オピニオン一覧

  • 2011/11/29

    奥平総一郎・日本自動車工業会環境委員長に聞く[前編]
    東日本大震災をバネに、災害に強い体制を構築したい

    東日本大震災により、自動車業界のサプライチェーンは大きな打撃を受けた。この未曾有の大災害に自動車業界はどう対応し、今夏の電力不足をどう凌いだか。今後のエネルギー政策への提言も含めて、日本自動車工業会の環境委員長を務める奥平総一郎トヨタ自動車常務役員に、澤昭裕国際環境経済研究所長が聞いた。

    ――震災により、自動車各社もエネルギー・燃料調達からサプライチェーンの分断まで、さまざまな影響があったと思います。どう対応されましたか。

    奥平総一郎氏(以下敬称略):東日本大震災では、被災された方々が大変な思いをされ、今もご苦労されていることに心からお見舞い申し上げます。震災直後の我々の取り組みは、まず人命救助でした。けがをされた方々の支援をさせていただき、次に現地の復興の支援、さらには生産活動復旧をさせていただいています。

     生産活動の復旧はきわめて早い段階から進み、3月に地震が起きてから、8月、9月で8割、9割の生産に戻りました。これも被災地である東北地方の自治体の方々をはじめ、地元企業、仕入れ先の多大なるご協力と日本各地、海外からの多くのご支援の賜物であり、大変感謝しております。業界としても、ご協力いただいたことに深く感謝させていただきます。

    奥平 総一郎(おくだいら そういちろう)
    1979年3月、東京大学工学部船舶工学科卒業。同年、トヨタ自動車工業(現在のトヨタ自動車)に入社。第2トヨタセンターZEエグゼクティブチーフエンジニアなどを経て、2008年6月に常務役員に就任、現在に至る。技術統括部統括、東富士研究所管理部統括、第2技術開発本部本部長を兼務。現在、日本自動車工業会で環境委員長を務める

  • 2011/11/24

    震災を機に評価高まる都市ガスの可能性[後編]
    安定的な供給体制構築へ求められる国の役割

    東日本大震災では、地震と津波によりガスや水道、電気の供給が途絶え、大きな影響が出た。この未曾有の震災にガス業界はどのように対応したのか、また、今後のエネルギー政策に業界としてどのように取り組んでいくのかについて、日本ガス協会常務理事の池島賢治氏に話を聞いた。

    ――温暖化対策で化石燃料から代替エネルギーへのシフトが進んでいましたが、震災以降は化石燃料が再評価されています。天然ガスはどのような優位性があるのでしょうか。

    池島:天然ガスの主成分であるメタンの化学式はCH4で、熱量で比較すると二酸化炭素(CO2)の排出が一番少ない化石燃料で、環境対策の観点からも最も優れた化石燃料です。世界的に見ると、シェールガスやコールベッドメタンなど非在来型の天然ガスが利用できるようになり、ガス全体の賦存量(算出しうる潜在的な資源量)が非常に増えています。最近のレポートでは、非在来型を含めて、天然ガスの可採年数は250年と推測されると報告されました。これまで、ざっくり言って、石油の可採年数が30年、天然ガスが60年、石炭が180年といわれていましたが、天然ガスの埋蔵量がそれだけあれば、人類のこれからのエネルギーに対して、ある程度時間が稼げます。現在、LNG(液化天然ガス)の値段が上がっていますが、中長期的に見れば安定した資源として確保できると思います。

    ――天然ガス価格は、石油のように高騰しないのでしょうか。

    池島:これはなんとも言えません。少なくとも最近のIEA(国際エネルギー機関)のレポートでは、中長期的には確実に下がってくるという数字が出ています。ただ、世界のエネルギー需給関係のなかでは下がると思いますが、そのベネフィットを日本が享受できるかは別問題です。私ども、それぞれのエネルギー会社も努力しなければなりませんが、日本の国策としてどうするかということが重要です。

     例えば、同じ天然ガスでも、世界では大部分がパイプラインで輸送されています。LNG利用は主流ではなく全体の約3割にとどまります。日本は、国内から産出されるガスが1~2%で、それ以外はLNGに依存し、他国ともパイプラインがつながっていません。このような状況である限り、調達交渉が厳しいのは事実です。こうした事情を勘案し、国がエネルギーの骨格として資源確保をどう位置付けるかは重要な議論です。もちろんガス業界としての努力も必要で、産出されたガスを買ってくるだけではなく、できるだけ資源開発から参加することで、自分たちのLNGを確保し、価格を引き下げる努力をしています。

    ――天然ガスを安定的に供給するために、国としても社会インフラの整備に努力してほしいということですね。

    池島:ガス業界としての自助努力も必要ですが、国内のインフラ整備、海外とのネットワークなども含めて考えていく必要があると思います。いつまでも「アジア・プレミアム」「ジャパン・プレミアム」と言われる割高な価格でしか交渉できないようではいけない。他に代替措置がなければ、必ずビジネスはそうなります。地勢的に、日本は仕方ない面もありますが、そこを解決するような方法があるのではないかと考えます。

