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もつれたマリンプラスチックごみ問題をタイで考える


中央大学・経済学部・教授/チュラロンコン大学・経済学部・客員研究員


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1. タイの廃プラや海洋プラ対策は実現できるのか?

 2019年はタイがASEAN議長国であり、6月のASEANの首脳会議において海洋ごみ対策に関連するバンコク宣言が採択されるなど、廃プラや海洋プラ対策が議題に取り上げられた。本稿では、タイの海洋プラ・廃プラ対策を報告し、その課題を考察したい。

 タイ国内の海洋プラ・廃プラ対策は、国家環境委員会の中の廃プラ管理小委員会において検討が進められている。廃プラ管理小委員会の中に、1)PPPプラスチックと呼ばれる公民連携事業、2)政策、3)教育・普及啓発の3つのワーキンググループ(WG)が設置されている注1)。教育・普及啓発WGは、他の2つのWGの取り組みを後押しする形で進められていることから、ここでは具体的な廃プラ対策として1)公民連携事業と2)政策について考察を深める。

 第1に公民連携事業については、2018年6月にタイ工業連盟、石油化学工業、大手流通業などプラスチック関連の主要企業がタイ政府機関と「持続可能なプラスチック・廃棄物管理の公民連携事業」に調印し開始した。同事業の目的は、2027年までに海洋に流失する廃プラ量を50%削減することとし、タイの廃棄物管理とプラスチックの利用の重要な一歩と位置付けられている。

 同事業の廃棄物分別パイロットプロジェクトにおいては、都市部ではバンコク都クロントイ区、地方部ではラヨーン県で実施している。どちらにおいても生ごみや紙・アルミ缶のリサイクル、有害廃棄物なども含んだプラスチックに留まらない現実的な分別の取り組みを実施していることに特徴がある。これらの都市部と地方部の取組成果を優良事例として2022年までに取りまとめ、他の地域へ横展開を目指している。この他にも、プラスチック使用削減に資する技術開発と同技術による生産、リサイクルよる循環経済の推進、プラスチックの物質収支データベースの整備などを実施している。

 タイ政府関係閣僚は「公民連携事業が鍵になる」と度々発言している。例えば、公民連携事業に参画しているサイアムセメントグループが主催した循環経済(Circular Economy)に関連するセミナーでは、プラユット首相への提言が取りまとめられ、首相も「提言に合意し、政府は循環経済をより迅速に発展させる準備ができている」と講演している注2)。また、46の大手流通事業者は、2020年年始からレジ袋の無料配布を停止することを天然資源環境省と合意している(写真1)。


写真1  プラユット首相の講演の様子とレジ袋の無料配布停止を告知する天然資源環境省大臣
(出所)筆者撮影

 第2に、政策については2019年4月に廃プラ管理のロードマップが内閣で閣議承認されている注3)。このロードマップの目的は、前述の公民連携事業で掲げている2027年まで海洋プラスチック50%削減を踏襲し、それを達成する数値目標として品目別の削減目標率と廃プラのリサイクル目標率が、フェーズ1(2018年~19年)、フェーズ2(2020年~22年)、フェーズ3(2023年~30年)に分けて設定されている(図1)。


図1 ロードマップに示された品目別削減目標率とリサイクル目標率
(出所)PCD(2019),“การจัดการขยะพลาสติก พ.ศ.2561 – 2573”(廃プラ管理のロードマップ2018-2030年)より作成

 具体的には、2019年までに使用禁止となる品目として、ペットボトルなどが未開封であることを示すために利用されていた「キャップシール」、プラスチックに添加剤を加えることで光や熱の影響で細分化する「オキソ(酸化型)分解性プラスチック」、化粧品、洗顔剤、ボディソープなどで利用される「マイクロビーズ」が挙げられている。さらに、36ミクロン以下のレジ袋、発泡スチロール製の食品容器、使い捨てプラスチックカップ、プラスチックストロー(子ども、高齢者、患者は除く)については2022年までに使用禁止となる。

 廃プラのリサイクル目標率においては、2027年に100%と野心的な目標が掲げられている。これを達成する政策手段として、発生源・消費・処理の3つの対策をフェーズ1~3に分けてロードマップに記載している。ただし、フェーズ間での重複を含めると政策手段の総数は95項目もある総花的な対策となっており、優先順位も不透明である。

 では、これらの数値目標は達成できるのだろうか。筆者は2022年までの目標についてはほぼ達成できると考えている。2022年までの目標の中では発泡スチロール製の食品容器の禁止が困難となるが、国立公園内の屋台や公民連携事業に参画する流通業のフードコートなどでは、既にバガスと呼ばれるサトウキビの搾りかすを再利用したバイオマス・ファイバーの容器に切り替わり、その品質や価格は発泡スチロール製と遜色ないレベルまで達しており、残る課題は生産や普及の拡大となっている。

