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気候警察の支配は経済を破壊する


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院 教授


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 6月8日付のデイリーテレグラフ紙に『Not now Greta, we are trying to save the global economy』という署名入りの記事が掲載された注1)筆者はマシュー・リンで作家、経済ジャーナリストである。
 この記事は6月3日にグレタ・トウーンベリが欧州中央銀行が過去2ヶ月で化石燃料関連企業に76億ユーロの資本注入を行ったとのグリーンピースの報告注2) を踏まえ、「EUの所謂『グリーンリカバリー』の真剣度を疑う」とツイート注3) したことを踏まえたものだ。グリーンピースによれば3月中旬から5月中旬にかけて欧州中央銀行が300億ユーロ相当の社債を購入し、うち76億ユーロが石油エネルギー企業の発行したものであり、欧州中央銀行はルクセンブルク1国の年間排出量に相当する11.2百万トンのCO2排出に貢献したという。
 このグレタ・トウーンベリのツイートに対するマシュー・リンのコメントは以下の通りである。

我々は100年に1度あるかないかの最悪の景気後退に沈みつつある。経済はロックダウン状態にあり、貿易は崩壊し、企業は破産している。利子率がほとんどゼロ状態にある中で打ち手はほとんど残っていない。
環境活動家は欧州中央銀行が「気候破壊者(climate wreckers)」に対して資本注入していることを批判している。英国中央銀行のCCFF(Covid Corporate Financing Facility)も環境活動家の好まない企業の利用を許したとの理由で環境活動家から非難されている。グリーンピースUKは、数十億ポンドの低利なローンが何らの条件もつけずに汚染企業に流された、英国中央銀行は気候破壊者を救済していると叫んでいる。
しかしこうした批判はクレージーである。確かに航空会社、化石燃料企業にいくらかのお金は回るが、それは中央銀行が経済を何としてでも救うため、経済全体に対して無差別にお金を注入しているからだ。ECBは化石燃料企業を救うために資金を投入しているのではなく、ユーロゾーンがロックダウンする中で量的緩和を行い、その一環としてセカンダリーマーケットで社債を購入したに過ぎない。
中央銀行が自ら「気候警察」を任じる人たちの主張に従ってセクター間で差別を始めたら、量的緩和策もCOVIDローンスキームも崩壊するだろう。君たち(環境活動家)は企業の気候変動への貢献に応じて基準利率を変えたり、家屋のエネルギー効率に応じて住宅ローン利率を変えろというのだろうが、クレージーだ。
君たちが気候変動に対してどのような見解を持ってもいい。気候変動は我々の直面した最大の緊急事態かもしれない。あるいは似非科学に基いた誇大宣伝かもしれない。あるいは現時点でまだ十分に安価なクリーンエネルギーが開発されていないのだから、徐々にやっていくということかもしれない。
しかしどの企業が支援を受けるかを取り締まる(police)のは中央銀行の仕事ではない。彼らの使命は需要を浮揚させることであり、金融システムを守り、医療緊急事態が経済緊急事態に発展しないようにすることだ。
気候変動活動家は大きな影響力を有する。様々な企業、機関は彼らの要求にますます屈従するようになっている。グレタやグリーンピースは喜んで経済を破壊するだろう。しかし彼らにそれを許したら我々は永久に深刻な不況に苦しむことになるだろう。 

 筆者はこのマシュー・リンの考えに強く同感するものである。グレタ・トウーンベリやグリーンピースの考え方は「コロナウィルスと欧州グリーンディール(2)注4) 」で紹介した「ターゲットを特定しないエコノミーワイドの対策は時代遅れで環境を汚染する産業、技術に対する救命ボートになる」という欧州環境NGOのポジションを体現するものである。この考え方に従えばエネルギー多消費産業や化石燃料に依存したエネルギー構造を有する国の経済回復は永遠に絶望である。これらの国々にとって景気回復とはまさしくコロナ前の状態に戻ることだからである。彼らの考え方は国民生活や雇用よりもCO2削減を最優先するものである。彼らは自分たちの主張に賛同しない人たちを十把ひと絡げにして「気候変動懐疑派」と呼称している(この定義に従えば筆者もそうなるだろう)が、筆者の目からみればCO2削減を最優先にし、異論を許さない彼らの考え方は「環境原理主義」に他ならない。彼らに批判的な人たちの中には「グレタや環境NGOはコロナで経済が破壊されCO2排出が低下している現状を喜んでいるに違いない」という皮肉な見方もある。グレタ・トウーンベリやグリーンピースの主張はこうした見解もまんざら的外れではないことを示している。

 非常事態宣言が解除され、我が国の経済回復もこれからである。その際に似たような議論が国内で生ずることもあるかもしれない。筆者はこうしたコモンセンスを欠いた議論が欧州から「伝染」し、「気候警察」が跳梁跋扈する事態にならないことを切に望む。各国は国境を閉鎖してコロナの伝染を防いだ。しかし環境原理主義はネットを通じてどこでも伝染可能だ。そしてそのもたらす被害はコロナよりも大きいかもしれない。

注1)
https://www.telegraph.co.uk/business/2020/06/08/not-now-greta-weare-trying-save-global-economy/
注2)
https://www.greenpeace.org/eu-unit/issues/climate-energy/3933/ecb-injects-e7-billion-into-fossil-fuels-coronavirus-crisis/
注3)
https://twitter.com/GretaThunberg/status/1268108772280590339
注4)
http://ieei.or.jp/2020/05/opinion200512/