     例えば欧州は、多様な天然ガスソースを確保しています。1970年代に、ブラント首相(旧西ドイツ)の英断でロシアからの天然ガスの導入を開始する一方で、トルコ、バルカン半島からのルートや、モロッコ、チュニジア、アルジェリアというアフリカからのパイプラインも整備するというように、多重系の天然ガスパイプラインネットワークを構築しました。そのうえで、さらにそのネットワークにLNG基地を組み込んだエネルギー・インフラをつくりあげ、セキュリティーを確保しています。このように、長い時間をかけ、大きな構想のなかで、エネルギーがどうあるべきかを考えることが必要だと思います。東アジアは、政治的にはきわめて難しい状況にあると思います。北朝鮮、中国、ロシアなどの隣国との関係など、配慮すべきことも多いですが、そういうことを乗り越えて、真剣に、日本のエネルギーセキュリティを考えなければならない時期に来ているのではないでしょうか。

    池島 賢治(いけじま けんじ)
    1981年に京都大学大学院工学研究科修士課程(土木工学専攻)修了後、同年大阪ガス入社。都市圏営業部マネジャーを経て、2003年エネルギー事業部計画部長就任。兵庫エネルギー営業部長、エンジニアリング部長を歴任し、2010年6月、執行役員就任とともに現職。

  • 2011/11/21

    震災を機に評価高まる都市ガスの可能性[前編]
    発電と熱利用で安定的なエネルギー需給に貢献へ

    東日本大震災では、地震と津波によりガスや水道、電気の供給が途絶え、大きな影響が出た。この未曾有の震災にガス業界はどのように対応したのか、また、今後のエネルギー政策に業界としてどのように取り組んでいくのかについて、日本ガス協会常務理事の池島賢治氏に話を聞いた。

    ――3月11日の東日本大震災により、私たちはエネルギーインフラがいかに大切かを痛感しました。震災直後、LNG(液化天然ガス)基地やパイプラインはどのような被害状況でしたか。

    池島:今回の震災では、約46万件の都市ガス供給が停止しました。まず、パイプラインに対する被害ですが、お客様に近いところを通るガス管で一部耐震化が進んでいない低圧管に被害があったものの、中圧、高圧という基幹導管については基本的に被害がなかったという点では、これまでの震災と同じ状況でした。一方、これまでの地震と大きく違ったことは、製造設備が被害を蒙ったことです。特に仙台市のLNG基地をはじめ複数の製造設備が津波で被害を受け、ガスの供給源に支障が生じました。

    ――被災地での復旧はどのような状況で行われたのですか。

    池島:今回の震災では、製造所が被害を受け、ガスの供給源を失いました。これまでの地震ではガスの供給源は確保されておりましたので、壊れている導管部分を直しながら順次ガスを復旧させていけばよかったのですが、今回は、まずガスを確保しなくてはならず、そのために少し時間がかかりました。その後の復旧は、これまでの震災の経験が生きて順調に進み、また、設備の耐震化も相当進んでおりましたので、1カ月あまりの期間で、比較的早く復旧できたと思います。

    ――ガスの供給源はどのように確保したのですか。

    池島:LNG基地が津波で壊滅的被害を受けた仙台市に対しては、新潟県にあるLNG基地から仙台市に通じている高圧導管を使って天然ガスを供給する方法を取りました。また、サテライト製造所が被害を受けたところには臨時供給設備を持ち込み、LNGタンクローリーやLPGボンベなどによって、ガスの供給を確保しました。都市ガス設備は、非常に大きな揺れを感知し、ガス管に損傷の恐れがある場合、自動的にガスの供給を停止します。そのような地域が岩手県から福島県、さらには茨城県や千葉県までありました。このような広域にわたって供給停止エリアが出たことは、我々にとって初めての経験でしたが、広域の被害に対して全国の都市ガス事業者が支援する形で復旧にあたりました。

    Ikejima

    池島 賢治(いけじま けんじ)
    1981年に京都大学大学院工学研究科修士課程(土木工学専攻)修了後、同年大阪ガス入社。都市圏営業部マネジャーを経て、2003年エネルギー事業部計画部長就任。兵庫エネルギー営業部長、エンジニアリング部長を歴任し、2010年6月、執行役員就任とともに現職。

  • 2011/11/17

    日本経済が再び世界をリードするために[後編]
    電力の安定供給確保が日本経済の浮沈を決めることになる

     電力不足の懸念が続くなか日本経済が東日本大震災をどう乗り越えていくのか――。先が見えない不透明な状況に不安を抱く人は少なくない。最大の課題となっている、原子力政策を含めた環境・エネルギー問題への対処法を日本経済団体連合会の井手明彦資源・エネルギー対策委員長(三菱マテリアル会長)に聞いた。

    ――今年の夏は、電力不足の懸念から厳しい節電目標が設定されましたが、多くの企業が目標をクリアしたようですね。

    井手:この夏の対応は、産業界として多くの犠牲を払いながら実施したものです。一部報道や有識者、政治家は「やればできる」と安易にとらえていますが、簡単な状況ではなかったことを、まず申し上げたい。「今年の夏さえ乗り切ることができれば」ということで、いくつもの犠牲を払ってようやく達成できたのです。今年実現できた15%程度の節電なら簡単にできると思い、それを前提にされたのでは、今後、非常に困ることになります。

