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エネルギー・環境ビジネスにおけるシナリオプランニングの手法(2)

コロナ自粛に悩む経営戦略スタッフのために


東京大学公共政策大学院 客員教授


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経営トップの参画を求める

 何回か、「シナリオプランニングの手法」という話題で書かせていただきます。とりわけ、経営戦略の検討に役立つシナリオプランニングを紹介しようとしています。記事の読者を、エネルギー・環境ビジネスに関心あられる日本企業に働いておられる方々、と想定します。

 前稿で、失敗例を書きました。経営企画部が中長期経営計画の戦略ディスカッションのために用意したシナリオ作品のプレゼンを、役員会議室で聞いた経営トップたちが、顔を見合わせている。「アイツラ、われわれに何を進言しておるのか・・・」、「ワカラン!」というところまで。

 さて、シナリオプランニングとは、「シナリオ」を使った「プランニング」のことである。将来見通しが不確実な世界に入った、と経営陣や企画部門が意識すると、この手法が世の中でおおいに流行る。
 まず、「シナリオ」とは何か? それは未来世界に関するストーリーのこと。でもシナリオは、タイムマシンで時空を超え、見知らぬ地上に降り立った科学者みたいに「未来世界の現実」を、実体験させてくれはしない。未来に何が起こるかなど、今、わかるはずもない。もちろん、未来予想図が「ほら、思った通りに、叶えられてゆく!」という幸せもある。が、その通りにならない場合だって、ありうる。われわれが日常的に経験していることだ。

 そこで、「シナリオプランニング」とは何か?
 これは企業の経営戦略検討手法であって、経営陣の面々が戦略的な意思決定をする際に、より深く、直感と分析的知性を同時に働かせて、将来のビジネス環境は一筋縄ではゆかないくらいに、不確実性が高いなぁ、と腑に落ちてもらうことを目指している。
 だから、この手法を使うのならば、まず最初に、「我々は今現在、未来展開を、完全に正確に予測することなど、そもそもできない! が、いくつか複数の可能性を考えることは、できるかも」と、見切らねばならぬ。この地点から前を向いて歩き出すのだ。この手法は、まず、現在見えている事象を徹底取材して、鳥瞰し、熟考し、解釈してみる。それから、未来に向かう展開経路や、未来世界を描くいくつかのストーリー、つまり複数のシナリオを、同時に書き始め、未来の様々な可能性を探索してゆく。
 出来上がったシナリオ作品をプレゼンする際は、「複数描き分けられた未来世界=シナリオは、どうも同じ確率で出現しそうであるなぁ、今の時点では、ひとつの未来予想図には、しぼれないナー」という印象を与えるように工夫する。こうすれば経営陣は、異なる未来展開それぞれを、自社の戦略課題にひきつけ当てはめ、リハーサルしながら将来の戦略を考えることができる。
 つまりシナリオプランニング手法では、シナリオの制作と、それを使って戦略検討するプロセスを不可分とするのだ。
 そこで、どうするのか。
 経営陣のひとびとにシナリオ制作の始めから参加してもらうのだ。シナリオ作品の中に、将来の経営環境についての経営の不安や期待を取り込まなければならない。

 今回も、架空の既存エネルギー・環境ビジネス企業の経営企画部門に登場してもらおう。戯画風に書きます。

 今年3月のこと。経営企画部長は、社長から「今回の中長期経営計画では、シナリオ手法というものを取り入れてやってみたらどうか」と打診されたとき、直ちに「はい、それではご一緒に、将来のビジネス環境を考えてみましょう!」と、返した。
 部長はまず、経営陣の何人かと、それぞれ1時間、本音の問答をする。「我が社の長期的な将来、何が不安なのか? 将来の重要経営課題を踏まえると、展望が読みにくいビジネス環境要素は何? ある程度予測がつきそうな要素はどれ・・・」 この問答は、確実性と不確実性にかかわる感覚を磨いてもらうための問答だった。詳細なインタビューノートが作られた。

