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福島第一原子力発電所 廃炉事業の現状とこれから


東京電力ホールディングス株式会社 原子力・立地本部長代理 兼 福島第一廃炉推進カンパニーリスクコミュニケーター


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(「環境管理」からの転載:2019年3月号)

 福島第一原子力発電所の事故から8年が経過した。現在は原子炉の安定した冷却状態が保たれ、廃炉へ向けた作業を着実に進めている。
 事故当時、大量の放射性物質が海洋へ流出したが、その後、流出を抑制する様々な対策を講じた結果、港湾内外の海水の放射能濃度は事故直後と比べ100万分の1程度まで低下している。
 その一方で、福島県では事故の影響で今なお4万人以上の方々が避難生活をされており、ご迷惑ご心配をおかけしている状況にある。当社は廃炉作業を安全かつ着実に進め、地域に戻られる方々の安心に繋げていきたい。
 今回、その廃炉作業の状況や進捗についてご報告させていただく。

はじめに

 2019年3月11日、福島第一原子力発電所の事故から8年が経過する。
 当社の事故の影響で、今なお多くの方々にご負担ご心配ご迷惑をおかけしていることを、あらためてお詫び申し上げます。
 事故を起こした1~4号機では、溶融した燃料のある1~3号機原子炉の冷却、日々発生する汚染水の処理、環境への放射性物質の飛散・流出抑制など様々な対策を進め、現在は安定した状態を維持している。
 事故当初、港湾への高濃度汚染水の流出や、原子炉建屋からの放射性物質の飛散など、環境へ大きな影響を与えた。現在では、環境への影響を低減する様々な対策を進めた結果、港湾内外の放射性物質の濃度は事故直後と比較して100万分の1程度まで低下し、建屋からの放射性物質の放出量は10億分の1程度にまで低下している。
 地域にお戻りいただく被災者の方々に、再度、ご心配をおかけすることがないよう、今後も安全を最優先に廃炉作業を安全かつ着実に進めていきたい。
 福島第一原子力発電所の廃炉作業は、「廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議」にて審議・決定した「福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下「中長期ロードマップ」)に基づいて進められている。「中長期ロードマップ」は国と当社によって継続的な見直しが行われ、2017年9月に第4回の改訂版が取りまとめられた。その基本的姿勢は、①安全確保の最優先とリスク低減重視の姿勢の堅持、②廃炉作業の進展に伴い、現場状況がより明らかになってきたことを踏まえた廃炉作業全体の最適化、③地域・社会とのコミュニケーションの重視と一層の強化である。
 主要な作業である「汚染水対策」、「1~3号機の使用済燃料の取り出し」、「燃料デブリの取り出しに向けた準備」、「放射性廃棄物対策」、「原子炉への循環注水冷却」、「環境線量低減対策」、「労働環境改善」については、「中長期ロードマップ」のマイルストーン(目標行程)に従って進め、その進捗状況について毎月取りまとめて公表している。

1. 汚染水対策

 福島第一原子力発電所では、事故で溶けた燃料を冷やし続けるために水を循環させながら、常に燃料に水をかけ続けている(図1)。その燃料に触れた水と建屋内に流れ込む地下水が混ざることで新たな汚染水が発生している。汚染水は段階的に放射性物質を取り除き、環境へのリスク低減を行った上で敷地内のタンクに保管している。日々増え続ける汚染水の問題は発電所が有するリスクを下げる上で大きな課題であり、「汚染源を取り除く」、「汚染源に水を近づけない」、「汚染水を漏らさない」の三つの基本方針を掲げ、汚染水を環境へ流出させないために重層的な対策を実施してきた。

図1 /汚染水と原子炉循環冷却の概念図

図1 /汚染水と原子炉循環冷却の概念図

 「汚染源を取り除く」では、汚染水に含まれる放射性物質の大半を占めるセシウムとストロンチウムを重点的に取り除くために設置した「セシウム吸着装置」(サリーおよびキュリオン)によって最初の処理を行う。その後、トリチウム以外の大部分の放射性核種を取り除く能力のある多核種除去設備(ALPS)(図2)で浄化処理を行い、処理水としてタンクに保管している。現在も汚染水の処理は継続しているが、事故当初に発生したストロンチウムを含む高濃度汚染水(RO濃縮塩水)は、2015年に浄化処理を完了した。