    ――厳しい電力状況が続くようだと、産業空洞化が進むのではないかという指摘もあります。

    井手:未曾有の大震災による被害を受け、原発事故による大きな犠牲を払っている人たちを思えば、多少の犠牲は覚悟して、日本国民としてやり遂げなければならなかったと思います。しかし、今冬以降の電力需給については、政策責任者の意思による部分が大きい。何としても、経済活動への影響が最小限となるよう対策いだきたい。特に問題となるのは、今後の見通しが立たないことです。この状況が続けば、ご指摘された空洞化が現実のものとならざるを得ないでしょう。

    ――状況は、かなり厳しいということですか。

    井手:我々の属している非鉄金属業界においても、新規の投資を考える場合に先の見通しが立たないのであれば、電力供給の不安がない国での投資を考えるのが自然です。さらに当社のように素材や部品を製造しているメーカーは、自社の投資判断だけではなく、お客様がどこに立地するのかにも左右されます。自動車メーカーなどの組立産業が海外での生産を選んだ場合には、必然的に、当社のような素材・部品メーカーも海外に出て行くことになります。

     雪崩をうつように空洞化が進行する懸念が非常に高いのです。政府は一刻も早く、3年~5年の電力供給対策の工程表、ロードマップを示すべきだと考えます。

    井手明彦(いであきひこ)氏。1965年に三菱金属鉱業(現在の三菱マテリアル)入社。常務、副社長を経て、2004年6月に社長就任。2010年6月から現職。社団法人セメント協会会長、日本鉱業協会会長を歴任し、2010年から日本経済団体連合会評議会副議長を務める

  • 2011/11/09

    日本経済が再び世界をリードするために[前編]
    ~エネルギーの安定供給と経済性の視点を外さないでほしい~

    電力不足の懸念が続くなか日本経済が東日本大震災をどう乗り越えていくのか――。先が見えない不透明な状況に不安を抱く人は少なくない。最大の課題となっている、原子力政策を含めた環境・エネルギー問題への対処法を日本経済団体連合会の井手明彦資源・エネルギー対策委員長(三菱マテリアル会長)に聞いた。

    ――日本経団連は今年7月、エネルギー政策に関する第1次提言を発表しました。この基本的な考え方を教えてください。

    井手明彦氏(以下敬称略):東京電力の福島第一原子力発電所事故の影響の大きさを考えると、旧来のエネルギー基本計画に盛り込まれた原子力計画は当然見直しを余儀なくされるでしょう。これによる供給力の不足は、化石燃料、再生可能エネルギー、省エネルギーによって補わなければなりません。

    一方、準国産エネルギーである原子力の果たす役割は引き続き重要で、着実に推進していく必要があると考えています。もちろん、安全性を確保し、地元住民をはじめ国民の理解を十分に得ることが大前提です。そのためにも、福島の事故原因の究明と安全対策の実施が、早期に、そして徹底的に行われることを期待しています。

    ――中長期的視野に立つと、エネルギーの新たなベストミックスの検討が必要であると提言されています。具体的にはどういうことでしょうか。

    井手:今後、エネルギーのベストミックスを検討する際には、各エネルギーの長所と短所、技術革新の動向などを、現実的、客観的に分析すべきです。そのうえで、安定供給や経済性など国内で実現すべき目標が何かを考え、開かれた国民的な議論を行う。実現性やコスト負担のあり方などについて十分に検証することなく、政治的な数値目標を安易に掲げるべきではありません。政府が「エネルギー・環境会議」のなかに設置した「コスト等検証委員会」には、国民的な議論のベースとなるデータの提供を期待したいと思います。

     ただし、エネルギーのベストミックスについて議論する際には、2020~30年を意識した中長期的な視点に立ち、エネルギーの「安定供給」「経済性」「環境配慮」のいわゆる3E間の優先順位を、大震災後の状況を踏まえて見直すべきと考えます。近年、わが国のエネルギー政策は地球温暖化防止に大きく軸足を置いてきました。しかし、国民生活を向上させつつ、産業の空洞化を防ぎながら安定的な成長を続けるためには、もちろん安全性が大前提ですが、これまでよりも、国内におけるエネルギーの安定供給や経済性に力点を置いた政策が求められるのではないでしょうか。

    井手明彦(いであきひこ)氏。1965年に三菱金属鉱業(現在の三菱マテリアル)入社。常務、副社長を経て、2004年6月に社長就任。2010年6月から現職。社団法人セメント協会会長、日本鉱業協会会長を歴任し、2010年から日本経済団体連合会評議会副議長を務める

  • 2011/11/08

    米国グリーン・ニューディール政策破たんの実相

     2009年、米国はオバマ大統領が掲げた「グリーン・ニューディール政策」に沸いた。その後、各国が環境政策と雇用対策を融合させるコンセプトとしてこれを取り上げ、成長戦略として期待した。