 インタビューに備えて企画部門が用意した問答は、「今から10年後まで、当社の経営に影響をあたえそうな内外のリスク事象は、何でしょうか? 何がご懸念でしょうか?」
 そしたら、社内若手たち(前稿を参照)とはずいぶん違った応答になった。そもそも経営陣に坐っているのは皆、健康な知性を備えた、経験を積んできた、筋道をしっかりたてて考えられる、ファイト満々の成功者たちだ。企画部門の作ったお仕着せの設問なんかに、素直に答えたりはしない。

10年では短すぎる。エネルギーインフラに投資し、運営してゆく当社は30年後も存続するのである
コロナ問題はいつ終わるのか、その後の社会はどうなるのか
社内の最大の不確実性と関心事は、将来のトップ人事である
国際原油・天然ガス価格
定型業務のテレワークは定着するだろうが、いずれAIに置き換わるのではないか?
低炭素化、気候変動対応に注力するが、機関投資家やメディアからの低評価傾向は変わらない。今後も、そうか?
原発がもし再稼働したら、当社が計画している新規発電所建設を、計画通り進めても問題ないか?
最近、アジア地域のエネルギービジネスに大規模投資をしたが、10年後に稼いでくれているのか?
社内でイノベーション運動を過去何回もやったが、成果が出ていない。

 部長のインタビューは大成功だった。
 まず、中長期経営計画でのシナリオプランニング手法の使いどころが明確に見えてきた。我が社が30年後も存続・成長できる外部環境条件を見通すために、この手法を使うのだ。
 社内の不確実性と重大関心事は将来のトップ人事! この話題は取り上げにくい。枠外に追い出そう。

 次の作業。経営企画部門内で経営陣の認識していたリスク事象を、ひとつひとつ、シナリオプランニングに使い勝手がよいように、加工してゆく。来たる9月中旬、2時間の経営戦略ワークショップに臨む準備である。
 「社内でイノベーション運動を過去何回もやったが、成果が出ていない」という問題意識を、「我が社のイノベーション戦略は、従来通り内製でゆくのか? それとも、他者との協業に打って出るネットワーク型に替えるのか?」と書き換えてみた。部長は、2つ、加えた。「日本社会の電化率は、現状想定? それとも電化が加速?」という自分の問題意識。それから、「当社は新卒学生に不人気」という若手社員の問題意識。

 ここで技法の解説を入れます。

経営陣インタビューで書き留められた「問題意識の述語文」を、それぞれ20字以内で書き直して、ポストイットカードに書く。
将来展開が見通しにくい、と捉えられた事象だ。だから、「述語文」は、すべて「疑問文」に書き換え、見通しの不確実性を表現する。
経営戦略ディスカッションの射程を、今後10年先まで、と設定して、それに沿うように疑問文を整える。例えば「低炭素化、気候変動対応に注力するが、機関投資家やメディアからの低評価傾向は変わらない。今後も、そうか?」という、オリジナルの問題意識は、「エネルギー会社に対する、将来の社会的評価?」と一般化しておく。
つまり、インタビューで得られた「問題意識の述語文」を、わざと書き換えてしまった。最後の④は高等技法で、もともとの発話者からの「いや、わたしの言いたかったポイントはそうじゃなくて・・・」と、発言を誘い、ディスカッションを活性化するためのしかけでもある。

 経営企画部で整理した図が以下である。

 スライド上に疑問文のカードが9枚、置かれている。
 経営企画部門は、このスライドを準備して、9月15日11時から昼食をはさんで午後2時まで、の経営戦略ワークショップに臨んだ。経営陣が当社の10年後を見据えて、今現在、展望が読みにくい外部環境事象を、発見し、集合的に合意するためのワークショップである。
 どのカードからディスカッションが始まるだろう? 
 まったくの、出たとこ勝負。が、社長はこの即興性を望んでいた。