MENUMENU

コロナ禍で、もつれてきたタイの廃プラ対策


中央大学・経済学部・教授


印刷用ページ

1. 好スタートを切ったタイのレジ袋の無料配布禁止

 前号「もつれたマリンプラスチックごみ問題をタイで考える」では、タイ国内の具体的な海洋プラ・廃プラ対策について、民間主導のPPPプラスチックと廃プラ対策を示したプラスチック廃棄物管理ロードマップについて考察した。

 この中で筆者は、ロードマップで示された「2022年までの目標についてはほぼ達成できると考えている」と記した。ただし、タイの食文化を踏まえると「目標の中では発泡スチロール製の食品容器の禁止が困難となる」とも留意点を示していた注1) 。本稿では、2020年始から現在までにコロナ禍の影響で「もつれて」きたタイの廃プラ問題の現況について報告する。

 ロードマップに記載された2022年の目標を前倒する形で、2019年9月6日に46の大手流通事業者は、2020年年始からレジ袋の無料配布を停止することを天然資源環境省と合意した。最終的に75の大手流通事業者が参加して2020年始からレジ袋の無料配布を取りやめた。タイでは年間450億枚のレジ袋を使用することから、今回の大手流通事業者による配布停止によって135億枚(約30%)の削減効果があると推定されていた注2)

 ロードマップではレジ袋の無料配布停止には2022年まで2年間猶予があったことから、30回以上再利用できるマイバックを製造することを代替策として検討していたプラスチック産業協会の会員工場は合計243億バーツの損失を被ることになり、政府に救済策を陳情していた注3)

 しかし、タイの国家開発管理研究所(NIDA)が実施したレジ袋の無料配布中止に関するアンケート調査では、国民の過半数は強く支持しており、またおよそ8割の人がエコバックを用意し広く支持されていた注4) 。この結果として、2020年のエコバッグ需要が4億1,000万枚、金額にして46億3,000万バーツ(約163億円)相当に拡大すると予測されていた注5)

 このようにタイのレジ袋の無料配布禁止は世論の後押しもあり好スタートを切り、結果的にプラスチック産業協会の陳情は黙殺される形になった。

2. コロナ禍で一変した廃プラ問題

 ところが、タイにおいてもCovid-19の感染を防止するため、2020年3月26日に非常事態宣言の発令により、いわゆるロックダウンの措置が実施され生活様式が一変する。特に、タイは外食・中食文化であるため、レストランや屋台では食事が出来なくなり、フードデリバリーが急増した。ロックダウン直後から4月末までにフードデリバリーアプリ経由の注文数はLine Manが300%増、Grabは400%増となった。これに伴い、2020年の配送包装事業の売上⾼は144億バーツとなり、前年比で15~18%拡大すると予測している注6)

 当然のことながら、配送包装が増加したことによって、バンコクにおける廃プラ量は、2019年の平均2,115トン/日から、2020年4月には3,432トン/日に6割も増加することになった注7)

 このような廃プラ量の変化によって、タイ国内のプラスチックリサイクル市況も影響を受けている。タイ全土に1,160店舗(フランチャイズを含む)を運営する最大の買取業者であるWongpanit社では廃プラを44種類に分けて買い取っており、その買取価格はほぼ毎日更新されている。容器包装の中で高価である透明な廃ペットボトルの買取価格では、直近の2年間の最高値2019年8月と9月の10バーツ/kgから2020年8月末に3バーツ/kgと最安値になっている。また、配送包装としてフードデリバリーで利用される発泡スチロールも2020年4月~8月に最安値1.5バーツ/kgになった。廃プラの供給が過剰となる中でリサイクル材の需要は減っており、タイの廃プラ市場の需給が緩んでいると考えられる。


図1 タイの主要廃プラの国内取引価格(単位バーツ/kg)
(出所)Wongpanitの月末の買取価格表から作成

3. タイの廃プラ対策は基本に立ち返るべき

 このような状況に対して、タイ政府はコロナ禍により廃プラ削減が停滞していることを認め、まずはコロナ対策が優先であり、PPPプラスチックに参加している大手量販店において容器包装廃棄物を分別回収するパイロットプロジェクトを6月末から開始している注8)

 同分別回収プロジェクトでは、消費者が容器包装ゴミを使用後に洗浄し12種類を分別して店頭に持ち込み、回収ボックスへ投入することを呼びかけている(図2)。


図2 PPPプラスチックによる容器包装の分別回収ボックスと回収方法
(出所)PPP Plastic(2020)

 筆者はバンコクにおいても家庭ゴミの分別収集を実施していない中で、店頭での持ち込み回収の実現性は乏しいのではないか、と推察していた。現地調査会社に定点観測を依頼したところ、飲みかけや食べ残しゴミの混入は少なく分別は奏功しているようだ。ただ、直近の9月だと回収が遅延し、廃プラが溢れだしており、今後悪化していく可能性もある。