     しかし、2年経った今、米国の現状はどうか。「グリーン成長」は実現しないまま、厳しい雇用情勢が継続しており、オバマ大統領の支持率も低下している。追い打ちをかけるように、重点支援した太陽電池メーカーが破たん。支援が妥当・適切だったかが政治問題に浮上している。

     さらに、再生可能エネルギー普及の支えとなってきた債務保証制度が9月末で終了、12年末には風力発電に対する発電税控除の優遇措置も期限を迎えるなど、諸制度が尻すぼみだ。優遇制度が縮小する一方で、経済原理を持ち込む動きも出てきた。例えば、今年前半のエネルギー法案に関する議論では、再生可能エネルギー支援にリバース・オークション(費用対効果の高いものから優先的に採用)が提案された。いつの時代も国家の政策目標と市場原理の狭間で、いわゆる「グリーン産業」は、大きなビジネスリスクを抱え込んでいるのである。

     米国3大電力会社の一つでシカゴに拠点を置くエクセロン社のジョン・ロウCEO(最高経営責任者)へのインタビューを基に、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(10月22日-23日ウィークエンド版)が、これに関連した記事を掲載している。(http://online.wsj.com/article/SB10001424052970204618704576641351747987560.html)

  • 2011/11/01

    東日本大震災が浮かび上がらせた電力インフラの弱点

     東日本大震災は太平洋岸の地域を破壊して重大な被害をもたらし、半年以上たった今でも時折、強い余震が続いている。仙台市生まれの筆者は変わり果てた故郷の姿にしばらく言葉が出なかった。亡くなられた方々のご冥福を祈るとともに、被災者の皆さんが1日も早く普通の生活に戻られることをお祈りする。

     製紙業界も、太平洋岸に位置するすべての工場が被害を受けた。9月時点で、岩沼市(宮城県)以南の工場は復旧し生産再開を果たしているが、仙台以北は仙台湾岸を中心に津波による被害がきわめて大きく、被災者の捜索から始まり、瓦礫の片付けや機器の清掃復旧作業が延々と続き、立ち上がりに時間がかかっている。

     各社の発表によれば、三菱製紙八戸工場(青森県八戸市)は5月下旬に抄紙機が1台復旧したものの、完全復旧は9月末までずれ込んだ。また、最大の被害を受けた日本製紙石巻工場(宮城県石巻市)は自家発電設備の一部が8月にようやく復旧、印刷用紙マシンも1台が9月16日に稼働し始め、年内には主力も復旧する予定としている。また、仙台市内にあった段ボール工場、レンゴーの仙台工場は県北への移転を決定。王子チヨダコンテナー仙台工場(宮城県多賀城市)の操業再開は来年2月になる。

     一方、東京電力福島第一原子力発電所から北へ25kmに位置する丸三製紙(福島県南相馬市)は津波の被害こそ軽微だったが、緊急時避難準備地域に指定されて立ち入りが制限されたため、操業を停止していた。その後、環境放射線量率が低いことから、万全の放射線防護対策を施したうえで、7月上旬、3カ月ぶりに操業を再開している。

     こうした個々の生産設備の問題以上に、製紙業界としても大きな影響を受けたのが電力問題である。そこで、日本の電力網の実態を整理したうえで、今後の電力事情改善のあり方について私見を述べたい。本来は電力業界の専門家あるいは経済産業省が話題にする話であり、ほかの業界の人間が口を差し挟むのはお門違いかもしれないが、自分なりに調べて整理した内容を投稿する。

  • 2011/10/24

    グリーン雇用という「神話」

     温暖化問題で論争の的になっている一つは、いわゆる「グリーン成長」が可能かという点である。具体的には、温暖化政策を進めること(主に規制的手段)で雇用を生み出し、経済発展をもたらすことができるかということだ。

     英国政府はグリーンエネルギー(太陽光や風力など。ここでは水力は含めない)を推進しているが、その政策目的として、エネルギーの安定供給に加えて雇用の創出を挙げている。しかし、本当にそれが可能なのか、懐疑的な見方が英国内から出てきた。エジンバラ大学の経済学者であるゴードン・ヒューズ(Gordon Hughes)教授が最近公表した論文(The Global Warming Policy Foundation GWPF Report 3)は、現実のデータ分析に基づいて、「グリーン雇用は神話だ」と結論づけている。この論文は、単に英国にとどまらず、日本を含む各先進国が同様の経済成長戦略を政策としていることから、大きなインパクトを持つだろう。興味深い分析内容を以下に紹介していく。

  • 2011/10/20

    発送電分離問題の再考①
    10年経過も効果が見えない米国ISO/RTO

     発送電分離問題が東日本大震災を契機として再び注目されている。だが1980年代半ばから、欧米の電気事業再編を含め自由化動向をウオッチしてきた筆者としては、なぜ今、発送電分離なのか不可解な点が多い。わが国では、すでに第4次にわたる制度改革の下で、すでに機能分離されているが、このような形態になった背景には、わが国特有の理由がある。同様に、分離形態は様々であるが、欧米諸国においてもそれぞれの形態に至った独特の背景がある。

