IPCCが主張する健康便益は本当か?

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(英 Global Warming Policy Foundation(2019/06/19)より転載
原題:「The Health Benefits of Ignoring the IPCC」)

 パリ気候条約の裏には、影響などお構いなしに、エネルギーと水の使用を減らそうという強い動きがある。富裕国はきわめて成功した環境衛生活動を実施している。これは水とエネルギーの豊富な使用に依存しているが、これらの国々は、そうしたものを放棄しようとする様子はまったくない。それなのに、気候「機械」は貧困国の人々にそれと同じ便益を享受させまいと決意しているようだ。この方針は、2050年の時点ですでに2億人の生命を失わせかねない。
 地球温暖化を1.5℃以下に抑えるという最近の報告で、気候変動に関する国際パネル (IPCC) は公衆衛生論争にまちがった情報をもたらした--特に最近の、気候と健康に関するWHO報告と、第1回WHO大気汚染と保健に関する世界会議 (WHOGCAPH) に誤情報が持ち込まれている。そのIPCC 報告は、いくつかとんでもない主張をしているのだ:

世界的にバイオエネルギーに転換すれば、脱炭素化は実現できると彼らは主張する。この政策は「地獄へ一直線」と言える。
地球温暖化により「発展途上国の貧困者が最も苦しむ」と彼らはいう。だがこの主張を行うために、IPCC報告は気候変動が公衆衛生に与える影響についてのWHO公式推計を無視してしまった。その公式推計は、かなり限られた影響しかないと示唆しているのだ。
強硬な脱炭素化政策は、21世紀を通じて大気汚染により生じるはずの死者1億人を予防する、と彼らは主張する。

 大気汚染は確かに問題だが、提示されている解決策はウソだ。ありがたいことに、発展途上国の政府はIPCCのレシピなどに従うつもりはないようだし、ましてヒラリー・クリントンによる、「健康な」調理ストーブを使うことで屋内大気汚染に対処しようという発想などは無視している。
 むしろかれらは化石燃料、特にLPGに注目している。これは石炭やバイオマスより便利だし、都市部の屋内や周辺大気汚染を有効に削減できるのだ。
 2030年までに、世界最貧層の最大10億人がIPCC無視することで便益を享受するだろう。

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【 著者紹介 】
 ミッコ・ポーニオ (Mikko Paunio) MD, MHS は1961年フィンランドのトゥルク生まれ。ヘルシンキ大学を卒業し、同大学で1990年に博士号を取得。1991年にブリュッセル自由大学でポスドク研究を行い、ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学校を1993年に卒業 (保健科学修士)。公衆衛生の認証専門家 (ヘルシンキ大学、1999) であり、ヘルシンキ大学で一般疫学の非常勤教授を務める。
 学者一家の出身であり、社会民主党員の三代目。1977年にフィンランド社会民主党に入党。これまで以下の機関に勤務 : フィンランド保健厚生研究所、ヘルシンキ大学、ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学校、欧州委員会、世界銀行、フィンランド社会問題保健省。アメリカ科学保健評議会の科学政策諮問委員会委員。全米保健研究所アメリカ医学図書館に、刊行物40点が所蔵されている。
 1987-88年には若手医学研究者として、フィンランド首相の設置したエネルギー委員会において、各種一次エネルギー源の健康影響分析を担当。
 キャリアを通じ、一貫してエネルギー問題に取り組み続けている。

解説:キヤノングローバル戦略研究所 杉山 大志

 「開発途上国において、化石燃料の代わりに再生可能エネルギーを用いることで、大気汚染の健康影響軽減など、様々な便益が共に実現する」という主張をする論文が多く書かれ、IPCCやWHOでも大きく取り上げられるようになった。ポーニオは、この「温暖化対策に伴うコベネフィット(共便益)」という議論は誤っており、現実には化石燃料を利用することで得られる便益は極めて大きく、その使用を制限することは開発途上国の人々の幸福を奪うものだ、と述べている。
 Global Warming Policy Foundationの既往の報告書が、山形浩生氏によってこのたび邦訳され、公表された。ここに許可を得て紹介する。

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