写真1 PPPプラスチックによる容器包装の分別回収ボックスの定点観測
(出所)TK Wise Group撮影

 これまでタイで分別がうまく行かない要因として、収集作業員の有価物抜き取り作業や収集委託費のキックバックなどの現状のサブシステムが分別導入により崩壊することが挙げられる注9) 。したがって、これまで行政主導の分別プロジェクトはほとんど継続しておらず、行政のサブシステムに関与しないPPPプラスチックの分別回収プロジェクトに意義を見出すことができ、今後の動向を注視する必要がある。

 他方で、2020年9月30日に天然資源環境省とフードデリバリー事業者等の間で、容器包装プラスチック削減に関するMOUが結ばれた。消費者が注文時に使い捨てプラスチックか、生分解性プラスチックなどの代替容器を選択できるようになるという注10) 。しかし、加盟店が代替容器を用意できるのか、またその代替容器の料金負担のあり方など運用面は課題があろう。

 廃プラ削減自体は国際的な潮流であり意義があるが急進な取り組みよりも、まず分別収集を実施することと、次にリサイクル法を制定することが優先順位の高い課題であると考えられる。

 第1にタイでは家庭ゴミの収集は、ユニット(1世帯当たり・月20ℓ毎)に応じて収集料金を課している。バンコクの場合は、現在ユニット当たり20バーツ(約70円)となっている。コロナ禍の前は2020年10月よりユニットに対して20バーツから80バーツに値上げする予定であった。コロナ禍の経済状況の悪化を鑑みて1年間延期することが発表された注11)

 そもそも、バンコク都民は戸別収集方式で毎日、未分別で、容積は関係なく排出可能である。したがって、自分がどのくらい廃棄物を排出しているか(集合住宅の場合は管理費に含まれており収集料金を払っていることすらも)を把握していない。レジ袋の無料配布停止は、拙速な導入でもタイ国民に好意的に受け入れた半面で、レジ袋をリユースすることによるゴミ排出の手段を失った。これらを踏まえると、曜日別・種類別の分別回収の導入、特に指定収集袋による有料化制度の導入を検討する絶好の好機であると考えられる。

 次に、タイの1人・1日当たりの都市ゴミ廃棄物量は、2017年の時点で1,130g/人・日になっており、これは日本が容器包装リサイクル法の導入した1995年の1,138 g/人・日と同じ水準となっている。先に確認した通り国内の廃プラ市況が種類によっては実質的に逆有償化しつつあることからも、早急にリサイクル法の制定が求められる時期に達しているといえる。またリサイクル法と並行して再生品の需要を喚起する規制緩和や関連基準設定によってもプラスチックリサイクル率は改善する余地が多分に残されている注12)

 最後に、2019年時の施設数で85%を占める不適正処理施設を適正化することや、廃棄物回収量に占める22%の不適正処理率を改善することが、タイの国内廃棄物管理の喫緊の課題であり、タイの廃プラ対策は廃棄物処理の基本に立ち返るべきといえよう。

※ 
本報告は科学研究費若手研究(A)17H04722「国際環境ビジネス促進策に資する環境サービス貿易定量評価手法の開発」、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)・独立行政法人国際協力機構(JICA)地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「東南アジア海域における海洋プラスチック汚染研究の拠点形成 」、及び2019-2020年度九州大学応用力学研究所応用力学共同研究拠点「タイにおけるプラスチックマテリアルフロー分析」による成果の一部である。
注1)
http://ieei.or.jp/2019/11/expl191119/(2020年9月16日取得)
注2)
https://www.bangkokpost.com/business/1744694/retailers-to-stop-handing-out-plastics(2020年9月16日取得)
注3)
https://www.bangkokpost.com/business/1850854/plastics-factories-feel-bag-ban-pain(2020年9月16日取得)
注4)
https://www.bangkokpost.com/thailand/general/1833989/majority-support-ban-on-single-use-plastic-bags-poll(2020年9月16日取得)
注5)
https://www.kasikornresearch.com/th/analysis/k-social-media/Pages/FB-plaBag-04-02-20.aspx(2020年9月16日取得)
注6)
https://kasikornresearch.com/en/analysis/k-econ/business/Pages/z3117.aspx(2020年9月16日取得)
注7)
https://www.bangkokpost.com/thailand/general/1916236/plastic-piles-up-as-pandemic-sidelines-pollution-fight(2020年9月16日取得)
注8)
https://www.facebook.com/PPPPlastics(2020年9月16日取得)
注9)
藤井美文・平川慈子(2008)、「日本の分別収集システム構築の経験と途上国への移転可能性―タイにおける実験的調査からの検討―」『アジアにおけるリサイクル』アジア経済研究所研究双書570,pp.23-80
注10)
http://www.mnre.go.th/th/news/detail/70876(2020年10月1日取得)
注11)
https://www.bangkokpost.com/thailand/general/1957507/bma-delays-hike-in-waste-collection-fee(2020年9月16日取得)
注12)
佐々木創(2019)「タイにおけるプラスチック問題の現状と課題」『環境経済・政策研究』12巻2号、pp.46 -50(doi.org/10.14927/reeps.12.2_46)