図2 /多核種除去設備(ALPS)

図2 /多核種除去設備(ALPS)

 「汚染源に水を近づけない」では、汚染水増加の要因となっている地下水が原子炉建屋等に流れ込む量を抑制する対策として、2018年に「凍土方式による陸側遮水壁(凍土壁)」を完成させた。これは、1~4号機の原子炉建屋やタービン建屋等を囲む約1,500mの氷の壁である。地中深さ約30mの管にマイナス30℃の冷媒を循環させ氷の壁を造成している。これにより、山側から海側に向かって流れている地下水の抑制効果を確認している。それに先立ち、2014年からは、原子炉建屋等から離れた場所で地下水を汲み上げる揚水井「地下水バイパス」を稼働。さらに2015年からは、建屋近傍の井戸である「サブドレン」を稼働させ、地下水位の制御を行いながら原子炉建屋等に近づく地下水の量を減少させている。井戸によって汲み上げた地下水は、排水基準を満たしていることを確認後に海洋へ排水している。そのほか、雨水の土壌浸透を抑える「敷地舗装(フェーシング)」も、計画エリアの約94%が完了した。
 これらの対策により、地下水・雨水起因の汚染水の発生量は約490m3/日(2015年12月~2016年2月平均)から約110m3(2017年12月~2018年2月平均)にまで減少し、現在は100m3を下回るときもある。
 「汚染水を漏らさない」では、2015年に海際の地中深く約30mにまで鋼管を打ち込み、鋼鉄の壁を設置することで、汚染した地下水の海洋への流出を防ぐ「海側遮水壁」を設置している。これにより、地下水の港湾内への流出が大きく抑制され、構内の除染作業などの効果も合わせて、港湾内の放射性物質濃度は、事故直後と比較して100万分の1程度にまで減少した(図3)。また、汚染水を貯めているタンクについても、当初使用していた漏えいリスクのあるフランジ型タンク(部材をボルトで繋ぎ合わせたタンク)から溶接型タンクへのリプレースも進めており、2019年3月末までには完了予定である。これにより、タンクからの漏えいによる環境汚染リスクは大きく減少する。

図3 /港湾内のセシウム濃度の変化

図3 /港湾内のセシウム濃度の変化

 現在、貯蔵しているタンクには多核種除去設備(ALPS)によって浄化された処理水が100万m3あり、取り除くことのできないトリチウムが残っている。この水をどのように処分するかについては、国の小委員会で、技術観点に加え風評被害など社会的観点も含めた総合的な議論が進んでいる。小委員会では、被ばく低減を優先したためにトリチウム注1)以外の核種がタンクに残っている状況も含めて説明し、環境へ処分する前には二次処理を行い、トリチウム以外の核種は法定基準を満たす方針としている。当社は小委員会で示される方針に基づき、責任を持って対応していく所存である。

注1)
トリチウムは普通の水素に中性子が二つ加わった水素の仲間で、三重水素とも呼ばれる。水素とほぼ同じ性質を持っており、主に水として存在し、自然界や水道水のほか人間の体内にも存在する。弱いベータ線を出すが、そのエネルギーは小さいため紙1枚で遮ることができる。日常生活でも飲水等を通じて体内に入るが、新陳代謝などにより体外に放出される。

2. 使用済燃料の取り出し

 原子炉建屋上部にある使用済燃料プールには、発電に使用された使用済燃料等が貯蔵されている。破損した建屋から使用済燃料等を取り出し安定した場所に移送することは、発電所全体のリスクを下げる上で大変重要な工程である。使用済燃料は、密閉構造で除熱、遮へい機能がある「キャスク」という頑丈な金属製容器に収納して取り出すが、その作業はすべて、放射線を遮へいする効果のある水中で行う。事故当時4号機は、定期点検中であったため、すべての燃料が使用済燃料プールに保管されており、2014年12月に1,535体すべての燃料取り出しが完了した。この4号機での知見や経験は、1、2、3号機へ活用していく。
 3号機はガレキ撤去作業を進めたが、放射線量が非常に高い状況であったため、除染と遮へい等を実施し放射線量を低下させた。その後、使用済燃料取り出しに必要なクレーン設備やドーム型の屋根を設置し、燃料取り出しを遠隔操作で行うための機器の試運転、および操作技術習得のため実機による訓練を実施している(図4)。3号機からの使用済燃料取り出し開始は、2019年3月末からを予定している。

