MENUMENU

ドイツの省エネに優れた学校を視察

脱炭素化の根幹は“省エネ”を実感


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


印刷用ページ

(「月刊ビジネスアイ エネコ」2020年4月号からの転載)

 ドイツ北西部のニーダーザクセン州オスナブリュック市を1月下旬に訪ね、シュタットベルケ(電力、熱などのエネルギー供給や、上下水道、公共交通など地域に様々な社会サービスを提供する地方自治体出資の都市公社)の取り組みなどを視察してきました。
 今回は、オスナブリュック・シュタットベルケ主導で省エネに配慮して建設された学校を紹介します。

写真1 独オスナブリュック市内のハーマン・ノール・スクール。省エネ性能に優れ、屋根には太陽光発電システムが設置されている(写真はすべて筆者撮影)

写真1 独オスナブリュック市内のハーマン・ノール・スクール。
省エネ性能に優れ、屋根には太陽光発電システムが設置されている(写真はすべて筆者撮影)

建物の省エネを推進

 ドイツは1977年に断熱政令を施行し、建物の省エネ性能の向上を進めました。2002年には省エネルギー政令「EnEV」を施行し、12年以降、すべての新築建物に最低エネルギー基準を適用することを定めました。さらに独連邦政府は、復興金融公庫(KfW)CO2建物改修プログラムに対し、11年に9億3600万ユーロ(約1100億円)、12~14年まで年間15億ユーロと予算を拡大し、既存建築物がEnEV基準を満たすための改修工事を推進してきました。21年からはゼロエネルギー建築の義務化を予定しています。
 16年11月に閣議決定した地球温暖化対策の長期計画「Climate Action Plan 2050(気候保護計画2050)」では、建築物の温室効果ガス排出量を30年に1990年比66~67%減と大幅な削減目標を掲げています。
 この計画では、新築や既存の建築物について、2050年までに建物のエネルギー需要を最低限に抑え、どうしても必要なエネルギーは再生可能エネルギーで賄うとしています。同年までに、既存建築物(ストック)平均で、住宅は1m2あたり年間40kWh、非住宅は同52kWhのエネルギー需要を目指します。また、化石燃料を用いた熱供給の段階的廃止も盛り込まれています。

パッシブハウス

 視察した同市内のハーマン・ノール・スクール(写真1)は特別支援学校で、14の教室と音楽、芸術などの専門室で構成されています。2010年に建てられたこの学校はパッシブハウスに認定され、屋根には太陽光発電システムを搭載しています。
 パッシブハウスとは、独パッシブハウス研究所が1991年に規定した性能認定基準をクリアした省エネに優れた建物のことで、断熱材や高性能な窓、熱を逃がさない換気システムが導入されています。熱交換換気システムは、換気をする際、外に出す空気と外から入れる空気の間で熱交換を行い、室内の温度変化を最小限に抑えます。エアコンに頼ることなく、内部を快適に保ち、エネルギー消費を抑えることができます。
 夏場の屋外から屋内への熱の侵入や、冬場の暖房熱の屋外流出の多くは窓で起きているため、省エネと快適な屋内環境を実現するには、窓ガラスが重要になります。
 この学校では「木製三重ガラスサッシ」(写真2)と「外付けブラインド」(写真3)が使われています。三重ガラスには、ガラスの層にアルゴンガスかクリプトンガスが封入され、高い遮音、断熱性能を持っています。室内と窓の温度差を小さくして結露を減らし、結露に伴うカビやダニの発生を抑制します。熱を伝えにくい樹脂サッシと合わせることで、さらに断熱性能が高まります。


写真2 木製三重ガラスサッシ

写真2 木製三重ガラスサッシ


写真3 外付けブラインド

写真3 外付けブラインド

 外付けブラインドは、夏の日射が強いときに自動で下りて、窓ガラスの外側から日射を遮ります。これにより、屋外からの熱エネルギーの約7~8割をカットすることができます。冬の寒い時期には太陽光を取り入れて、窓と外付けブラインドの間に空気層をつくり、断熱効果が期待できます。日本では設置件数が少ないですが、冷暖房費用を節約でき、CO2排出削減にもつながる優れものです。

写真4 空気循環システム

写真4 空気循環システム

 換気は24時間行っています。各教室に供給する外気は、地下を通しており、地中熱を利用した空気循環システム(写真4)を採用しています。教室の天井の吹き出し口から新鮮な空気が送られ換気します。
 また、建物の制御システムによって暖房や換気システム全体が一元管理(見える化)され、学校全体のエネルギー消費を最適化しています。夏場に室温が25℃を超えれば自動的に外部の冷風が教室に送られ、翌朝までには快適な温度になります。インターネット経由で外部から換気することも可能です。さらに、センサーで部屋の明るさを測定し、照明が快適な明るさに自動調整されます。一般的な学校と比べて、燃料消費を75%減らし、2017年はCO2排出量を36.5トン削減しました。
 視察したのは真冬でしたが、建物内のどの部屋も温度差がほとんどなく、暖かく快適でした。ドイツの学校の多くは冷房設備がありませんが、パッシブハウスだと夏場でも熱い外気を室内に入れず、涼しく快適だといいます。

建物の省エネで脱炭素化

 建物の躯体性能を向上させることにより、必要になるエネルギーを少なくすることができます。ドイツの熱供給での脱炭素化の根幹は、省エネであることを実感しました。ドイツの温室効果ガス排出削減目標は、2030年までに1990年比55%減、2050年までに同80~95%減です。今世紀半ばまでに温室効果ガスニュートラル(排出量と吸収量を同等にする)を目指し、パリ協定の長期目標の達成に貢献していく方針です。部分暖房の日本と比べ、全館暖房のドイツでは暖房エネルギー需要が大きな割合を占めています。そのため、建物の断熱性能を高め、省エネを進めることが、熱供給の脱炭素化のカギとなっています。
 日本では、業務・家庭部門のエネルギー消費量が大きく増加し、全エネルギー消費量の約3割を占めています。建築物の省エネ対策を抜本的に強化することが必要不可欠になっています。
 国土交通省が所管する「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の一部を改正する法律(建築物省エネ改正法)」が昨年11月16日に施行されました。省エネ基準の強化により、日本が着実に脱炭素化の道を歩むことを期待しています。
 2012年4月から8年間にわたり連載させていただきました本コラムも今回が最終回となります。読者の皆様にこの場を借りてお礼申し上げます。



東京大学環境エネルギー科学特別部門 駒場キャンパスDiaryの記事一覧