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コロナが切り開くMaaSの可能性


東急株式会社 交通インフラ事業部


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 昨年11月から伊豆半島で、日本初の観光型MaaS「Izuko」の実装に向けた、最後の実証実験を行っている。本年3月までの間に市場性が確認されれば、来年度以降、実装の芽が出てくる。実験の総責任者である私としては、肩に力が入る日々が続いており、その肩こりたるや、伊豆の温泉をもってしても容易に癒せぬほどだ。

 MaaSとは、モビリティ・アズ・ア・サービス(Mobility as a service)の略。スマートフォンひとつで、あらゆる交通手段が予約・決済でき、いつでも目的地に行けるサービスのこと。世界では2015年、日本では2019年から取り組みが始まった、生まれたばかりの産業分野だ。観光型MaaSとは、観光地で展開するMaaSで、交通手段だけでなく、観光施設や観光体験も決済対象にすることで、「スマホさえあれば自在に旅ができる」手軽さを利用者に提供するものだ。スマホを通して収集できる、利用者の様々なデータを分析することで、地方観光地の産業省力化に役立てる狙いもある。少子高齢化の波に晒される観光地としては、10人でやってきた仕事を、データ分析結果を活用して、少ない人数で回していく必要があるからだ。
 
 実はこのMaaS、「新しい生活様式」の先駆けともいえるサービスなのだ。スマホの決済画面を見せるだけで、電車やバス、観光施設も利用できるMaaSは、対人接触を避けながら周遊したいという、コロナ下の観光客のニーズに合致している。また、IT技術や繁閑差に応じた料金体系を駆使することで、混雑度を平準化し、密を避けることもできる。これは観光地だけでなく、都市部でも同じことが言える。だから私は、いよいよMaaSの出番が来ると確信している。

 観光型MaaS「Izuko」は、東急(株)とJR東日本、楽天、伊豆の交通事業者や観光事業者がタッグを組み、2019年4月から取り組みが始まった。最初は「MaaSって何?」という反応ばかりだったが、数多くの試行錯誤を重ね、半年間の実証実験で6,166枚のデジタル商品を売り上げた。対象エリアも、当初の東伊豆・中伊豆から、神奈川県湯河原町から静岡県牧之原市(富士山静岡空港)までをカバーする国内最大規模の広域MaaSに成長、スマホで決済できる交通・観光商品数も、当初の9種類から140超までに拡充させた。

 また、コロナ対策として、実証実験期間中に、特に混みそうな駅や観光施設の混雑状況をリアルタイム表示する機能も実現した。伊豆は繁閑の差が激しい。例えば静岡県河津町の「河津桜まつり」期間中は、河津駅の乗降人員は普段の数十倍に膨れ上がるが、駅が混雑していることが予め分かっていれば、周辺のカフェで休憩するなど、空くまでの間の楽しい時間つぶしができる。観光客は密を避けることができるし、地元にはお金が落ちる、一石二鳥の解決策だ。
 
 さらに、コロナ禍によりリモートワークが定着したことで、東京に近く、美しい自然環境に恵まれた伊豆では、働く場としての需要が急速に高まっている。事実、下田市のワーケーション施設でも、コロナ前と比較し、20~30代のIT企業社員を中心に、利用者が数倍に増えた。午前中は仕事、午後は観光客となる彼らは、スマホだけで身の回りのことを完結させ、多くが運転免許を持たないことからも、観光型MaaSの絶好のターゲットだ。今回の実証実験では、急増するワーケーション層と連携することで、彼らの移動データ等を分析し、彼らのニーズに合う商品設計に役立てたい。これからの地方社会では、人口増加を望むことは難しいが、ワーケーションやテレワークといった関係人口を増やし、地元企業との協業等を興して、地域を活性化させることはできる。まさに、コロナが生んだチャンスと言えよう。
 
 私は、拙著『MaaS戦記』を、「ショー・マスト・ゴー・オン」という言葉で結んだ。どんな状況でも明日はやってくるという、演劇時代に学んだ座右の銘だ。失敗を重ね、がむしゃらかに、少しずつ仲間を増やして広げてきたMaaSが、コロナによって打撃を受けた観光地・伊豆に、小さくても明るい光が灯せるかどうか、そしてそういう存在に私自身がなれるかどうか。私は、『MaaS戦記』の続編をこれからも生きてゆく。

「MaaS戦記 伊豆に未来の街を創る」
森田 創