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新型コロナウイルスの科学(4)

感染経路と予防手段


相馬中央病院 非常勤医師/東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座 講師


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前回:新型コロナウイルスの科学(3)

 新型コロナウイルスの予防について、「結局どう予防すればいいのか分からない」という声を聞きます。「3つの密(密閉・密集・密接)を避ける」ということが繰り返し説明されていてもこのような感想が聞かれる一つの原因は、人混みを避けるように指示されるだけでは、自分でリスクをコントロールできるという実感が湧かないことにあるのではないか、と私は思っています。自分でコントロールできないリスクは、人々の不安を高めてしまうからです。
 もちろん新型コロナウイルスについて分かっていないことはたくさんあります。しかし現時点でも、ウイルスがどんな動きをして私たちに感染するのかはある程度分かっており、その中で私たちが自分でできる予防策は決して少なくありません。本稿ではこれまでに分かっている新型コロナウイルスの感染経路とその予防・消毒方法につき、日本リスク学会有志による「環境表面のウイルス除染ガイダンス」[1]を参照しながら解説します。

感染症の3つの対策

 一般的に感染症対策には3つの柱があります。

 1つ目は感染した患者さんあるいは予防への対策。現在行われている治療薬やワクチンの開発がこれに当たります。
 2つ目は感染源への対策。これは感染患者さんを隔離したり、感染者の周囲を消毒することです。
 3つ目は感染経路への対策。これは日常生活における色々な場での感染リスク管理です。本稿で説明するのはこちらになります。

新型コロナウイルスの感染経路と予防策

 これまで分かっている新型コロナウイルスの感染経路は

飛沫(ひまつ)感染
接触感染

の2種類です。
 飛沫感染には、大きめの粒子が数メートル先まで飛ぶ狭い意味での飛沫感染と、比較的小さな粒子が長い間空気中に漂う小さな飛沫による感染(いわゆる「エアロゾル感染」と呼ばれているもの)の2種類があります(図1)。

大きな飛沫による感染とマスク

 新型コロナウイルスは、感染した方の唾液や痰・鼻水の中に含まれています。ウイルスに感染した人が咳・くしゃみ・大声の会話・激しい呼吸などをすると、水分の中にウイルスを含んだ飛沫が外に飛びます。大きな飛沫であれば2メートル程度飛んで、床や家具などの上に落ちますが、これが空気中に飛んでいる間に他の人の目や鼻や口に入ってしまうのが、いわゆる飛沫感染です。
 大きな飛沫による感染は、感染した人がマスクを着けたり、咳エチケットを守ったりすることである程度予防可能です。新型コロナウイルスの流行が報告され始めた当初は、症状が出ている人だけが人に感染させる、と思われていました。このため、咳をしている人がマスクを着けることで感染の拡大が予防できるのでは、と考えられていたのです。
 しかしその後、無症状の方からの感染が次々と報告されるようになりました。つまり症状のない人と対面でしゃべったり、一緒に対人スポーツをしたりすることで感染する人が出てきたのです。このため今は、症状がない人どうしでも、対面でしゃべることを避ける、距離を2メートル以上あける、マスクを着用する、ということが推奨されるようになりました。

小さな飛沫による感染と換気

 また初めのうち、新型コロナウイルスを含んだ飛沫は「数メートルしか飛ばないのでは」と言われていました。しかしその後、感染した人から離れた場所にいても感染する例が見られるようになりました。この多くが、離れた場所だけれども密閉された空間で一緒だった、という事も分かり、新型コロナウイルスは細かい粒子で空気中にしばらく浮遊するのではないか、と言われるようになったのです。
 小さな飛沫による感染のメカニズムは大きな飛沫による感染とあまり変わりありません。ただし空気中に長く滞在したり、遠くまで飛んだりするため、2メートルの間隔を空けただけでは感染を予防できない、という点が普通の飛沫感染と異なります。つまり密閉された空間に感染者がいた場合には、他の人が同じ空気を吸うことで感染してしまう可能性があるということです。また、このような細かい粒子の場合には、マスクでは十分に予防できない可能性もあります。
 このような小さな飛沫による感染に対して一番良い方法は、換気を行いウイルスを薄めてしまうことです。密閉を避け、換気を行うよう奨められているのはこのためです。
 換気の良い空間では、たとえ飛沫が存在していても薄まります。正確な数字はまだ分かっていませんが、新型コロナウイルスは1個・2個が口に入ったからすぐに感染する、というほどの感染力はないようです。たとえばジョギングをしている人と遠くですれ違う程度ではうつらないと考えられています。
 外に出た時にもっと注意すべきことは、これから述べる「接触感染」です。