図4 /3号機の事故当時と現在

図4 /3号機の事故当時と現在

 1号機は使用済燃料取り出しに向けて、事故当初に放射性物質の飛散を抑制するために設置した原子炉建屋を覆う建屋カバーを解体する必要があった。このため、放射性物質の飛散防止に細心の注意をはらいながら、クレーンを遠隔操作で作業を行い、2017年12月に解体作業を完了した。現在は、次の段階である原子炉建屋最上部のガレキ撤去作業等を行っている。
 事故当時水素爆発を起こさなかった2号機では、使用済燃料プールから燃料を取り出すために、原子炉建屋上部の一部を解体する必要がある。現在は、解体時における放射性物質の飛散抑制策等を決定するため遠隔操作による最上階全域調査を進めており、解体に向けた検討など準備を行っている。
 1号機と2号機は、「中長期ロードマップ」のマイルストーンで示しているとおり、2023年度目途で使用済燃料取り出し作業を開始する計画である。

3. 燃料デブリの取り出しに向けた準備

 事故で炉心溶融(メルトダウン)を起こした1~3号機には、燃料と燃料を覆っていた金属の被覆管や制御棒などの構造物が溶けて混ざり、再び冷えて固まった燃料デブリがある。燃料デブリを取り出すには、考えられる様々なリスクを洗い出し、最適な取り出し方法を検討しながら具体的な取り出し機器の開発を進めなければならない。そのためには燃料デブリの位置や性状を把握する必要があるが、非常に高い放射線環境下であるため、人間が近づくことは不可能である。そのため間接的に内部の情報を調査する方法として、宇宙線由来のミュオン(素粒子の一種)による透視技術や、高い放射線に耐えるロボット等を開発し、様々アプローチで調査を進めている。各号機における内部調査の進捗状況は以下のとおりである。

(1)1号機

図5 /1号機格納容器内部調査装置(資料提供:国際廃炉研究開発機構(IRID))

図5 /1号機格納容器内部調査装置
(資料提供:国際廃炉研究開発機構(IRID))

 2015年4月に投入した形状変化型ロボットによる調査結果を踏まえ、2017年3月に、つり下ろし式カメラセンサーを搭載したロボット(図5)を投入し、原子炉格納容器地下階の状況を調査した。その結果、原子炉格納容器の底の映像や放射線データなどの情報を取得することができた。2019年度には潜水機能を持ったボート型の調査装置を投入する計画で、格納容器内で確認された堆積物のサンプリングも行う予定である。

(2)2号機

図6 /2号機原子炉格納容器内部調査の様子(2019年2月)

図6 /2号機原子炉格納容器内部調査の様子
(2019年2月)

 2017年1~2月に実施したカメラやロボットによる調査結果を踏まえ、2018年1月に、ガイドパイプの先端に取り付けたカメラや線量計を備えた調査装置を用い、原子炉格納器内の原子炉圧力容器を支えるペデスタル内側の状況調査を実施した。その結果、原子炉の真下にあたるペデスタル底部全体に堆積物が広がっていることや、燃料集合体の一部が落下していることを確認した。燃料集合体の一部の周辺に確認された堆積物には、燃料デブリが含まれているものと推定している。2019年2月には、初めて堆積物に直接触れる調査を実施し、小石状の堆積物を掴み上げ動かせること等を確認した(図6)。

(3)3号機

 3号機は格納容器内部の水位が高いため、2017年7月に水中遊泳ロボットを用いた調査を実施した。水中遊泳であるため走行型のロボットと違い、調査を進めながら臨機応変にルートを見定めることで、原子炉の真下にあたるペデスタル内側を広範囲に調査することができた。画像からは、元々原子炉内部にあった構造物が原子炉の真下に落下している様子や、燃料デブリを含むと思われる堆積物等の多くの情報を得ることができた。
 1~3号機とも、これまでの調査で原子炉内部の様子が少しずつ明らかになってきている。今後も調査や分析、検討を継続し、2019年度には燃料デブリ取り出し方法と取り出しを実施する初号機を確定し、2021年内に燃料デブリの取り出し作業を開始する計画である。