     本稿では、わが国同様、民間電気事業者が中心となっている米国における発送電分離形態の1事例である地域送電組織(RTO: Regional Transmission Organization)について評価してみたい。今後、①最もドラスティックに国営事業を民営化し、発送電分離した英国の事例、②EU(欧州連合)の送電事業の所有権分離案にあくまで反対した独・仏など、それぞれの特質を紹介する予定である。今後のわが国における電気制度改革に関わる客観的議論に資すれば幸いである。なお、本稿ではRTOとISO(Independent System Operator)を同義語として使う。

  • 2011/09/27

    再生可能エネルギーによる景気浮揚は本当か?
    米太陽光発電企業破綻の教訓

     再生可能エネルギーのなかでも、日本では太陽光発電に対する期待が高い。欧州で再生可能エネルギーの主力になっている風力発電は日本には適地が少ないし、地熱やバイオマス、潮力などのポテンシャルを考えても大きな供給量を期待できないからだ。結局、太陽光発電が日本では主力にならざるを得ない。

     その太陽光発電を大規模に導入する目的で、「再生可能エネルギー特別措置法」が成立した。再生可能エネルギーから生まれた電力を固定価格で高く買い取り、需要家が電気料金として負担する仕組みだ。これにより、再生可能エネルギー設備への投資が進み、関連産業が日本で育つことが期待されている。

     しかし、この考え方は正しいのだろうか。日本に先行して固定価格買い取り制度を導入した欧州では、使用されている太陽光発電モジュールの大半は中国、台湾製だ。欧州ブランドの製品でも、モジュール製造はアジアで行っている。“欧州産”は価格競争力がないためだ。もっと悲惨なのは、オバマ大統領が再生可能エネルギーによる雇用創出を打ち出した米国で、8月中旬から、日本の会社更生法に当たる連邦破産法第11条、いわゆる「チャプターイレブン」を申請するモジュール製造企業が相次いだ。

     たとえば、8月15日にエバーグリーンーソーラー社、8月17日にスペクタルワット社、9月7日にはソリンドラ社(昨年オバマ大統領が視察し、5億ドル以上の連邦政府の資金を投入)がチャプターイレブンの申請を行っている。このうちソリンドラ社は、1100人の従業員の大半を即日解雇した。破綻の原因は中国企業との競争に敗れたことだが、競争激化の本当の原因は、欧州市場にあると見られている。

  • 2011/08/19

    再生可能エネルギー促進法は理解されたか?

     安全・安心な社会の実現には、リスク評価やリスク管理を適切に行うことが欠かせない。さらに、社会がリスクと向き合っていくためには、リスク評価やリスク管理にかかわる情報をあらゆるステークホルダーが共有し、対話を通じた信頼関係のもとに問題解決の道筋を共に考えるリスクコミュニケーションが必要となってくる。

     このリスクコミュニケーションという手法は新しい概念ではなく、危険物質を扱う事業者やそれを管理する行政機関の多くは、すでに取り組んできたものだ。説明と対話で理解を深めつつ、社会的意思決定に向けてコンセンサスを形成することは、危険を扱ううえで当然のプロセスといえる。

     一方で事故などの緊急時には、とにかく目前の危機を回避することが優先される。危機の最中には、普段よりも判断力が低下する人が多くなって当然だし、社会的混乱の恐れもある。このため、多少一方的であっても明確でぶれない情報伝達が必要となる。説明や対話など、コンセンサス形成のプロセスが省略されることもしばしば生じる。しかし、あくまでも緊急時の対応であり、目前の危機を回避するためには有効な面があるが、恒常化すべきものではないだろう。

     このような場合には、緊急事態が落ち着いた後には、平常時にも増してリスクコミュニケーションが重要となる。福島第一原子力発電所の事故をみても、これから先、現実問題として放射線防護措置と生活の質との折り合いをつける必要があるが、その際には、リスクの理解と対話によるコンセンサス形成が重要になろう。

  • 2011/08/18

    ポスト京都に向け、次の手を探る欧州

     欧州が、ポスト京都に向けて新しい動きを見せている。本稿では、2009年の第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)から今年初めまでの欧州の状況を簡単に振り返った後、欧州の動向について、あくまで筆者の個人的見解であるが解説を試みたい。まだ欧州歴は浅いものの、欧州産業界の議論に直に接している者の見方として、多少なりとも参考にして頂けたら幸いである。

     筆者が2010年1月にブラッセルに赴任してから1年半たった。赴任後すぐに、欧州の気候変動政策研究者の話を聞いた際、想像以上に悲観的な彼らの見方に驚いたことを今でも思い出す。京都議定書の延長線上に、米国や途上国を含めたグローバルCapを設置し、グローバルCap & Tradeに世界が進んで行くことを真摯に期待していたEU(欧州連合)の気候変動政策担当者にとって、COP15での挫折は想像以上に大きなものだったようだ。その後、米国のオバマ政権に期待をかけ、米国がCap & Tradeに進むことに一縷の望みを抱いていたようだが、その望みも昨秋には、少なくとも当面の間、絶たれてしまった。

