ドイツの電力事情(2)

── CO2 削減は進んだか?


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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2020年の温暖化目標断念と政治状況

 CO2排出削減が順調に進んでおらず、1990年比40%削減するという2020年目標の達成はほぼ不可能であることは、昨年12月に開催されたCOP23以前から既に複数の研究機関やメディア注6)により指摘されていた。2017年10月にはドイツ環境省が「2020年削減目標△40%に対して31.7~32.5%と大幅未達となる見通し」との試算をまとめている。こうした状況を受けて、自国で開催されたCOP23においてメルケル首相は、2020年目標の達成は事実上断念することを表明せざるを得なかった。演説の中では、「雇用の確保が課題であり、それはドイツであっても容易ではない」と、この問題の政治的な難しさをにじませていた。
 なお、2017年9月に行われた総選挙で、メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は大きく議席数を減らした。当初模索された自由民主党(FDP)、緑の党との連立協議における対立点は大きく二つで、一つは移民政策であり、もう一つはエネルギー・気候変動政策であった。緑の党が主張する、温暖化目標の法定化や再生可能エネルギーのシェアを2030年までに100%に引き上げるといった政策にほかの2党は合意できず、また、3党ともに石炭・褐炭火力設備容量を低減させるべきであることは合意したものの、そのスケジュールには大きな開きがあり、協議は決裂に至ったという。
 その後、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は社会民主党(SPD)との連立を成立させたが、脱石炭・褐炭は新政権でも大きな争点となっている。脱石炭・褐炭について議論する委員会(正式名称「成長・構造転換・雇用委員会」)の設立が閣議決定されたものの、経済省と環境省の間でこの委員会の主導権を巡る争いがあり、結局、内務大臣・労働大臣も加えた4大臣が共同運営することに落ち着いた注7)。本委員会は、2018年末までに具体的な石炭・褐炭関連施設の閉鎖時期や、影響を受ける地域に対する補償プログラム等を決定する方針であるが、委員会の人選は難航し、当初4月末には決定されるはずであったものが、6月26日にようやく第1回委員会の開催にこぎつけたことが報じられている。しかし、筆者が本年(2018年)5月に政府関係者にヒアリングに行った際にも、「この委員会がどうなるか、どういう結論を出すかは全く見通せない」とのコメントが得られており、これからどのような補償措置を講じて、石炭・褐炭産業の廃止に向けた合意を取り付けるのかが注目される。

写真1/ COP23 会場におけるメルケル独首相(筆者撮影)
写真1/ COP23 会場におけるメルケル独首相(筆者撮影)

写真1/ COP23 会場におけるメルケル独首相(筆者撮影)

脱原発か、脱石炭か

 脱石炭が難しいのは雇用の問題だけではない。福島原子力発電所事故を契機に、ドイツは2022年を年限としてすべての原子力発電所を停止することを法定化したので、石炭火力発電及び原子力発電という、安定的かつ安価な電源の二つを同時に縮小していかねばならないのだ。2017年のドイツの電源構成のうち、褐炭・石炭は37%、原子力は11.6%を占めている。
 ドイツは、脱原発と脱石炭のどちらを優先するのであろうか。この疑問について、COP23の際に、ドイツ環境省次官に直接訪ねる機会を得た。

図4/ドイツの2017 年電源構成(出典:Agora Energiewende“ The Energy Transition ”)

図4/ドイツの2017 年電源構成(出典:Agora Energiewende“ The Energy Transition ”)

 ドイツ環境省が開催した「長期低排出発展戦略(以下、長期戦略)」注8)に関するサイドイベントに登壇したドイツ環境省次官(写真2の右から2人目)に、「ドイツは脱石炭の期限を決められるのか?」と問いかけたところ、非常にポリティカルな課題であること、また、「脱原子力と脱石炭を同時に進めることは非常にチャレンジングである」との回答があった。重ねて、脱原子力と脱石炭ではどちらの優先順位が高いのかを問うと、「脱原子力は既に法で決定していること」との回答があった。彼の個人的見解ではあろうが、脱原子力と脱石炭では脱原子力を優先させる、ということはすなわち、温室効果ガス削減の目標未達については目をつぶる可能性もあるということだろう。


