日本文明とエネルギー「気象の狂暴化」特集(2)

地球温暖化の足音


認定NPO法人 日本水フォーラム 代表理事

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氷河の融解

 地球温暖化の議論は難しい。温暖化の虚実、特に温暖化の原因につては難しい。しかし、原因はどうであれ地球規模の温暖化は進んでいる。
 10数年前、私が温暖化に関して初めて衝撃を受けた写真がある。あるシンポジウムで登山家であり医学ドクターの今井道子のプレゼンテーションでの写真だった。今井さんが約40年前、ヨーロッパ・アルプスへ行った時の氷河と再訪問した時に撮った写真であった。
 半世紀たつか経たないうちに、約400mもの厚さのヨーロッパ・アルプスの氷河が消えてしまっている。融けた後の岩盤には、何万年、何千年の間に徐々に滑り落ち、固い岩に氷河が付けた削り跡も見える。
 氷河の融解は螺旋を描いて進行していく。今まで氷河の白が太陽光をはね返していた。ところが、少しでも氷河が溶け、その下から黒色の岩が出てくれば、今度はその岩が太陽の熱を吸収していく。温度を持った岩盤が、今度は下から氷河を温めてしまう。
 ひとたび氷河が融けだすと、氷河は螺旋を描いて融けていく。氷河の融解は一度始まると止まらない。

永久凍土の融解

 シベリアやアラスカの凍土も溶けだしている。年平均気温が0℃以下になれば、地中の水が凍って凍土になり、年平均気温が-5度になると永久凍土となる。永久凍土は北半球の大陸の20%を覆っている。
 近年、このシベリアとアラスカの凍土に融解が頻繁に報告されている。この凍土の中にはメタンや二酸化炭素が含まれているため、融解に伴い大気に放出され温室ガスの増加に寄与してしまう。その大気温の上昇によってさらに凍土の融解が促進されてしまう、という説が有力である。
 ナショナルジオグラフィックの2007年12月号では、アラスカの岩石氷河が融解して、岩石交じりの氷が森林をなぎ倒していく写真が公表された。その流れ出す氷は年間2mという速度で、森林を潰していっている。その迫力には鳥肌が立ってしまった。
 この凍土の融解も螺旋を描くように進展していく。凍土が融ければその周辺の大地は太陽に直接さらされ、地中の温度はさらに上昇していき、凍土の融解は促進していく。

日本の温暖化

 地球規模の気候変動の影響だけではない。日本列島でもその影響は数多くみられようになっている。特に日本列島は南北に3500kmと長い。この日本列島での現象を丁寧に観察することで温暖化の進展が見えてくる。特に、南の九州から北海道への生態系の遷移が、温暖化を実証していくこととなる。
 小学生の頃、ミカンの産地は熊本、愛媛そして静岡と習った。しかし、21世紀の今、新潟の佐渡でも出荷している。
 日本に稲作が伝わってきたのは南のアジアからであり、日本の稲作は温暖な西日本を中心にして発達した。東日本や東北は冷害に苦しめながら品種改良を繰り返しどうにか生産を確保してきた。
 しかし、寒冷帯に近い北海道はそうはいかなかった。20世紀中末まで、北海道の米は収穫されても美味しくなく、政府買い上げのコメの中で、厄介道米(やっかいどうまい)と嘲笑されていた。しかし、21世紀になると様相が変わってきた。北海道のコメが関東や東北のコメ価格を上回ってしまったのだ。
 北海道のコメの冷害は格段に減少した一方、本土のほとんどの府県で高温障害が拡大しているという。
 昆虫の生息域の遷移も著しい。国土交通省が実施している「河川水辺の国勢調査」でも、昆虫の生息域の北へ遷移が報告されている。(図―1)は、ナガサキキアゲハの生息の北限を示している。この10年間で近畿地方から中部地方にまで移動している。
 このようなデータを見ると、温暖化が足音を立てて近づいてきていることが分かる。


図-1

不思議な海水温の上昇

 2018年、ナショナルジオグラフィックで、衝撃的な海の異変が報じられた。2018年1月、オーストラリアのグレートバリアリーフでの異変である。生物学専門誌「Current Biology」に発表された調査研究の結果、海水の上昇によってアオウミガメが99%メス化していた。
 アオウミガメの性は卵にいるときの温度できまる。海水温が上昇しているのである程度予測をしていた研究者たちも、その深刻な結果に驚愕している。
 しかし、この海水温の上昇はあまりにも激しい。大気温ならともかく、海水温がそのように急激に上昇するものだろうか?
 気候温暖化の議論で一番不可解な点である。