     産業革命以降の温度上昇を2℃以下に抑制するという450ppm目標に基づき、グローバルにトップダウンで排出削減目標を設定していこうというEUのアプローチは、地球規模で法的拘束力のある総量Capを設定できなくなってしまった以上、説得力を失いつつある。世界の二酸化炭素(CO2)排出量の1割強でしかないEUが単独で2℃目標に突き進んだとしても、実質的な効果がどれだけあるか疑問視する意見が、EU域内で増えつつあるようである。こうした動きを受けEUは、2℃に替わり、EUの政策を正当化するための新たな理念を模索しだした。しかし、この転換は簡単には進まぬまま、従来の慣性で動いているようにも見える。もちろん、新しい理念を打ち出したとしても、再生可能エネルギーの導入や省エネによる域外からのエネルギー輸入の低減、イノベーションの促進など、実際の行動にはあまり大きな変化はないとみられている。

  • 2011/08/17

    日本の石炭火力発電技術が温暖化を抑制する

     国際エネルギー機関(IEA)は、毎年、主要国の電源別発電電力量を発表している。この2008年実績から、いくつかの主要国を抜粋してまとめたのが下の図だ。現在、日本人の多くが「できれば避けたいと思っている」であろう順に、下から、原子力、石炭、石油、天然ガス、水力、その他(風力、太陽光発電等)とした。また、“先進国”と“途上国”に分けたうえで、それぞれ原子力発電と石炭火力発電を加算し、依存度の高い順に左から並べた。

    2008年度主要国の電源別発電電力量

    2008年度主要国の電源別発電電力量

    世界の発電電力量の4割を石炭火力が賄っている(出典:IEA/ENERGY BALANCES OF OECD COUNTRIES(2010Edition),ENERGY BALANCES OF NON-OECD COUNTRIES(2010Edition)から筆者が作成)

     この結果を見ると、どの国も原子力と化石燃料を加えると80%を超える。また、化石燃料のうち、石油は少なく、石炭と天然ガスが大部分を占める。国によって両者の比率は大きく異なり、天然ガス資源が比較的手軽に入手できる国では当然ながらガスの比率は高い。しかし注目すべきは、石炭の占める割合が、主要途上国だけでなく米国やドイツでも40%を超えており、世界全体で4割を占める最大の電力源だということである。なお、「その他」に分類されている太陽光や地熱、バイオマス等の再生可能エネルギーは、各国とも強化すべき電力源と位置づけてはいるが、基盤電源とするためには、技術開発の加速による飛躍的な効率向上等によって大幅なコストダウンを実現することが必須であろう。

  • 2011/08/09

    東北経済復興と地球温暖化~復興と防災国家構築と~

     東日本大震災の発生以来、5カ月近く経過したが、東北経済の復興が目に見えて進んでいるようには感じられない。いまだに現地では瓦礫の処理が滞っている。復興の実感は、瓦礫を撤去して、そこに新しい家が建ち、周辺一帯に電気やガス、水道などのユーテリティーが回復して、はじめて湧いてくるものではないだろうか。 続きを読む

  • 2011/07/28

    二項対立の構図がエネルギー政策を停滞させる

     エネルギー政策に関して、私のfacebookで、2回のアンケートを行った。1回目は、2011年6月23日から7月6日まで、「政府の提唱するエネルギー政策(原子力・火力・省エネ・自然エネ)についてどう思うか?」という問いを投げかけ、2回目は、7月14日から7月20日まで、「総理の脱・原発依存宣言をどう思うか?」という問いを投げかけた。

     結論は、図1、図2の通りであり、どちらの結果を見ても、過半数の回答者が「原発依存からの脱却」を望んでいることがわかる。新聞等での調査結果より、その割合が多いのは、ネットユーザーによる特徴があるのかもしれない。しかし、原発依存からの脱却を望む回答者たちも、「即座に原発を止めるべき」という人は多くない。図1の「三本柱で進める」に投票した人の75%は、段階的に原子力発電の割合を減らしていくことを求めている。マスメディアでありがちな、「脱原発=即原発全停止」のようなヒステリックな意見ではないのである。このアンケートに答えてくれた人々をベースに見れば、マスメディア的な二項対立に陥り、思考停止している人ばかりではないことがわかる。メディアが政局と絡めてエネルギー問題を報道するために、国民の意思を見えなくしてしまっているのではないかとも思えてならない。

    図1
    政府が提唱するエネルギー政策の4本柱(原子力・火力・省エネ・自然エネ)についてどう思いますか?

    図1 政府が提唱するエネルギー政策の4本柱(原子力・火力・省エネ・自然エネ)についてどう思いますか?
    2011年6月23日~7月6日に、http://www.facebook.com/kumi.fujisawaでアンケートを実施。
    351件の回答を得た

    図2
    7月13日の菅総理の「原発に依存しない社会を目指す」という宣言、評価しますか?

