暴れる太陽磁場で気候が変動

書評:宮原 ひろ子 著
『地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか: 太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来 』


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

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電気新聞からの転載:2019年7月5日付)

 地球温暖化の予測はシミュレーションによるが、実はこれが頼りない。2000年から2011年まで、ほとんど地球の温度は上昇せず、「ハイエイタス(=停滞の意)」と呼ばれた。この時、ほとんど全てのシミュレーション予測は上振れで外れた。その後温度は上がり、16年にピークになったが、これはエルニーニョ現象による一時的なもので、その後は2年続けて下がっている。今年の数値がどうなるか見ものだ。

 シミュレーションは、地球の温度を変える機構として、CO2などの温室効果ガス、硫黄化合物などのエアロゾル、および火山の影響は考慮している。しかし、実は過去の再現が出来ない。1910年から40年の間はかなり地球温暖化が進んだ。また、1300年から1850年の間は小氷期と呼ばれ、地球は今よりかなり寒く、テムズ川やオランダの運河には氷が張り、人々はスケートをした。フランドルの画家ブリューゲルの絵を見ると、当時は雪が多かった。この小氷期が起きたメカニズムはよく解っていない。

 そこでこの本。まずは、巨大なスケールで、荒々しい太陽を描くことから始まる。中心では核融合が起き、外部では荷電粒子が対流し、それが巻き起こす磁場が太陽の自転によって大暴れをして、黒点になり、白斑になり、ときには爆発的にコロナを宇宙に放出する。毎日同じに見える太陽だが、もしも磁場が見えるなら、毎日奇怪に変化する、不気味な太陽が見えるだろう。

 次いで「宇宙気候学」の謎解きとなる。黒点の数で測定される太陽活動の強さが、地球の気候に影響するようだ。これは、小氷期には黒点の数が極端に少なかった、という発見に始まった仮説だ。しかしすぐに反論が出た。太陽の光の量は安定していて、小氷期を説明できない。

 そこで提案されたのが、太陽の磁場に着目した仮説だ。太陽磁場は、普段は、宇宙からの高エネルギーの放射線を遮蔽している。しかし、太陽活動が弱ると、この遮蔽がなくなり、放射線が大気に降り注ぐ。すると原子がイオン化されて、それを核として雲が生成され、気候が寒冷化する。著者は、このメカニズムを、分かりやすく、丁寧に、ポンチ絵を混ぜて説明してくれる。未解明な部分が多いけれど、太陽活動が地球の気候に結構影響していることも、確信させてくれる。「宇宙気候学」の解説として秀逸。


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「地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか: 太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来」
宮原 ひろ子 著(出版社:化学同人)
ISBN-10: 4759816615
ISBN-13: 978-4759816617