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新たなエネルギーミックスにむけて(その1)


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院 教授


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 7月から総合エネルギー調査会で次期エネルギー基本計画に関する議論が開始された。これは究極的には日本のNDCの改訂の裏づけとなるエネルギーミックスの見直しにもつながってくるものである。
 総合エネルギー調査会ではコロナ禍が世界及び日本のエネルギー需給にもたらす課題、状況変化を消費側、供給側両面で列挙し、消費側では接触回避、職住不近接、サプライチェーン再構築等の人流・物流の変化、供給面ではエネルギー需要の不透明性によるリスク回避のための投資低迷、レジリエンス意識の上昇があげられ、需給両面にかかわるものとして脱炭素化の加速があげられている。

出所:経産省総合エネルギー調査会出所:経産省総合エネルギー調査会[拡大画像表示]

 これらの状況変化に対応するため、6つの課題があげられた。

新たな日常・生活様式・企業活動を踏まえたwith COVID-19のエネルギー需要高度化・全体最適化に向けた取り組み
エネルギー転換(電化・水素化など)の支援・推進
資源・燃料の安定的な調達
エネルギー・環境イノベーション投資が計画的に実行される環境の更なる整備、デジタル化の促進
脱炭素エネルギー供給の更なる導入
エネルギーレジリエンスの一層の強化

 その上でそれぞれの課題について以下のような取り組みの方向性が示されている。

出所:経産省総合エネルギー調査会出所:経産省総合エネルギー調査会[拡大画像表示]
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 ここにあげられた問題意識については筆者も同感である。コロナがエネルギー需要パターンに与える影響については、未だに多くの国がコロナ禍の渦中にあることもあり、先が読みづらい。しかしコロナ以前の旧態に服することはないのは間違いあるまい。
 またコロナは「いざとなったら他国を頼ることはできない」という意識、更には国民国家、国境の重要性を再認識させることとなった。そうした中で国内資源を持たず、隣国とのパイプライン、送電ネットワークを有さない日本としてこれまで以上にエネルギーセキュリティに腐心せねばならないことは当然である。特に米中新冷戦ともいうべき国際環境が出来し、中国との貿易投資関係を以前のように当然視できなくなっていることはエネルギー面でも大きな意味合いを持つ。日本の太陽光パネルの7割近くは中国製であり、安い中国製パネルの流入が再エネの導入コストを引き下げてきたことは間違いない。また太陽光、風力等の変動性再エネのシェアを増大させていけば、既存送電網の活用、新規送電網の建設、ディマンド・リスポンス、水素製造等とあわせ、蓄電池の需要も拡大する。電気自動車の利用拡大は蓄電池需要を更に増大する。そうした場合、中国製の蓄電池、あるいは中国の影響が強いアフリカ諸国に賦存するレアメタル、レアアースへの依存度拡大を放置してよいのかという問題が生ずる。
 脱炭素の必要性というのは、コロナ以前からの課題であるが、コロナで我が国を含め、各国の経済が大きく傷ついた中で、脱炭素化と経済回復を同時に進めるというのは決して容易なことではない。脱炭素化は大きな方向性として進めねばならないものであるが、経済と環境の両立のハードルは上がっていると考えるべきであろう。
 ちなみに「経済と環境の両立」、最近では「環境と成長の好循環」は、誰もが賛成するまことに便利なキーワードである。そうでないのは1.5度目標達成を絶対視し、「いまだに経済成長なんてよく言えますね!」と言い放つグレタ・トウーンベリのような過激派くらいのものであろう。しかし同じ「環境と経済の両立」というキーワードを使っていても、論者によって解釈は全く異なる。「日本の長期目標を2050年ネットゼロエミッションに引き上げ、新たなNDCもそれと整合した野心的なものにするという条件をあらかじめ設定し、それを最小のコストで達成できるエネルギーミックスを考える」というのも「日本の電力コストをこれ以上引き上げないようにしつつ、最も温室効果ガス削減を達成できるエネルギーミックスを考える」というのも、大きくは「環境と経済の両立」と言えるが、その意味するところは大きく異なる。したがって「経済と環境の両立」と言っているだけでは、事実上、何も言っていないのに等しい。
 筆者は環境目的先にありきの議論には与さない。その理由は経済、雇用が疲弊した状態では環境対策どころではない、要は「衣食足りて礼節を知る」という至極ありきたりなものだ。大気汚染や水質汚濁のように現実の健康被害が明らかであり、対象地域も特定されるような地域環境問題であればともかく、地球温暖化問題のように原因となる行為が世界全体に及び、日本がどれだけ努力しても温室効果ガス削減の効果は地球全体でシェアされ、努力した者が自分自身へのメリットを体感できないような性格の問題に多大な経済コストをかけることへの国民的合意があるとは思われないからだ。
 したがって筆者の目から見て、上記の取り組みの方向性の中で最も重要なのは国民負担の抑制とレジリエンスの確保であり、この2つを確保した上で、温室効果ガスを最大限削減できる組み合わせを考えるべきであるというのが筆者にとっての「経済と環境の両立」である。

次回:「新たなエネルギーミックスにむけて(その2)」につづく。