タイにおける中国・廃棄物輸入規制の影響:廃プラ輸入急増と対策


中央大学・経済学部・教授/チュラロンコン大学・経済学部・客員研究員


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 2018年始から施行された中国廃棄物輸入規制により、国際資源循環の流れが大きく変化している。特にタイ、ベトナム、マレーシアなどは、中国廃棄物輸入規制により自国で発生した廃プラの輸出先を失ったと同時に、日本や欧米など先進国からの輸入も急増したため、2018年の中ごろに各国政府は喫緊の対応に迫られることになった。

 タイにおける廃プラ貿易量の変化をみると、廃プラの中国への輸出依存度は2013年に最大80%を超えていた(図表 1)。ところが、2017年末から中国廃棄物輸入規制で輸出先を失うことを見越した先進国からのタイへの廃プラ輸入が急増していた(図表 2)。

図表 1 廃プラ貿易量(単位:トン)(出所)Thai Customs Department, Trade Statisticsより作成。

図表 1 廃プラ貿易量(単位:トン)
(出所)Thai Customs Department, Trade Statisticsより作成。

図表 2 2017年1月~2018年8月の廃プラ貿易量(単位:トン)(出所)Thai Customs Department, Trade Statisticsより作成。

図表 2 2017年1月~2018年8月の廃プラ貿易量(単位:トン)
(出所)Thai Customs Department, Trade Statisticsより作成。

 貿易統計では廃プラを数種類の品目に分けて整理できる。直近の2018年1月~8月では、「その他・廃プラ(HS-Code:39159000)」が約30万トン輸入されており、廃プラ輸入総量の71%を占めている。つまり、2018年1月~8月期の「その他・廃プラ」だけで、2017年の廃プラ輸入総量の約2倍、輸出総量と同等であることからも、タイへのインパクトの大きさが計り知れる。さらに、国別に「その他・廃プラ」の輸入動向を整理すると、輸入量の合計は前年同期比で428%増となっている。日本が最大の輸入相手国で総輸入量の38.5%を占め、前年同期比で762%増となっている(図表 3)。

図表 3 その他・廃プラ(HS-Code:39159000)の国別輸入動向(2018年1月~8月)(出所)Thai Customs Department, Trade Statisticsより作成。

図表 3 その他・廃プラ(HS-Code:39159000)の国別輸入動向(2018年1月~8月)
(出所)Thai Customs Department, Trade Statisticsより作成。

 タイではリサイクル目的の廃プラスチックの輸入は、「1996年輸入に関する商業省告示112号」および「1996年プラスチックからなるスクラップおよび使用済み材の輸入基準に関する工業省告示」に指定される手続きを経て、工業省工場局(DIW)に輸入許可を申請する必要がある。しかし、急増する廃プラ輸入では、許可を得てない密輸やE-waste(電子廃棄物)を廃プラとして輸入したり、その逆に廃プラをE-wasteとして輸入する不適正輸入が横行していた。

 タイにおいて国外からの輸入廃棄物が注目された発端は、中国において輸入できなくなったE-wasteをタイへ密輸し不適正処理していたチャチューンサオ県の華人系リサイクル工場が、周辺住民からの苦情を受けて2018年5月末に摘発されたことだった注1)。これを受けて、DIWはリサイクル認可工場への全数査察、税関と協力してコンテナの開披(かいひ)検査注2)を行い、多数の不適正処理、密輸が相次いで発覚した注3)

 7月には廃プラとE-wasteの一時禁輸を実施し、今後の対策についてスラッサク天然資源環境大臣を委員長とする関連省庁の委員会で協議し、8月15日に今後の方向性が承認された。主な内容としては、1)E-wasteの全面禁輸(半年以内に商務省・工業省の省令施行)、2)廃プラは2016年までの輸入許可実績に応じて輸入枠を設定し2年後に全面禁輸、3)鉄くずやアルミくずなどの再生資源の輸入における異物混入率の設定、などが発表された。

 ただし、今回の問題の本質は密輸や不適正処理であり、したがって、密輸や不適正処理を行う事業者はそもそも遵法していないため禁輸の効果は乏しいであろう。7月からの一時的な禁輸を受けて廃プラをプラスチック製品として虚偽申請し通関する事例も確認され始めており、よりインフォーマル化・悪質化してしまっている。

 他方で、現在の禁輸措置によって、これまで適正に廃プラやE-wasteの輸入許可を取得しリサイクルしてきた企業の事業機会を奪っており「悪貨は良貨を駆逐する」市場が生まれつつある。

 短期的な対策としてX線で全量検査が可能な輸入指定港の導入、現行の輸入許可制度の執行能力の向上と国内の不適正業者の取締の徹底により適正な国際資源循環ルートの確保が求められる。さらに、再生資源の品質確保や適正な国際資源循環を担保する工場認定などの国際基準の作成といった中長期的な取り組みをアジアで最大の再生資源の出し手である日本が戦略的に実施することは、アジア大の循環経済を構築するためにも肝要となろう。

※ 本稿は科学研究費若手研究(A)17H04722「国際環境ビジネス促進策に資する環境サービス貿易定量評価手法の開発」による成果の一部である。

注1)
大規模なE-wasteリサイクルや摘発の様子は下記の報道を参照。
http://www.nationmultimedia.com/detail/national/30346025(2018年9月29日取得)。
注2)
税関での摘発の様子は下記の報道を参照。
https://www.bangkokpost.com/business/news/1477693/fears-grow-over-waste-imports
注3)
E-waste輸入許可を保有する工場では日系1社を除いて摘発・是正勧告を受けるなど、結果的に日系リサイクル企業の法令遵守の姿勢が評価されることとなった。