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世界が注目するペロブスカイト太陽電池

東大が最高変換効率を達成、早期実用化も


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2019年9月号からの転載)

 世界的に普及が進みつつある太陽電池は、2018 年末の世界の設置容量が500GW を超えました。その主流は現在、結晶シリコンを使ったものですが、ペロブスカイト太陽電池(PSC)と呼ばれる新しいタイプの太陽電池が、世界的に注目されています。東大研究チームが、PSC のミニモジュールで最高変換効率を達成し、話題になりました。今回は、この次世代の革新的太陽電池PSCの可能性について探りたいと思います。

ペロブスカイト太陽電池(PSC)のミニモジュール

ペロブスカイト太陽電池(PSC)のミニモジュール

世界で熾烈な研究開発競争

 PSCは、発電層に有機金属ハライドペロブスカイトを用いた太陽電池の総称です。シリコンの結晶をスライスして作るシリコン太陽電池とは製造方法がまったく異なり、ペロブスカイトの原料をインクのように基盤材料に塗って作るため、フィルム状の軽くて曲げられる太陽電池も簡単に作ることができます。フィルム状太陽電池は、既存の太陽電池では設置が難しかった場所にも設置できる上、PSCの場合にはシリコン太陽電池並みの高効率が期待されることから、次世代の高性能低コスト太陽電池の本命として世界で熾烈な研究開発競争が繰り広げられています。
 2015年から始まったNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の産学連携プロジェクト「ペロブスカイト系革新的低製造コスト太陽電池の研究開発」で、東大研究チームが最高変換効率を達成しました。プロジェクトリーダーを務める東大大学院総合文化研究科・広域科学専攻広域システム科学系の瀬川浩司教授に話をうかがいました。

ペロブスカイト太陽電池の研究開発を行う瀬川教授の実験室の様子

ペロブスカイト太陽電池の研究開発を行う瀬川教授の実験室の様子

――世界が開発競争を演じる背景と日本企業の対応は?

 「PSCは、超低コストで超高性能が実現可能と考えられているからです。海外ではすでに太陽光発電が十分安いエネルギー源になっていますが、それよりさらに安くなります。PSCは、モジュール価格だけでなく設置費も安くできます。例えば、現状で何十kgもの重さがある太陽電池を屋根に設置するには2人以上での作業が必要ですが、ロール・ツー・ロール方式(ロール状の基板を使った生産方式)で作った軽量のPSCの場合、設置作業は1人でも短時間で簡単にできます」
 「PSCは、すでにCIGS(銅、インジウム、ガリウム、セレンが主原料)やCdTe(カドミウムとテルルの化合物)などの化合物半導体太陽電池を超える変換効率を実現しています。単結晶シリコン太陽電池と比べると変換効率は少し下回りますが、2、3年のうちにPSCの変換効率がシリコン太陽電池を上回り27%になる可能性が高い。タンデムにすれば30%は軽く超えるでしょう。最近の太陽電池の国際学会では、発表の半分以上がPSCの関連研究です」
 「日本では、フィルム型PSCを東芝、積水化学工業が、高効率・高耐久性を目指すガラス基板のPSCをパナソニックやアイシン精機が開発しています。材料費と製造コストが非常に安いため、世界ではPSCが次世代太陽電池の本命と考えられています」

ミニモジュールで世界最高の変換効率20%超

 これまで小面積のPSCの単セル(0.1cm2以下)で20%を超える変換効率を示すものは多く報告されてきましたが、直列モジュールで20%を超えるものはありませんでした。東大研究チームは、カリウムを添付した有機金属ハライドペロブスカイトを用いることで、小さな面積の単セル(0.187cm2)で22.3%、さらに3 直列ミニモジュール(2.76cm2)で20.7%の変換効率を達成しました。PSC モジュールの変換効率としては世界最高で、とても画期的なものです。

――今回の成果をどうみますか

 「ペロブスカイトやアモルファスシリコンなど薄膜で作る太陽電池は、短冊状に何十ものセルを直列につないだモノリシックモジュールを作り込む技術が必要です。ミニモジュールでこのような作り込み技術を確立すれば、大きな面積に展開することができます。今回はこの作り込み技術に成果のエッセンスがつまっています」
 「短冊状に塗布するのは難しいですが、まず透明導電膜にレーザーエッチングで切れ目を入れ、次に酸化チタン層、ペロブスカイト層、ホール輸送層を製膜したあと2 回目のレーザーエッチングで切れ込みを入れ、セルを切り分けます。最後に、全面に金蒸着(金を蒸発させ、基板に付着させ基板上に金薄膜を形成する方法)して、3 回目のレーザーエッチングで切り目を入れると直列モジュールになります」(

図 ペロブスカイト太陽電池ミニモジュールの作製工程

図 ペロブスカイト太陽電池ミニモジュールの作製工程
出所:東大のプレスリリースより

 今後は、このモジュールの作り込み技術を瀬川教授がリーダーを務めるNEDOプロジェクトの参画企業に移転し、実用化を進める計画です。

ペロブスカイトの有効な用途

――用途として有効なのは?

 「ペロブスカイト太陽電池は軽量化でき簡単な施工になるので、施工費も安くなります。近年、地震や豪雨などにより太陽光パネルの倒壊など事故リスクが懸念されていますが、非常に軽いフィルム型のPSCをビルの壁面に張り付け、密着して設置できれば、安全性を担保しつつZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及に貢献できます」
 「PSCのさらなる高効率化が進めば、今後普及が見込まれる電気自動車(EV)の硬い曲面に、太陽電池を張り付けることも可能になります。従来型のシリコン系太陽電池のセルをクルマの屋根に張り付ける技術は実用化されていますが、見た目、セルが目立ってしまいます。PSC は硬い曲面にもスプレイ塗装で作り込むことができ、車体と一体化できます」
 「IoT(モノのインターネット)が進んだとき、例えば、数兆個のデバイス電源をどのように賄うか。PSC の環境光発電で電気を供給できれば、充電フリーIoTデバイスになります。スマホにPSCを搭載すれば、環境の光で充電できるようになる時代が来るでしょう」
 今回の東大研究チームのペロブスカイト太陽電池の最高効率達成は、早期実用化に道を開く成果として大きな期待が寄せられています。再生可能エネルギーの技術開発で、“ゲーム・チェンジャー” が登場する日が近づいています。



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