    図2 7月13日の菅総理の「原発に依存しない社会を目指す」という宣言、評価しますか?
    2011年7月14日~7月20日に、http://www.facebook.com/kumi.fujisawaでアンケートを実施。
    294件の回答を得た
  • 2011/07/21

    再生可能エネルギーの正しい導入方法を考える

     菅直人首相が退陣の条件の一つにした、再生可能エネルギー促進法案が国会で可決されそうである。これは、風力、太陽光発電などの再生可能エネルギーからの電力を固定価格で10年以上の期間にわたり購入するというものだが、現在の形ではかなり問題のある法案だ。私は、7月9日に放送されたNHKの「週刊ニュース深読み」で、賛成派の飯田哲也氏と法案を議論する機会があったが、時間切れになり、すべての論点について議論することができなかった。そこで、この場で二つの論点を示しておきたい。

    【電力料金の値上がり額】

     電力の固定価格買い取りに要する費用は、電力料金の形で電力の需要家が負担する。この結果、電気料金は値上がりする。値上がり幅は、買い取り価格と買い取り電力量により決まることになる。値上がり額によっては、国民生活と産業活動に大きな影響が生じる。では、値上がり額はいくらになるのだろうか。

     再生可能エネルギーごとの買い取り価格と導入量を以下の表のように仮定し、2020年の買い取り価格総額を計算してみた。

     現在の再生可能エネルギーの導入量は、太陽光発電が300万kWから400万kW、風力発電が300万kW弱、地熱発電50万kW強程度と推定されている。上記の仮定通りに進めば、設備導入量は一挙に増加する。半面、設備量の比較では日本の全電源の20%を占めるようになるが、発電量では全体の5%程度に止まる。一方、仮定通りに進めば、2020年の固定価格買い取り制度に基づく負担の総額は1兆1000億円を上回る。標準家庭の追加負担額は年間4000円強、月に25万kWhを消費する中規模工場での追加負担額は年間約360万円となる。

    【系統安定化費用】

     安定的に発電できない太陽光や風力発電を導入するには、送電系統を安定的に運用するための送電線能力の増強とバックアップ電源が欠かせない。しかし、仮定したような大量の太陽光、風力発電を導入するには、送電線能力の増強だけでは不十分だ。このため、蓄電池の導入により系統の安定化を図ることが必要となる。

     3500万kWの太陽光発電設備導入時に必要な系統安定化費用については、経済産業省次世代配電ネットワーク研究会が検討を行っており、費用は2兆~24兆円とされている。この費用負担は、2020年時点の全需要家平均でkWh当たり0.46円から5.46円になる。買い取り価格の負担に加えて、標準家庭で年間1600円から2万円弱の追加負担が数年間にわたり発生する計算になる。

  • 2011/07/15

    正統な競争力を付与する仕組みが最も重要に

     原発が限界化して行くと火力がさらに主流化し、その結果、化石燃料の新規購入で数兆円のコストがかかり、電気代に跳ね返ると云う議論があります。ある程度そうでしょう。しかし、現行の総括原価主義や地域独占を見直したら、その分電気代の上昇は抑えられるでしょう。何しろ、日本の電力は外国のガス生産者や国内の調達参加者にとっては言い値で買ってくれる上得意なのですから。2011年6月の雑誌「選択」は、その悲劇的状況を論じています。国内調達で随意契約を禁止していない国は、日本ぐらいです。事情は違うにしても米国では各州の公益事業委員会がコストの外部監査をしています。給与も業界最低に抑えています。

     電力のような基幹商品は硬直的な価格体制から解放し、市場性をもっと導入するべきです。そういう姿勢を国が示すことこそ、日本経済の高コスト体質を和らげ、国民経済を擁護し、日本企業の国際競争力強化に繋がるのですから、そういう情報を提供し、国民の衡平な議論に供するべきです。そういう姿勢が生まれれば、「原発を止めるなら、これだけ莫大なコストになるぞ」という単細胞的議論から均衡のとれた議論になるでしょう。

     自然エネルギー買い取り政策も同じです。この制度の結果、電力料金は上がるでしょう。しかし、上がり方を独占排除などのいろいろな手段で緩和できるはずです。

     「国民よ、自然エネルギーの高価な負担に耐えられるのか?」といわんばかりの姿勢は、日本という国の品格としては情けないのではないでしょうか? 要するに「上がる、上げる」という議論をするなら「下げる、下がる」という議論も同時するのが、公益事業を今後どうするかというときに、絶対に必要だと思います。国民融和の下で健全で頑強なエネルギー政策を進めようとするなら、事情を知っている論者はこの均衡を国民に知らせるべきだと思います。

  • 2011/07/06

    エネルギー政策の見直しに向けて

     民主党政調の成長戦略PTのエネルギー政策有識者ヒアリングに呼ばれ、6月30日8時からプレゼンしてきました。民主党の中での「常識」と異なる点がいくつも含まれていたようで、出席議員の方々からもさまざまな質問を受けました。

