に投入することによる、トランプエレメントの希釈が一般的に行われているが、現在の直接還元鉄の生産量は世界全体で年間1億t程度にすぎず、また、高炉に使われるような低品位鉱石を使用して直接還元鉄を製造した場合、製鋼工程での脈石由来の大量スラグ発生に対する対応策等の課題が生ずる。
電炉製鋼の場合、転炉鋼に比べて鋼中窒素濃度が高位となり(脱炭量低、溶解時窒素ピックアップ大等による)、製品品質等への影響が懸念される。近年の電炉では、溶鋼フラットバス形成とサブマージアークによる窒素侵入の防止が図られているが、依然として転炉鋼よりも鋼中窒素濃度は高く、一部の高級鋼の品質要求を満たすには、溶解精錬時の更なる低窒素化対策と二次製錬における脱窒素の強化が求められる。また直接還元鉄の利用は、窒素低減にも効果がある。

3.日本のスクラップ需給及び高品位化の方向性

粗鋼生産/鋼材消費シナリオ

将来のスクラップ発生量予測

将来のスクラップ需要予測

将来の粗鋼生産量や国内鋼材消費量については、第6次エネルギー基本計画の前提となった2030年粗鋼生産量を9,000万tとする「基本(中位)シナリオ」に加え、将来にわたり現在の我が国製造業の国際競争力が維持されるものとする「高位シナリオ」、2050年に自動車および鋼材の輸出がなくなる「低位シナリオ」の3つのシナリオを設定。各シナリオにおけるスクラップ発生量を試算した結果、いずれのシナリオにおいてもスクラップ発生量は現状を下回るという結論。
スクラップ需要側については、上記3シナリオに対して、さらに、鉄鋼各社公表ベースでの電炉化の進展と、温暖化対策強化のための転炉でのスクラップ最大利用を加味して試算。いずれのシナリオにおいても、スクラップ発生量を超える需要が想定された。将来はスクラップ輸出余力がなくなることに加え、さらにスクラップまたは直接還元鉄等の輸入が必要になると考えられる。
スクラップ品位に関しては、電炉における高級鋼製造ニーズに応えるべく、スクラップの回収、加工段階での分別強化による高品位化が必要。
高品位スクラップとは、一般に高級スクラップと呼称される新断、HSではなく、高級鋼製造に適したスクラップ(不純物混入の少ないスクラップに加え、高度な加工や分別によって不純物混入割合を保証できるスクラップ。シュレッダーも含む)を指す。
シュレッダーでの破砕サイズの小粒化、ギロチンシャーでの切断長の短尺化により、不純物分離性が改善される。これらのオペレーションには、生産性の低下やコストの上昇を伴うため、加工能力拡大のための支援やコスト上昇に見合った価格プレミアムの付与が必要となると考えられる。