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回転翼のない風力発電機


YSエネルギー・リサーチ 代表


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 風力発電と言えば、プロペラ方式であったり籠型であったりという形状の違いはあるが、回転翼があるのは当然のことだと思っていた。だが、その回転翼がない風力発電がここ1~2年の内に商品化されるかもしれない。その商品開発を行ってきたのはスペインのVortex Bladeless社。検索してみると、2015年頃に日本でも紹介されていたが、その後のことは分からなかったので、同社のウエブサイトにアクセスしてみると、EUの技術開発支援プログラムであるHorizon 2020 research and innovationから資金援助を受けており、商品開発については目標の98%まで到達しているということだ。

 同社の創始者がこれを開発しようと思ったきっかけは、米国ワシントン州にあるピュージェット湾口の海峡タコマ・ナローズ(Tacoma Narrows)に架かる吊り橋が、建設されて間もない1940年に、海峡で吹く風の動きに共振して崩壊したことを知ったことだ。風による共振にそれほどのエネルギーがあるとすれば、それを利用して発電ができるのではと思ったのだという。出資者を得て設計したのが、2つに分かれた円錐状の筒で(下図)、短い下部が地面への固定基部となり、その上に中空の円筒がつながれた構造になっている。上部の円筒は樹脂で固めたカーボン/グラス・ファイバーでできていて、固有の共振周波数を持っている。その空洞部の中間に磁石と銅線コイルがあり、円筒の振動で交流を発電する。円筒は丈夫で軽く、基礎を頑丈にする必要もないから全体のコストも高くならない。ギアや回転部材もないからメンテも少なくできる。超高速コンピュータによる計算で、設置する場所の風に適した素材の最適組み合わせをほぼ見つけているようだ。

 現時点での発電能力は、2.75メートル高さのもので100W。これまでの風力発電に比べると発電効率は低いが、設置間隔を狭くしても問題は起きないので、設置面積当たりで見るとほぼ同じになると想定され、間もなくインドで実証試験をする段階に来ている。回転翼がないために騒音が発生することはなく、鳥に被害を与えることもない。都心部のビル風がよく吹く所も設置に適しているというから、これまでの風力発電設備と競合しない場所は多い。

 上部の円筒に風が当たると、筒に沿って風が分かれて流れるが、その裏側で風が合流するときに空気の渦(乱流)ができ、円筒を押したり引いたりする状況になる。それによって円筒が振動するが、その振動が円筒の共振周波数に近くなると、振動が急速に大きくなる。その振動でコイル内にある磁石が動かされて発電するという仕組みになっている。高層の建物を設計するときには、風で建物が共振しないように苦心するそうだが、Vortex Bladelessでは逆に、この共振をエネルギー源として有効に利用していることになる。

 これまでの風力発電では、回転翼を回した後、風の流れは大きく乱れるが、隣接して別の設備を建てる場合には、風が元の安定した流れに戻るまでの距離以上の間隔を置いて建てなければならない。だが、Vortex Bladelessの円筒式風力発電機では、風が円筒の表面を流れれば良く、必ずしも安定した風である必要はない。短い距離を置いて設置できることから、従来のものに比べて密集した設置ができ、単位面積当たりの発電能力が飛躍的に大きくなる。同社ホームページには、住戸に一つずつ取り付けられるようになる、という説明もあり、巨大な設備になるようには思えないが、今後の開発次第ということかも知れない。