接触感染と手指消毒

 政府などが推奨している3つの密(密集、密閉、密接)を避ける行動は飛沫感染・エアロゾル感染を防止するために重要です。しかしその方法だけでは防ぐことができないのが接触感染です。
 飛沫は大きさにかかわらずいずれは床に落ちたり壁に付着したりすることで動きを止めます。接触感染は、その付着物を触った手で目や鼻・口をこすることで起こります。
 ドアノブ、手すり、エレベーターや自動販売機のボタン、座席、共有の端末やお店の商品…私たちは常に「他の人が触れた物」に触れています。その場所にウイルスがいるかどうかは、当然のことながら目には見えません。
 では、ものに触れるとどのくらいの確率でウイルスを拾ってしまうのでしょうか?過去の研究では、インフルエンザウイルスにおいてはある物に数秒触れると、その表面に付着したウイルスの1.5%~31.6%が手に移行すると言われています。つまりエレベーターのボタンを押したり手すりにつかまったりする程度の接触でもウイルスが手に移行する可能性はあるのです。
 それでは、その手で無意識に目や鼻・口を触れてしまうことはどのくらいあるのでしょうか。ある研究では、学生は1時間に平均23回ほど手で顔を触るそうです(文献1.の55)。つまり、接触感染というのは充分意識をしなければ容易に起こり得る感染とも言えます。
 このように説明してしまうと、「では何にも手を触れてはいけないのか!」と心配になる方がいるかもしれません。ものに触るたびに消毒したり、手袋なしで外に出られない。そんなことになってしまったら精神的にもストレスになってしまいます。また消毒のし過ぎで皮膚が荒れると、ひび割れなどに細菌やウイルスがむしろ残りやすくなってしまったりしますので、過剰な手指消毒にも注意が必要です。
 大切なことは、「物に触らないこと」ではなく「目や鼻・口に手をやらない、手をやる前には必ず消毒すること」の方です。たとえばマスクをすることで、無意識に鼻や口に手が触れることを予防できます。また外から帰ったら手を洗う、食事の前にきちんと手を洗う、「ながら食べ」(物に触りながら食事をする)をしない、などにより、手から口へウイルスを運ぶことをかなり予防できるでしょう。

ウイルスの感染力保持期間

 では物の表面についた新型コロナウイルスは、いつまで感染力を保っているのでしょうか。これまでにコロナウイルスの仲間を用いて行われた実験データを表1に示します(文献1.より抜粋・改変)。
 この表では色々なものにウイルスの飛沫を吹き付け、ある温度を保った時に、どのくらいその飛沫が感染力を保っているか(感染力保持時間)を測定したものです。

 この表からは感染力保持時間につき、以下のことが言えます。

1.
低温では長く、40℃だと短いが、高温でも数時間は感染力が続く。
2.
ウイルスの量が多いと長くなり、数日間にも及ぶことがある。
3.
衣類や紙に比べ、金属・プラスチック・ゴムなどの表面では長い。

 これはあくまで実験データで、実際の生活環境では感染力保持期間は異なる可能性もありますが、「1日以上感染力が続く」と意識することは大切です。
 また紙やプラスチック、衣類の所を見れば分かるとおり、ウイルスの量が少なければ感染保持時間が短くなります。つまり一般的な掃除や洗濯でウイルスの付着量を減らすことも大切だということです。

ウイルスの不活化・消毒

 しかしそれでもウイルスが感染力を持たないように不活化(消毒)をする方が安心なのも確かです。では実際にどういう方法でウイルスを不活化できるのでしょうか。
 ウイルスの表面は脂肪を多く含む膜に覆われており、石鹸や洗剤などの界面活性剤でも不活化効果があるとされています。また新型コロナウイルスは乾燥にも弱いので、洗ったものをよく乾燥させることもウイルス対策になると思われます。

 しかし家具や手すりなどを毎回洗剤で洗うのは難しいでしょう。その時に用いられるのが、いわゆる消毒薬です。一般のご家庭で用いられる色々な消毒薬がどのくらい効果があるのかを表2に示します(文献1.より抜粋・改変)。これは過去の論文をまとめたものなので、消毒時間や濃度がまちまちになっています。多少矛盾するデータもありますので、あくまで目安と思って下さい。