写真2/ COP23 におけるドイツ環境省主催サイドイベント(筆者撮影)

写真2/ COP23 におけるドイツ環境省主催サイドイベント(筆者撮影)

 本年5月に、CDUのシンクタンク(Konrad-Adenauer-Stiftunge.V.、以降KAS)の気候変動政策担当者に行ったインタビューでは「2020年目標については、原子力をブリッジテクノロジーとして使って達成しようと思っていたが、条件が相当変わったのであるから、拘こだわらないほうが良い」とのコメントが得られたが、さらに2022年以降は原子力というゼロエミッション電源を利用することは全くできなくなるのだ。
 2020年の温室効果ガス削減目標未達については、環境NGOからの批判はあったものの(COP期間中の化石賞受賞)、長期的な目標は変えないと述べることでそれ以上の強い批判からは逃げ切ったドイツであるが、今後温暖化対策にどう取り組み、どう説明責任を果たしていくのかが注目される。

ドイツは温暖化対策の旗を降ろすのか?

 ドイツは、2020年目標(1990年比40%削減)は撤回することで合意したと報じられている注9)ものの、目標達成の時期を20年代前半に先送りし、2030年目標(1990年比55%削減)については維持する方向だとされる。
 その理由について、KASの気候変動政策担当者は「Energiewendeに反対するというのは、政治的に難しい。メインストリームに反する。CDUだけでなくすべての政党がポジティブに扱わなければならないテーマ」とコメントした。しかし彼は同時に、「エネルギーシステムを変えるには、補助金なしに経済的に勝ること、エネルギーセキュリティにおいて優位であることが必要。気候変動については、副次的効果だと強く申し上げたい」、「エネルギーミックスを変えるのは、新技術の開発もしくは経済的に勝る技術がでてきたとき。気候変動でエネルギーミックスを変えることはない」とも述べた。「気候変動は副次的効果」という言葉が、政権与党のシンクタンクにおける気候変動問題担当から発せられたことには衝撃を受けたが、複数の世論調査から、ドイツ国民は気候変動問題には総論として賛成するもののコスト負担については把握しておらず、負担の許容レベルも低いことがうかがい知れる注10)。現実的には彼のいう通りなのかもしれない。
 選挙で大敗してから連立政権発足まで約半年を要した第4次メルケル政権は、その後も移民政策に関して、メルケル首相と内務大臣が激しく対立するなど、政権運営の不安定さが指摘されている。前述した通り、温暖化対策に対する国民の支持は厚いので、メルケル首相は今後も「温暖化対策の旗手」であろうとするだろう。
 しかしドイツのこれまでの経験から、CO2削減はエネルギー全体を俯瞰的にとらえた「総力戦」が必要であることがわかる。
 具体的な施策としては、省エネの促進と、今まで「電力の転換」に留まり、エネルギー全体での低炭素化が十分ではなかったことを反省し、運輸や熱など幅広いセクターでの低炭素化が必要だとされている。ドイツが今後どのように温暖化対策を進めるのか。そこには日本にとっても多くの学びがあることだろう。

注6)
climatechangenews.com “Germany to miss climate targets ‘disastrously’ :leaked government paper”
https://www.cleanenergywire.org/news/germany-set-widely-miss-climate-targets-env-ministry-warns
注7)
Forbes “Germany’s Planned Coal Exit Hits A Wall”
https://www.forbes.com/sites/davekeating/2018/05/31/germanys-planned-coal-exit-hits-a-wall/#1ab24f9e1d02
注8)
パリ協定は、すべての締約国に対して、2020年までに「長期低排出発展戦略」を策定し、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に提出することを求めている。パリ協定第4条19項、COP21決定パラ35、36。
注9)
ロイター2018年1月9日 https://jp.reuters.com/article/de-co2-idJPKBN1EY01Y
注10)
例えばスイスのザンクト・ガレン大学の調査によれば、ドイツ国民の75%が段階的な脱石炭についての法律を今すぐ制定すべきであり、そのために多少エネルギーコストが上昇することは受け入れると回答している。しかし一方で、日本の環境省が行った日独英3国の消費者調査によれば、再生可能エネルギー賦課金の負担程度を知っている消費者はドイツではわずか3%であることが明らかになっている。コスト負担については次回以降で詳述したい。


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