4. 放射性廃棄物処理への対策

 廃炉の進捗に伴い発生する放射性物質を含む廃棄物への対策も、重要な課題の一つである。福島第一原子力発電所で発生する放射性廃棄物は敷地外へ持ち出すことができないため、現在は発電所内に点在する一時保管エリア等で保管している。焼却可能な廃棄物に関しては焼却処分を進め、焼却できない金属・コンクリートなどに関しては表面線量に応じて適切に保管しているが、より一層のリスク低減に向け、新たな保管施設や減容設備の整備も進めている。
 2018年1月末には、「固体廃棄物貯蔵庫」の第9棟が完成した。この貯蔵庫は鉄筋コンクリート造りの地下2階・地上2階建てで、200Lドラム缶約11万本相当を保管可能で、表面線量が高いものは地下階、表面線量が低いものは地上階に保管する運用となっている(図7)。「固体廃棄物貯蔵庫」は放射性廃棄物をしっかりした建物の中に保管することによって環境への影響を極力小さくすることができるため、今後も廃棄物の発生量に合わせて増設していく計画である。
 廃炉作業で発生するガレキ、伐採木、使用済保護衣、水処理二次廃棄物等の放射性固体廃棄物については、当社が10年程度の発生予測を踏まえて取りまとめた「固体廃棄物の保管管理計画」に基づき、焼却・減容による廃棄物の低減や保管管理に必要な建屋の建設計画を進めている。また計画では、2020年度には「増設雑固体廃棄物焼却設備」、2022年度には不燃物を圧縮切断・破砕する「減容処理設備」等を順次整備していく予定である。

図7 /放射性固体廃棄物の管理

図7 /放射性固体廃棄物の管理

5. 労働環境改善

 事故当初はすべてのエリアで全面マスク・防護服の着用が必要であったが、現在では1〜4号機からの放射性物質の放出量が減少し、加えて地表面の除染作業などを進めたため、簡易マスク(使い捨て防塵マスク)・一般作業服などで作業できるグリーンゾーンが構内の96%にまで拡大した(図8)。これにより作業時の服装をより軽装備にすることができ、作業性が向上しただけでなく、夏場の熱中症発症の防止にも繫がっている。

図8 /作業服エリアの分布

図8 /作業服エリアの分布

 事故を起こした1~4号機の周囲で高い放射線量の場所も残っているが、その他の主要な作業エリアでは空間線量率が5μSv/時以下である。大半の作業員の月平均被ばく線量は低い水準で保たれ、2018年11月の平均被ばく線量は0.33mSv/月以下であり、被ばく線量の線量限度に対し大きく余裕のある状況が維持できている(図9)。(法令上の線量限度:50mSv/年かつ100mSv/5年)
 2015年には入退域管理施設と直接繫がる、約1,200人を収容できる地上9階建ての「大型休憩所」が運用を開始した。休憩所内にはコンビニエンスストアやシャワー設備が完備され、食堂では地元の食材や旬の素材を活かした温かい食事を提供している。
 入退域管理施設内には救急医療室(ER)を設置しており、医師・救急救命士・看護師が24時間体制で常駐している。構内には4台の救急車を配備(構内対応2台・構外搬送用2台)し、2017年5月にはドクターヘリで搬送するためのヘリポートが完成し、万一のための救急対応に備えている。

図9 /作業員の月別個人被ばく線量の推移(月平均線量)

図9 /作業員の月別個人被ばく線量の推移(月平均線量)

おわりに

 これからの福島第一原子力発電所は、燃料デブリの取り出し等、廃炉の本格化に向けて未踏領域の課題に挑戦する段階に入っていく。そうした中で私たちは、地域の皆さまをはじめ、現場で働く作業員の方々、周辺環境に対する安全確保を最優先に、関係機関等と連携しながら、計画的なリスク低減に取り組んでいきたい。その過程では、今後新たに明らかになっていく状況なども踏まえ、作業の継続的な見直しも行っていく。
 当社としては、30年から40年かかる廃炉作業を、安全かつ着実に進めることはもちろんのこと、発電所の状況や作業の進捗、得られた分析データなどを皆さまへわかりやすく説明することで少しでも安心いただけるよう引き続き努力してまいりたい。



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