     中でも、次のような質問が印象に残りました。

    質問:原子力国有化は難しいと(澤は)言うが、どのような根拠か。

    回答:国直轄の事業として、原子力発電所を運営できると思えない
    国は、原子力から撤退しないのであれば、原子力賠償措置法における事故時のリスクをより積極的に取ることで関与を増やすべきだが、その政治的意思が見えない。それゆえに国有化議論を一回はこなす必要がある。

    質問:電力供給工程表作成は賛成だが、供給力だけではなく、需要についての綿密な見通しが必要ではないか。これまでの電力会社の見通しは当たった試しがない。

    回答:確かに、需要想定については、これまで機械的に設定してきていたが、これから数年の間は需要見通しについて、相当きめ細かく積み上げる必要がある。また料金オプションとしても、需要の弾力性を高めるような仕組みを検討すべき時期。

    質問:自然エネルギーを増やすための固定価格買取は必要だし、イノベーションも期待できる。

    回答:原子力も政治的意思と資金注入を長年やって初めてここまでのシェアを得るようになった。風力にしても太陽光にしても、立地地域における抵抗はだんだん大きくなると思われる中、長年にわたって政治的・財政的資源をつぎ込み続ける覚悟はあるか。さらに固定価格買取は、参入事業者間に競争を促進するスキームではなく、新技術を開発するインセンティブがない。

    質問:化石燃料確保が重要というのは同意する。しかし、コストはアップする。具体的にはどのように対処すればよいか。

    回答:ユーザーとして大規模であることが重要な交渉力になる。また外交的にも戦略的に立ち回る必要があり、政府がもっと前面に出る必要がある。コスト的には、今後主流になると思われる天然ガスの調達契約を日本に有利なものとし、価格を低減していくことが戦略目標になる。

     昨今の政府のエネルギー政策について批判的な姿勢を取っている筆者をヒアリング対象に呼んでいただき、じかに与党議員の方々にお話しできる機会が与えられたため、その点は非常にありがたいと思いました。こうした機会は、筆者にとってもさまざまな見方や関心に触れるいいチャンスとなりました。

     今後ともこうした場があれば、またこのWEB上でご報告します。

    資料:成長戦略PT資料(エネルギー政策の見直しに向けて)(PDF)

    記事全文(PDF)

  • 2011/06/13

    正しい節電で、楽しく気楽に生活する

     東京電力や東北電力管内では7月から、夏期の使用最大電力の15%削減が始まるが、これに向けて、企業でも家庭でも、さまざまな取り組みが始まっている。廊下やエレベータホールの消灯はもちろん、工場の操業の見直し、さらには西日本への生産移管やデータセンターの移設などである。 続きを読む

  • 2011/06/06

    再生可能エネルギーの本格導入を阻む3つの壁

     福島第一原子力発電所の事故以来、原発に替わるエネルギーとして、風力、太陽光を中心とした再生可能エネルギーが注目を浴びている。菅直人首相は、フランスドービルで開催されたG8サミット(主要先進国首脳会議)での演説で、「太陽光発電を1000万戸に設置する」と表明した。

     再生可能エネルギーの普及を図るための政策は、震災以前にも導入されていた。太陽光発電設備の導入により生じた余剰電力を電力会社に販売できる制度は、2009年度から導入されている。電力会社は買い取り費用を電気料金に上乗せし、需要家から回収する。

     今年度の買い取り価格は、1kW時当たり42円に設定されている。東京電力の民生用、産業用の電力の平均販売価格は、1kW時当たり16円程度。つまり、太陽光発電が増えれば増えるほど、電力料金への上乗せ額、すなわち需要家の負担額は大きくなるわけである。

     G8サミットに先立ち、菅首相は、太陽光発電設備の大量導入に合わせ、太陽光発電のコストを2020年に現在の3分の1に引き下げる目標も発表した。設備費用のなかには工事費がかなりの部分を占めており、コストを3分の1に引き下げるのは簡単ではない。しかし、もしコストダウンが実現しても、それまでに導入された太陽光発電の買い取り価格は、その後10年間にわたり消費者が負担することになるため、太陽光発電の普及が大きく進めば、電気代の大きな値上げは避けられないのである。

     日本に先立ち、再生可能エネルギー由来の電力の固定価格買い取り制度を導入した欧州主要国では、相次いで買い取り価格の引き下げが行われている。長期にわたり固定価格で買い取るため、累積の買い取り額が巨額になったためである。導入が進めば進むほど、消費者の負担が級数的に増えていくことになる。

     しかも、再生可能エネルギー導入に伴う問題は、消費者が支払う電力料金への価格転嫁だけではない。バックアップの発電設備が求められることや送電能力の面でも大きな課題がある。

     バックアップ電源が必要な理由を図に示す。日照がない時間はほとんど発電ができない太陽光や、凪(一時的に風のない状態)には発電できない風力発電に対し、電力需要は発電側の事情とは関係なく生じる。したがって、再生可能エネルギーによる発電ができない時間に備え、電力需要と再生可能エネルギーによる電力供給の差を埋めるために、常に、発電が可能な電源を用意していなければ停電が発生する。

    太陽光や風力への依存では、電力需要とのギャップが大きくなる
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