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借りた技術と“意図しない”省エネ

効率的推進に求められる長期的な視座


慶應義塾大学産業研究所 教授


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EPレポートからの転載:2019年2月1日号 )

 政府は2030年に向け、日本経済がオイルショック後に実現したようなスピードでの省エネの実現を目指している。高い省エネ目標は、その勝算があることを必ずしも意味しない。3E(安定供給、環境、経済性)+S(安全)の探求において、むしろ日本も欧州も、原発依存度の低下、石炭火力の縮小、再エネ推進による電力価格の高騰など、他の手段に手詰まり感があるとき、それは中心的な課題へと返り咲く。
 省エネは企業の競争力を高め、経済成長を牽引するという期待もある。他の要素が一定であれば、それは正しいだろう。しかし、それは安価で利用可能な技術が多く残されていた時代の話である。もはや省エネは、エネルギーコストの低下以上に、資本や労働コスト増となることも多い。補助金による推進は、政府・企業双方にとって安易だが、社会的な投資効率を低下させる。効率的な省エネ推進のために、歴史から何を学ぶことができるだろうか。

“意図しない”省エネ

 第一次オイルショックの衝撃は、日本経済における省エネを大幅に改善させた。一次エネルギー消費あたりの実質GDPによって定義される一国経済のエネルギー生産性は、1973年から90年までに、年率3.1%もの改善を実現している。それは、高度経済成長期におけるスピード(55~73年で年率1.4%)からの倍速である。まさに省エネの「黄金期」であった。
 しかしマクロでの測定値には注意が必要である。鉄鋼業や化学業などのエネルギー多消費産業は、高度成長期に大きく生産を拡大し、オイルショック後には相対的に縮小している。それによって、真の省エネは、高度成長期には過小に、黄金期には過大に評価されているのだ。
 こうした産業構造変化などを補正した著者の推計によれば、高度成長期での見かけ上の省エネ(年率1.4%)に対して、真の省エネ改善率は年率2.0%へと改訂される。経済学者ガーシェンクロンは、途上国は海外からの輸入機械の投資などによって、意図せずとも技術進歩を享受できると指摘した。こうした“borrowed technology”(借りた技術)は、省エネ効果も持つ。それは生産能力拡張投資などを通じて実現した、“意図しない”省エネである。
 他方、黄金期に過大評価された見かけ上の省エネ(年率3.1%)は、構造変化を統御すれば、年率1.5%へと半減する。真の省エネのスピードでは、比較するオイルショック前後の期間において、むしろ減速していたのである。エネルギー価格の上昇に呼応したオイルショック後の“意図した”省エネよりも、原油価格が安定していながらも借りた技術による“意図しない”省エネが上回るのだ。

長期的な視座の必要性

 バブル崩壊からリーマンショックまで(90~2008年)、見かけ上の省エネは年率0.8%へと大きく減速するが、その4分の3はエネルギー多消費産業の相対的な縮小によって説明される。補正後の真の省エネはわずかに年率0.1%である。この期間、京都議定書の発効など官民にわたって省エネへの対策が強化され、また原油価格の独歩高にもかかわらず、省エネ改善はわずかとなった。同時期、米国では省エネ改善の減速は限定的であり、日本との生産性格差を縮小させている。
 何を学ぶことができるだろうか。第一に、省エネの進行は、エネルギーの価格上昇よりも、安価に利用できる技術の存在に大きく制約されていることである。安価に利用可能な省エネ技術が潤沢な、成長の初期段階においては、生産拡張や更新投資によって、意図せずとも省エネは織り込まれていく。それは近年の中国にも見られるとおりである。
 他方、エネルギー価格上昇によって誘発される省エネは、すでに限定的である。さらなる省エネを促すため、エネルギー消費やCO2排出への価格付けは効率の低い政策となろう。第二に、政策的に省エネを“前倒し”せずとも、近い将来に更新投資の時期が来れば、利用可能な省エネ技術は機械設備へと体化され、自ずと組み込まれる可能性が高い。日米比較によれば、日本において省エネが改善した後の時期に、米国がキャッチアップしていくプロセスを見出すことができる。日本が一歩先んじて、高くつく最新の省エネ技術を前倒しで導入しようとも、その多くはいずれより安価になり合理的となった段階で、他国での更新投資に伴って自ずと組み込まれていく。20年もすれば、ほとんど全ての機械は経済的な耐用年数を迎え、安価で利用可能な省エネ技術を体化した資本財へとリプレースされる。
 省エネ推進はすでに半世紀近い歴史を持つ。そのレースはイタチごっこだ。わずかなリードのために資源を費やす価値は限られ、地球規模の温室効果ガス削減への影響もわずかである。エネルギー費用の高い負担は、将来技術の研究開発における高リターンを担保する。year単位からdecade単位での省エネ推進へ、時間軸を捉え直す必要があるのではないだろうか。