 また、2023年以降のフェーズ3における廃プラのリサイクル目標率については、エネルギー回収を含めれば日本並みの90%前後は達成できるのではないかと推察している。この根拠として、2017年まで公害管理局(PCD)が公開していた全てのプラスチックのリサイクル率は既に75%を達成していたからである注4)。ロードマップで廃プラのリサイクル目標率のベースラインとなっている2018年の22%は、2022年までに使用禁止となる7品目だけのリサイクル率が適用され低く設定されている。これらの数字の乖離については、公民連携事業で実施されているプラスチックの物質収支データベースの整備の中で順次修正されていくにつれて、リサイクル率は上方修正されると予想できる。

 ロードマップに記載されている多様な政策の中で優先順位を付けるのであれば、廃プラのリサイクル率をさらに向上させるために、リサイクルしやすい設計やリサイクル製品の品質基準、グリーン購入の推奨などリサイクル製品の需要を喚起する政策が肝要となる。なぜならば、前号で指摘した通り注5)、タイは中国の廃棄物輸入規制の影響を受ける以前は継続して廃プラは輸出超過であったことから、タイ国内では廃プラの需要が乏しいからである。現在の廃プラ対策は公民連携事業において民間主導で実施されているため、PCDや工業省などがこの民間企業の環境配慮活動を支援する政策を優先的に実施することが必要である。

2. タイの廃プラや海洋プラ対策に科学的根拠を

 廃プラ・海洋プラ問題の優れた論考である石川(2019)注6)で、Jambeck ら(2015)推計の問題を指摘しており、タイの廃プラ対策に照らせば、散乱ごみの発生量と海洋への流出率の2点において筆者は課題があると考えている。

 Jambeckら(2015)では散乱ごみの発生量を総都市ごみ発生量の2%として一律に推計している。タイでは2018年に野焼きや野積みなどの不適正処理量が736万t(発生総量26%)と報告されている注7)ことからも過少推計の懸念がある。海洋への流出率においても、全世界に推定値を一様に適用しているが、タイの野焼きや野積みで流出するマクロ・マイクロプラスチックの流出量を実測することは、同様の問題を抱える途上国の海洋プラ問題で重要なデータになると考えられる。

 このような課題を克服するために、科学技術振興機構(JST)および国際協力機構(JICA)が共同で実施する「地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)」において、日本とタイの研究者らが協力してタイに調査・研究の拠点をチュラロンコン大学に設け問題解決に取り組む予定であり、筆者も参加している。2019年9月に実施した事前調査では、生態系保護のため入島制限を課しているタイ中部の無人島においてもマイクロプラスチックが検出され、改めて既存の生態系保護活動だけでは対応困難な海洋プラの問題が再確認できた注8)

 2001年以来、タイの廃棄物・リサイクル問題を研究してきた筆者としても、総花的な政策の感が否めない現状の廃プラ管理のロードマップの見直しの際に、科学的根拠に基づいた費用対効果の高い政策の優先順位を提案し、タイの循環経済の形成に微力ながら貢献できれば幸甚である。

※ 本稿は科学研究費若手研究(A)17H04722「国際環境ビジネス促進策に資する環境サービス貿易定量評価手法の開発」による成果の一部である。

注1)
http://www.pcd.go.th/Info_serv/waste_plastic.cfm で議題と議事録が閲覧可能(2019年10月31日取得)
注2)
https://www.scg.com/sdsymposium/#/en/home(2019年10月31日取得)
注3)
http://www.pcd.go.th/Info_serv/File/Plastic%20Roadmap.pdf(2019年10月31日取得)
注4)
http://www.pcd.go.th/public/Publications/print_report.cfm?task=pcdreport2560(2019年10月31日取得)
注5)
http://ieei.or.jp/2018/10/expl181010/(2019年10月31日取得)。別途、前号の指摘した通り、国際資源循環に関しては、適正に廃プラ輸入していた事業者の調達コストが上昇し、さらに適正にE-wasteを輸入しリサイクル日系企業が撤退するなど「悪貨は良貨を駆逐する」市場が形成されている。
注6)
石川雅紀(2019)「もつれたマリンプラスチックごみ問題を解きほぐす」(http://ieei.or.jp/2019/06/expl190607/)(2019年10月31日取得)
注7)
http://www.pcd.go.th/public/Publications/print_report.cfm?task=pcdreport61 (2019年10月31日取得)
注8)
https://www.jst.go.jp/report/2019/191023.html(2019年10月31日取得)