霧島酒造の挑戦!

食品廃棄物削減、リサイクル、バイオガス発電


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2018年3月号からの転載)

 芋焼酎の有名ブランド「黒霧島」「白霧島」などで知られる霧島酒造(本社・宮崎県都城市)は、焼酎の製造過程で生じる芋くずや焼酎粕から生成したバイオガスをボイラ用燃料や発電に利用しています。先日、その焼酎粕リサイクルプラントを見学する機会に恵まれました。同社の食品廃棄物の削減とリサイクル、バイオガス発電の取り組みを紹介します。

焼酎粕、芋くずが資源に

 2001年に食品リサイクル法が施行されて以降、食品関連事業者を中心に食品廃棄物の排出抑制や減量化、リサイクル(再生利用)が進められています。食品廃棄物の多くはこれまで、飼料や堆肥として再利用されてきましたが、近年、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)を利用したバイオガス発電の燃料としても注目されています。
 霧島酒造では1日あたり一升瓶(1.8ℓ)で16万本もの焼酎を製造しています。製造過程で大量に発生する焼酎粕(かす)をバイオマスとして利活用して廃棄物削減とリサイクルを図り、ビジネス機会につなげています。焼酎粕とは、焼酎の製造過程でアルコール発酵した「もろみ」を蒸留し、製品を取り出した後の残渣物のこと。同社生産本部グリーンエネルギー部の徳永佳史氏に工場内の施設を案内していただきました。
 「近年の焼酎ブームで事業が拡大する中、大量に発生する焼酎粕の処理が悩みの種でした。南九州産のサツマイモを原料に製品を製造しますが、仕込み量の約2倍の量の焼酎粕が排出されます。当社の産業廃棄物の93%は焼酎粕です」
 焼酎粕をバイオマス資源として有効利用するため、同社は焼酎粕リサイクルプラントを建設し、焼酎粕をメタン発酵させて生成したバイオガスを、本社増設工場内の焼酎製造ラインのボイラ用燃料として活用することにしました。2006年に第1プラントを建設し、2011年には第2プラントを増設。これらは国内最大級のリサイクルプラントとなっています。

霧島酒造のバイオリアクタ=宮崎県都城市の同社本社工場

霧島酒造のバイオリアクタ=宮崎県都城市の同社本社工場

バイオガスの熱利用

受入室に運ばれてきた芋くず

受入室に運ばれてきた芋くず

 リサイクルプラントでの一連の工程を見せていただきました。
 まず、トラックに積まれた焼酎粕の脱水ケーキやサツマイモの選別時に生じるくずが工場内の受入室に運ばれてきます。芋くずは粉砕され、泥状の流動体にします。
 焼酎粕と芋くずは、バイオリアクタ(メタン発酵槽)に送られ、微生物(メタン発酵菌群)により分解・ガス化されます。発酵槽内は嫌気状態(空気を送らない状態)に保たれています。生成したバイオガスは、脱硫塔で硫化水素が除去され、ガスホルダに貯蔵。本社増設工場の焼酎製造工程のボイラ用燃料として利用されます。
 「当社には4つの焼酎製造工場があり、1日あたり計約650トンの焼酎粕と計約10トンの芋くずが発生しますが、本社リサイクルプラントで1日あたり最大800トンまで処理することができます。バイオリアクタ内で微生物が効率よく分解処理し、短時間で大量のバイオガスを生成、回収することができます」(徳永氏)
 バイオガスの主成分は、天然ガスと同じメタンガスで、そのまま燃焼させることができます。そのため、ボイラやガスエンジン、ガスタービン、燃料電池に直接利用することができます。
 「バイオガスを焼酎製造工程のボイラ用燃料に使用することで、燃料費が削減でき、工場から排出される二酸化炭素も年間約3000トン削減しています」
 メタン発酵後、バイオリアクタから排出される残りかすは、脱水処理により脱水ろ液と発酵残渣に分離されます。脱水ろ液は、処理した後、下水に放流されます。発酵残渣は、1日あたり数十トン発生しますが、業者に委託して堆肥化しています。堆肥は、宮崎県内外の畑地に還元されています。
 このほか、本社リサイクルプラント内では、ほかの工場からトラックで運ばれてくる焼酎粕の脱水ケーキ(水分を85%以下に脱水したもの)を乾燥させ、家畜用飼料をつくっています。この乾燥施設の熱源にもバイオガスを利用しています。

バイオガスを貯蔵するガスホルダ

バイオガスを貯蔵するガスホルダ

ガスエンジンの外観

ガスエンジンの外観

焼酎粕と脱水ケーキ、乾燥品

焼酎粕と脱水ケーキ、乾燥品

バイオガス発電に挑戦

 さらに同社は発電事業にも挑戦し、バイオガスを発電燃料に利用しています。13億5000万円を投資して本社リサイクルプラント内にガスエンジン3基を設置し、2014年9月からバイオマス発電事業を始めました。サツマイモ原料を由来とするバイオマス発電事業は国内初です。
 発電量は年間約700万kWh(約2000世帯分の年間電力消費量に相当)。発電した電力は工場内の一部施設に利用し、余剰電力はFITに基づき1kWh当たり39円(税抜き)で九州電力に売電し、年間2億円を超す売電収入を得ています。
 「当初は、焼酎粕から生成したバイオガスを44%しか利用できませんでした。利用できずに余っていたバイオガスを有効利用する目的で発電機を導入し、発生量の約98%を利用できるようになりました。焼酎粕の利活用は、地域や社会に貢献する資源循環の仕組みだと考えています。焼酎粕をバイオガス化して熱や発電に利用し、残渣物は堆肥化・飼料化するという一連のリサイクルの取り組みを今後も行っていきます。現在、2つ目のリサイクルプラントを建設しています」(徳永氏)
 近年、大規模なバイオマス発電所の新設が増加していますが、その多くは木質バイオマスを燃料とするもので、メタン発酵のバイオガス発電の普及は遅れています。
 バイオガス発電施設は、アンモニアによる発酵阻害対策技術を導入する必要があり、発酵処理水や発酵残渣物の処理システムも必要で、初期投資費用がかさむことが課題です。しかし、バイオガス発電は、食品廃棄物や農産廃棄物などを資源として有効活用し、廃棄物を減らすことができ、かつ地球温暖化対策としても意義があります。霧島酒造の取り組みは、食品関連事業者にとって大いに参考になります。