 こうして見ると一番簡単で効果的な消毒薬は、エタノールです。一般的に70%以上のエタノールが良いとされていますが、時間をかけての消毒であれば35%程度でも効果がある、という報告もあるようです。しかし今の日本ではエタノール消毒薬の入手が困難であり、他の消毒薬で代用せざるを得ないこともあるでしょう。
 そんな時、ひとつの候補となるのは過酸化水素水です。この表では1分間という長めの消毒ですが、強力な不活化効果が得られています。
 また次亜塩素酸ナトリウム、いわゆるハイターについては、市販のハイター(約5%)を20倍程度に薄めた物については、30秒の消毒で効果が出ています。更に薄めたものでは効果が出るのに10分とかかるため、ハイターを薄めて使いたい洗濯の時にはつけ置きなどがよいかもしれません。高濃度のものは強アルカリですので皮膚に触れないよう注意が必要です。なお、「次亜塩素酸ナトリウム」と「次亜塩素酸水」は別物であり、後者については明らかな新型コロナウイルス不活化のエビデンスはありません。
 この表を見る限り、イソジン液やイソジンうがい液に含まれるポピドンヨードにも殺菌効果がありそうです。ただしイソジンは色がついてしまうため、使える場は限られるかもしれません。
 生活環境でのウイルスの消毒効果については、文献1.のTable3にもう少し詳しく記載されているので、ご参照下さい。

ウイルス除染ガイダンス

 以上を踏まえたウイルス除染ガイダンスは以下のようになります。

 このガイダンスにあるように、世界保健機関(WHO)では洗濯の際になるべくハイターを用いるよう推奨しています。これは医療現場のような高度の汚染が疑われる時、あるいは水がふんだんに使えない国なども想定していますので、日本の一般のご家庭で常にハイターを用いる必要はないのではないか、と個人的には考えています。

まとめ

 これまでに述べたことを要約すると、以下になります。

<感染経路について>
 
新型コロナウイルスには飛沫感染、接触感染がある。
接触感染については、ウイルスの性状を良く知ることが重要。
ウイルスは物の表面で何日間も感染力を残している可能性がある。
特に低温では長く感染力を維持しやすい。
汚染したものに数秒触るだけでも手にウイルスが移る可能性がある。

<予防について(図3)>
 
飛沫感染はマスクと換気、人との距離を保つことで予防できる。
接触感染の予防には、消毒しない手で目・鼻・口を触らないようにすることが重要。
口を触ってしまいそうなときは、材質を問わずマスクを着用。
食べる時には手と周囲をよく消毒。
ウイルスを取り除くためには、洗う(うすめる)、消毒する、の2つの方法がある。
掃除(マスク着用)・洗濯をまめに行う。
アルコール以外でも消毒効果のある薬品はある。

感染症にも「ゼロリスク」はない

 新型コロナウイルスの感染予防対策には、まだ分からないこともたくさんあります。それを知るためにも、多くの方が今まで分かっている予防策を実行し、万一不備があればその事例から学ぶ、という循環を繰り返さなければなりません。
 しかしどんなに改善しても、ウイルス感染対策に「絶対」はありません。気を付けていたのに風邪をひいてしまった、そういう経験はどなたにもあると思います。放射能のリスクコミュニケーションの時にも繰り返し言われることですが、私たちは日常生活を送る限り、「健康リスクゼロ」という生活はできない、ということもまた、認識しておくべき大切なことです。
 車や自転車の運転、飲酒、SNSによる言葉のやり取りなど、私たちは常に便利さと引き換えに自分のリスク、他者を傷つけるリスクを負いながら生きています。そのような中で私たちにできることは、「実現可能な範囲でできる限りリスクを減らすこと」です。つまり、100%にこだわり過ぎて日常生活が破壊されてしまってはいけませんし、「これだけやれば十分だろう」と安心感を持ちすぎることもいけないということです。
 今、これを執筆している4月12日現在の東京は、1か月間集中的に人との接触を避けるべき時期です。しかしそれが過ぎてもまだ感染爆発が収まっていないのであれば、数か月、あるいは年の単位での予防が必要となるでしょう。その時、長期にできるリスクマネジメントは何なのか。自分の生活の中で何を犠牲にし、何を優先させることができるのか。それは一人一人で異なります。リスク溢れる社会での生き方を、改めて多くの方に考えていただければと思います。

<参考文献>
 
[1]
環境表面のウイルス除染ガイダンス(4月9日:第3版)
http://www.sra-japan.jp/2019-ncov/index.php?module=blog&eid=10528&aid=10539